商品や製品を扱っている会社では、決算日に「何が何個あるか」を実際に数えて確認する。これが、「棚卸し」だ。このとき在庫として残っている商品などまだ売れていないものは、損金にすることができない。そのため実際の数を数えて資産に計上し、翌期以降に売れたときの損金にすることとなる。
会社の場合、棚卸資産の評価は、特に税務署に届け出なければ自動的に「最終仕入原価法」が適用される。この評価方法は同じ品目の在庫が複数あった際に、最後に仕入れた時点での単価をもって評価する方法である。
例えば決算日の1週間前(最後の仕入)に、1個10円で5つ仕入れた商品があったとしよう。決算日に15個の在庫が残っていた場合、本当は1つ10円で仕入れたものでない商品が混ざっていたとしても、簡便的に1つ10円として考えることになる。「10円×15個=150円」を期末商品棚卸高とし、原価から除外して資産に計上していくことになるわけだ。
この棚卸は、税務署の職員が見張っているというわけではない。そのため利益調整を目的として、ごまかす人が出てきやすい項目である。在庫をたくさん増やせば利益が出るし、在庫を減らせば利益を減らすことができる。数のカウントをきちんと行わないと、利益の水増しや脱税に繋がってしまうのだ。そのためできる限り複数人でカウントを行い、集計時のメモなどは捨てずに保管しておくようにしておきたい。仕入れ側から追っていったときに在庫数量と大幅なズレが出たりすると、利益調整が判明する場合もあるのだ。
また経営上は在庫をできるだけ減らせば、手元の現金を増やすことができる。なぜなら在庫とは、お金が形を変えたものだからだ。しかし社員にとって在庫はお金に見えないので、乱暴に扱ったり、品切れで怒られるくらいならと多めに発注したり、場合によっては自分の利益のために横流ししたりすることもある。そのため、経営側がきちんと管理していくことが重要だ。
もともと在庫は、在庫切れによる販売ロスを防ぐために持つ物である。注文してから入庫するまでの期間が短い商品については、多量に持つ必要はない。在庫は金額ベースで見ていることが多いが、「何日分を持っているのか」という視点で見てみると、過大な在庫がすぐに分かるだろう。製造業などの場合は一度に大量に製造すると1個あたりの単価が下げられる関係で、造り過ぎが起きやすい。「気づいたら不良在庫の山だった」などという状態に陥らないように、適切に管理してく必要がある。
棚卸は、多くの中小企業で決算時にのみ行われている。しかし中には月次・週次で棚卸しをする会社もあり、この場合には大きな成果をあげることもある。飲食店などの冷蔵庫ですら週1回でも棚卸しをすると、材料の回転がよくなり、無駄の排除や鮮度維持によって利益へと繋がることも多い。
業種は変わるが、ソフトウェア制作や建設業などでは売上が当期に計上できないにもかかわらず、前倒しで作業が発生している場合がある。こうした際、担当者の人件費や外注費については「仕掛品」として資産に計上することになる。これは売上がまだ計上できていない以上、原価だけ前倒しで計上することはできないためだ。売上に直接連動する原価については1年以内の短期前払費用の特例が使えないので、売上との対応を確認していくことになる。この点は税務調査でもよく指摘される項目であるため、事前の準備・対応が大切だ。