「会社を経営するからには、簿記くらい知っていなければいけない」なんていうことを、言われる場合がある。注意しなければいけないのは、ここでいう簿記と一般的な意味の簿記とでは、少し意味が違うという点。多くの駆け出し経営者がここでつまづき、日商簿記3級の勉強をはじめてしまったりするが、それは困りものだ。
どんなに簿記をマスターしたところで、会社の売上は上がらない。また、顧客満足に直接つながるものでもないから、創業期に経営者の貴重な時間を割いて行うべきことなのかということだ。日商簿記3級の勉強などを始めた時点で、「儲からない会社」への道に入り込んでしまったことになる。
それでは、経営者の仕事とは何なのか。それは簿記というスキルによって出来あがった試算表や決算書などを使い、経営の舵取りをしていくことにある。簿記は知識・経験のある人をパートで雇うこともできるし、税理士など会計事務所に外注することもできるだろう。しかし、経営者の仕事は外注することが困難だ。そのため“使われる側”のスキルに逃げ込まず、しっかり経営者としての仕事で力を発揮して頂きたい。
簡単に言えば、簿記とは決算書を作るためのスキルである。現在は複式簿記を使うので、便宜的に右と左に勘定科目という見出しのようなものと、日付、金額および摘要等を記録し(帳簿に記録するという意味で記帳とも言う)、1年などの期間を定めて集計すれば決算書ができあがる。手作業では非常に大変なため、パソコンの会計ソフトを使うことになるのだ。
この簿記は、日々の記帳さえしていれば大部分の作業は終わってしまう。しかし決算などの際には少し専門的な「決算調整」という手続を行い、決算書を作っていくこととなる。ちなみに決算調整の目的としては、1年間の損益を正しく示したり、見せかけだけの利益で関係者に誤解を与えないようにしたりするためなどが挙げられる。大変な手続のように感じるかもしれないが、日々の記帳さえきちんとしていればそれほど難しいものではない。また通常は税理士や会計事務所の方で行ってくれるので、経営者がこのレベルまで知識・スキルを持つ必要はない。
「これは経費になりますか」
多くの社長からこんな質問が会計事務所に寄せられる。
個人事業の場合は「必要経費」、株式会社などの法人では「損金」などと言うが、これらはほぼ同じ意味と考えて構わない。経費にできれば課税所得を減らすことができるので、税金が減る。もし税金を減らすことができれば、手元のキャッシュを増やすことができるので、事業上の投資に使ったり、商品やサービスの品質を改善して顧客に満足してもらったり、あるいは自分や社員の給料を増やすこともできるというわけだ。経営者として“やりたいこと”に使うことができるようになるため、経費になるかどうかは経営者にとって大きな関心事なのである。
日本の税法では、簿記上の処理はどうあれ経費にできないものが決まっている。そのため、やり手の経営者には税金の知識を持つ方が多い。また質問する能力も高いので、分からないことは遠慮などせず社員や専門家にどんどん質問してくるのだ。これこそ、得た知識を経営に活用し、早く自分の夢を実現しようと頑張る経営者の姿なのだろう。