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課題・悩み
市販の型紙を使って制作したバッグを、画像・動画にしてテキスト・音声を付けてブログやYouTube等にアップしたいです。
ネットには型紙自体ではなく型紙のパッケージの画像を表示したいのですが、何か法律上の問題はありますか?
回答:商業的利用には気を付けましょう。
梅田 明彦(うめだ あきひこ) / シグマ国際特許事務所
大手商社でご経験を積まれた後に弁理士として独立された梅田アドバイザー。物静かな雰囲気をお持ちですが時折見せる笑顔が非常に素敵なアドバイザーです。知識と経験が豊富ですので知的財産や知的資産に関する事は梅田アドバイザーにご相談ください。
一般に型紙の法的保護には、著作権法、意匠法、不正競争防止法が関係します。市販の型紙には、商業的利用を禁止する注意書きが書かれている場合もあります。実際、型紙やそれを使った作品について争われた裁判例は多くありません。順に考えてみましょう。(特許や実用新案も関係する場合がありますが、今回はその可能性がないので省略します)
- 著作権法について
他人(甲)が創作したバッグ(甲バッグ)の市販の型紙(甲型紙)を用いて、貴女(乙)が同じバッグ(乙バッグ)を作った場合、乙バッグは甲バッグを複製(コピー)したことになります。
甲バッグが著作権で保護されている場合、乙バッグを作ることが、第三者に販売するため等の商業的目的の場合、甲の著作権を侵害することになりますが、個人的や家庭内で使用するため(私的使用)であれば、著作権の侵害にはなりません(著作権法30条1項)。
ここで重要なことは、甲バッグが著作権で保護されているかどうかです。バッグは、美的な創作物の一種で、応用美術の範囲に入りますが、実用品・日用品ですから、基本的には、実用性や機能性から離れて、独立して美的鑑賞の対象になるもの(例えば、英国アスコット競馬での一点制作のファッション等)即ち「美術の著作物」でなければ、著作権で保護されません。最近は、「個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを判断すべき」という柔軟な判断基準を示した裁判例もありますが、未だ定説とはなっていません。
そうすると、ご相談の甲バッグはおそらく実用品・日用品でしょうから、著作権で保護される可能性は非常に低く、その場合、ご相談の型紙を使って作られる乙バッグをネットにアップしても、著作権を侵害することにはなりません。
- 意匠法について
実用品・日用品であるバッグは、意匠権によって保護される対象です。そのためには、特許庁に意匠登録されている必要があります。ご相談の型紙やそのパッケージに意匠登録番号や意匠登録出願中の表示がなければ、意匠登録されている可能性は非常に低いです。但し、この表示は法律上努力義務なので、表示がなくても、意匠権の侵害を問われる可能性があります。
- 不正競争防止法について
他人の商品の形態をそっくり模倣した商品は、デッドコピーであるとして、その製造・販売等が禁止されています(不正競争防止法2条1項3号)。甲型紙を用いて制作した乙バッグが、甲バッグのデッドコピーになる可能性はありますが、乙バッグを第三者に売る予定がないのであれば、ネットにアップしても問題はありません。
- 型紙のパッケージについて
一般に商品のパッケージのデザインは、バッグと同様に、著作権で保護されたり、意匠登録されたり、不正競争防止法で保護されることがあります。商品のパッケージは、商品を包装し、商品の内容・特徴や販売者等を伝えるという機能を果たすものですから、バッグと同様に、応用美術の領域に入ります。従って、独立して美的鑑賞の対象になるものでなければ、著作権で保護されません。
バッグの型紙のパッケージは、創作性の高いデザインを施したものも多いようですね。そのようなパッケージは、著作権の保護の対象になるかもしれません。その場合、ご相談のように、バッグのレビューをアップする際に型紙のパッケージをネットに表示することは、著作権法で言う「公衆への上映」(著作権法第22条の2)になる可能性があります。
著作権の侵害を問われないためには、パッケージの表示と共に、少なくともその出所(型紙の作成者・販売者等)を表示しておくのが良いでしょう。意匠登録と不正競争防止法については、バッグについての上記説明と同様にご理解下さい。