店舗ビジネスはなぜ早期撤退するか

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 加賀谷 豪

 

理美容室、飲食店、小売店、リサイクルショップなど、店舗ビジネスと言えば、思い浮かぶ業種がいくつかあります。これらの店舗ビジネスは、一般消費者を対象としたビジネスであるがゆえに、知名度が高くなりやすいというメリットがあります。マスコミなどへの露出機会も多く、有名店などになれば、大きな利益が見込まれるでしょう。また、知名度が上がることで、フランチャイズによる店舗展開の可能性も高まり、事業拡大がしやすいというのが大きな特徴です。

一方、店舗ビジネスは事業継続が難しい側面があり、開業したものの、早期撤退してしまうケースが非常に多い業種です。

なぜ、早期撤退するケースが多いか、店舗ビジネスの特徴を踏まえながら、考察してみましょう。

小売業の開業

最近の傾向としては、小売店の開業は特に難しい傾向にあります。ネットビジネスが盛んになり、携帯電話一つで買い物が出来てしまう昨今において、店頭にて物販を行うビジネスは、小規模事業者としては、かなりリスクが大きいと言えるからです。
加えて、書籍・文房具・衣類・食品など、どの店舗物販においても、まとめ買いが便利な大規模資本による大規模店舗のニーズが大きいため、地方の商店街などの小規模事業者は苦戦を強いられているのが現状です。小規模の小売店を開業するとしたら、かなりのニッチ市場をターゲットとして展開するなど工夫をしない限り、仕入コストで大企業に勝つことができないでしょう。

さらに今日では、オークションや、アマゾン、ジモティ、メルカリなどの個人売買やネットショップがインターネット上で盛んに行われる時代になってきております。店舗ショップで実物を物色し、実際の購入はネットショップで行うという消費者も増えてきているため、食品など以外の小売店舗は、大企業でさえ苦戦を強いられております。

リサイクルショップなどには、インターネット上の売買(=Eコマース)の普及により、それらを並行して行うことで売上アップにつなげているショップも一部ありますが、新品としての物販を開業するには、よほどの得意なニッチ市場や、強い仕入ルートなどがない限り、お勧めできません。

また、店舗を構えるには、店舗家賃や在庫の確保など、非常に大きなコストが掛かります。まず個人売買やネットショップとして開業し、着実に実績を積んで、仕入などのルートや得意市場を確保してから、本格的に店舗販売も手掛けるというステップを踏んだ方が得策と言えるでしょう。

初期投資のリスク

飲食店や、理美容業などは、小売業と比較して、ネット売買などの競合がいないため、開業の敷居は低い印象があるかもしれません。

しかし、実際の飲食店や理美容業などの開業は、一定の経験を従業員として積んだうえで、開業するケースが多く見受けられます。これらの業種は、小売業とは違い、技術を売るビジネスでもあるため、未経験者で開業するというのは、ほぼ不可能です。従って、決して敷居が低いわけではございません。
また、店舗ビジネスに係る従業員は、相対的に給与水準が高いとは言えず、一定の経験値を積んだ後に、独立意識が高まる傾向があります。故に、開業者同士のライバルは常に存在します。
その上、開業時に掛かる初期投資が大きく、その分だけリスクも大きい傾向にあると言えます。
特段掛かる費用としましては、店舗に係る内装、水回り、テナントの初期費用、備品の購入、機械の購入、在庫の準備などで、開業前に支出する金額が、非常に大きいです。

また、近年は、都市圏、地方ともに店舗ビジネスの競争が激しく、オープン前の広告宣伝も重要になることから、初期に係る広告宣伝費も大きくなる傾向です。
もしこれらの初期費用と、開店後約3か月分の固定費などを確保した上で開業するとなると、首都圏の理美容業でも1,000万円以上、飲食店の場合だと1,500万円~2,000万円必要になると考えられます。
これらの初期投資資金を自己資金で賄うことが出来れば理想ですが、通常日本政策公庫などの借入で一部補てんする必要があるため、開業後の経常支出の中で、借入金の返済という項目が、必要不可欠となっていきます。

固定支出が大きくなる

店舗ビジネスを開業するにおいては、前述のとおり、金融機関からの融資が必要になるケースがほとんどです。その場合、借入後は、毎月、一定の借入返済を余儀なくされます。
店舗ビジネスの大きなポイントは、初期投資に加えて、固定費と固定支出が大きくなる傾向が高いということです。

まず固定費に分類される人件費です。都市圏以外の地域では、まだまだ景気回復となっていない地域も多々ある中で、着実にどの地方も最低賃金は段階的に上昇しています。加えて、国の年金の財源を将来的に十分確保が必要であることも影響して、中小企業における社会保険料未加入の取締が厳しく行われており、給与支給に係る社会保険料の負担も確実にかかってきます。

今後も日本においては労働環境を整備することが重点化されていることから、雇用に係る事業者の負担は不可欠であり、特に中小企業が多い店舗ビジネスにおいては、固定費に占める人件費、社会保険料、労働保険料などの負担割合が大きいことを、十分理解しておく必要があります。

それに加えて、店舗ビジネスに係る重要な固定費のもう1つが広告宣伝費です。特に、広告宣伝媒体が多様化しているため、広告媒体の適正な選択しだいでは、低コストで効果を発揮するケースもありますが、全般的に広告媒体で効果を上げるために必要なコスト価格は増加傾向です。
テレビ、ラジオなどで取り上げられた場合でも、テレビやラジオを視聴している人口が減ってきているため、その効果も一時的なものとなり、やはり継続的に、適正なコストを広告にかけなければ、顧客確保につながりません。

最後に、固定支出の重要な1つとして、借入の返済があります。毎月定額の返済を行うこととなりますが、借入の返済というのは、あくまでの借りたお金を返すだけなので、その元本部分の支出は「支出」であっても、「経費」とはなりません。つまり経費とならない現金支出なのです。利息部分のみ経費となります。

例えば、利益が50万円あった場合、その50万円には税金がかかります。しかしながら、利益が50万円あったとしても、借入の元本返済が50万円あったとしたら、お金は残ってはいません。お金が残っていないのに、税金負担がかかるという現象がおきます(細かく言うと減価償却も考慮しなければなりませんが、今回は割愛します)。

さらに、借入金額が大きくなればなるほど、経費にならない借入の元本返済金額が大きくなり、いわゆる現金が残っていないのに、利益が大きく発生する状況となる可能性が高くなります。店舗ビジネスは、店舗展開を行うたびに、融資が必要となるケースが多いため、前述のような、資金繰りの状況に比較して税金負担が大きくなるリスクが増えてくるのです。

継続した店舗経営に必要な心掛け

店舗ビジネスには、知名度や店舗展開など、成長率の面で大きな魅力はあるものの、上述の特徴があるが故、資金繰りがショートして長続きしないというケースが多いのです。
そのため、店舗展開においては、代理店契約や、フランチャイズ契約など、資金繰り負担が少ない手法を工夫して活用し、リスクヘッジを行いながら展開する必要があるのです。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 加賀谷豪(税理士、ファイナンシャルプランナー)
株式会社ピクシス 代表取締役/税理士法人アクシオン 代表社員

1981年 北海道札幌市生まれ
同志社大学卒業後、税理士事務所業界経験12年の内、起業者の税務顧問をメインとして携わる中で、より起業支援に特化した研修、勉強会などのサービス提供を目的として、平成26年に株式会社ピクシスを設立。マーケティング戦略・ネット集客に係るプランニングにより、売上のビジョンを明確化するという目的と、それによる充実した事業計画を作成活用することで、融資対策につながるご提案を目的とした起業者向け勉強会を継続的に行っている。平成28年に税理士登録とともに、税理士法人アクシオンを設立

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