起業・経営FAQ:特許の国際的なリスクについて

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
この質問への回答者

梅田 明彦(うめだ あきひこ) / シグマ国際特許事務所
大手商社でご経験を積まれた後に弁理士として独立された梅田アドバイザー。物静かな雰囲気をお持ちですが時折見せる笑顔が非常に素敵なアドバイザーです。知識と経験が豊富ですので知的財産や知的資産に関する事は梅田アドバイザーにご相談ください。

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課題・悩み

特許についての質問です。
日本のみで特許取得され、一般に公開されている特許技術(特許が登録済み)について、他国で同じ技術が特許申請された場合、公開されているから既にある技術として特許が取れないとのことですが、特許の審査官は世界で何億件もの特許技術の中から探し出すことは極めて困難かと思われます。データ検索できたとしても、言語の相違で検索から漏れる場合があるかと思います。

<疑問点>
1.このように盲点をつくように、日本で特許が成立している事の確認から漏れ、他国で特許承認されてしまうことは皆無なのでしょうか?

2.実務的に他国にある同一の特許技術はどのように把握できる仕組みとなっているのでしょうか?

回答:海外での事業展開の際には注意が必要です

1.疑問点1について、皆無とは言い得ません。
審査官も人間ですので、見落としたり見逃すことはあると思います。
実際、同じ技術について、日本、米国、欧州、中国に特許出願しても、審査結果が全く同じという経験はありません。(そういう場合が有り得ることは否定しません。)
しかし、各国の審査官が、審査過程で同じ技術文献を引いてくることはよくあります。

2.疑問点2について、下記に説明します。少し長くなります。

まず、現状です。
・日本で特許庁が発行した特許出願の公開公報、特許公報は、特許庁によってデータベース化されています。これら公報には、国際的な分類番号(IPC)や日本独自の分類コード(FI・Fターム)が付与されています。
従って、かなり細かく検索可能です。

・同様に、例えばPCT国際出願制度に参加している主要国でも、自国の特許出願・特許の公報について、IPCや独自の分類コードを付して、検索可能なデータベースを作っています。

・日本を含む主要国間では、特許データベースを相互に提供して自国の審査に利用しています。日本を含む多くの国のデータベースには、英文の要約が含まれており、技術の概要が分かるようになっています。
実際、米国の審査官が日本や中国の公報を引いてくることがあります。

・新興国・発展途上国は、特許制度が法制化されていても、審査に十分な人材や仕組みが整っていません。日本特許庁は、長年そのようなアジアの諸国に調査・審査等の面でも様々な支援をしています。日本での審査経過等の情報を英語で提供する、ということもしています。(各国の具体的な知財制度や現状は、JETROが豊富な情報を持っています。)

・審査実務では、各国の特許庁間の取り決めで、特許審査ハイウェイという枠組みを利用できる場合があります。
特許審査ハイウェイは、例えば自国(日本)で特許出願した発明が、自国の特許庁で特許可能と判断されたことを条件として、それと同じ発明を他国(米国)にも特許出願している場合に、自国特許庁での審査結果を、他国の特許庁が審査に利用できるようにする仕組みです。

このような現状を鑑みると、疑問点1は、あまり心配されなくても良いように思えます。
しかし、これはあくまで、他国できちんと審査されることが前提です。

海外には、無審査で特許と同等の権利を与える国があります。(日本の実用新案登録も無審査です。)
たとえば、中国は、日本と同様に、特許制度と実用新案登録制度とがあり、実用新案登録は無審査で行われます。
日本で権利が切れた技術を、中国の下請け業者が勝手に実用新案登録してしまい、この業者から、ライセンスを受けない限り中国では勝手に製造できないと通告されたケースも実際にありました。

海外での事業展開には、知財の面でも、十分に注意する必要があります。

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