みなさんこんにちは。日本橋で社会保険労務士事務所を経営している、ドリームゲートアドバイザー箕輪和秀です。
今回お伝えするのは、残業代についてです。来年2023年4月1日から「残業代についての大きな法改正」があります。
法改正により、起業する上においても2つの大きな影響があります。
起業される方は営業畑や職人タイプの方が多くいらっしゃいます。
残業代と言われても、「今から夢をもって起業するのに何が残業代だ。もっと働けば給与なんていくらでも払うよ。」と感じられる方が多いと思われます。おっしゃっていることは非常によくわかります。
しかし、社長以外、元部下や友人を従業員にして起業し、2年くらいで残業代請求を含めて内輪もめになったなどという話は、枚挙に暇がないほど見聞きしております。
「夢の実現が最優先、残業代は二の次」というのは残念ながらあくまでも経営者側の理論や考えであり、従業員側は正反対の考えになるということは強く意識しなければいけません。
- 目次 -
1.未払残業代の時効3年がマックス適用に
法改正により、未払い残業代の消滅時効(つまり残業代請求期間)が従前2年から3年に延長になったものが、最大限適用になります。
消滅時効とは、権利を一定期間行使しなかった場合、その権利が消滅してしまうことです。
残業代を請求する権利も時効があります。
元々これは、民法改正によるものです。
2020年4月の民法改正による貸金請求権時効が5年間に延長されたのを受け、労働基準法も改正され「残業代(割増賃金未払い)請求権の消滅時効も2年から5年に延長」されました。
しかし、急に5年とすると企業にかなりの負担となるため、暫定的に3年間とされました。あくまで臨時的な措置であり、今後5年に延長される可能性が高いです。
未払い残業代を従業員がまとめて請求する場合、過去の2年分から1.5倍の期間にわたり請求できることとなります。単純に考えて1.5倍です。
2020年4月1日以降の残業代から3年に
3年の対象になるのは2020年4月1日以降の残業代です。
つまり、2023年4月1日以降に、過去3年分の請求ができることになります。
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2.月60時間超の残業代が現行1.25倍から1.5倍に
1つ目よりインパクトはこちらの方があります。
あまり知られてないのですが、大企業では既に2010年から法定残業が月60時間を超えた場合の残業代は1.5割増しでした。
しかし、これも中小企業には負担が大き過ぎるということで「当分の間」適用を猶予されていたのです。この猶予されていたことが以外に周知されていませんでした。
既に大企業に適用されて10年以上になりますが、今回遂に働き方改革の一環として、その「当分の間」が終わりを迎えるときが来ました。
注)法定時間外労働が60時間を超えた場合です。1日8時間、1週40時間(一部特例事業あり)を超えた合計労働時間が60時間を超える部分が5割増しとなります。
例えばパートさんで6時間/日の労働時間の場合、8時間を超えた部分の合計時間です(6から8時間の部分ではありません)。
具体的な計算例
正社員でもパートさんでも考え方は同じです。まず時給に換算します。
- 月給 252,000円/月 所定労働時間 8時間/日 月から金までの勤務(週40時間)
- 土日祝休の月21日平均の労働(168時間)
- 時給換算 252,000円/所定労働168時間
- 時間単価 1,500円(月給でも1,500円のパートさんと同じと考えるとわかりやすいです)。
残業60時間までの部分
- 現行 1.25倍 1,875円
60時間超の部分
- 2023年4月1日以降 1.50倍 2,250円
毎月80時間残業したとすると
- 現行 1,875円×80時間=150,000円
- 2023年4月1日以降 1,875円×60時間+2,250円×20時間=157,500円
これが1人分で、×人数分の人件費が変わってきます。10人いれば75,000円/月 年間で100万円近くになります。
ちなみに過去の労働基準監督署が是正した残業代不払いの平均は658万円/社です。単純に期間が1.5倍+割増0.25倍と考えると、請求額は真水で5割増えてくるわけで、平均額は1,000万円を軽く超えてくると思います。
未払い請求を起こされると1,000万円の支払いを覚悟する必要があります。
【令和2年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果】
※支払額が1企業あたり合計100万円以上となった事案
(1) 是正企業数 1,062企業
うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、112企業
(2) 対象労働者数 6万5,395人
(3) 支払われた割増賃金合計額 69億8,614万円
(4) 支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり658万円、労働者1人当たり11万円
監督指導による賃金不払残業の是正結果より
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-b.html
未払い残業代請求があったときの抗弁(いいわけ)
さて、実際に未払い残業代請求を起こされた場合の抗弁(会社側の言い訳)もほぼ決まりきったものになっていますが、主なものを3つ取り上げてみます。
いいわけ1.定額(固定)残業代(手当は残業代として支給している)
- 営業手当や役職手当は残業代を含んでいる(又は残業代として支給している)。
- 基本給に残業代を含んでいた。
- なんだったら、年末に支給した3,000円のモチ代も、忙しいことに報いるための支給なのだから?残業代の一環だったと言うもの。
定額(固定)残業代自体否定はされません。
ただし残業代未払いの温床となりやすいので、労基署や裁判所もかなり厳しい姿勢になってきております。
60~80時間分を含んだ定額残業代は、裁判などで企業の姿勢を問われるため否定される可能性があり(元々残業を減らす気がないと思われる)、時間で言うと30~45時間程度に抑えて頂くのがベストです(改正後の判例が出てくるまで明確には言えませんが)。
また、必ず残業代に当たる対象部分を「時間や金額で明確に示す」ようにしてください。
基本給組込の例(おすすめしません)
- 例)基本給 252,000円/月 うち46,000円(30時間分)の時間外手当を含むものとする。
できれば基本給と手当は分けることをおすすめします。
- 例)基本給 206,000円 固定残業手当 46,000円(時間外手当30時間分の内払い分)
2つの注意点を挙げておきます。
- 注意1・絶対にやってはいけないのは、基本給25万円残業全部込み!というものです。起業してすぐの場合、ありがちだと思います。これは、いくら分の残業時間を含んでいるのか不明なため明確性に欠け、裁判では否定される可能性が高くなります(会社がごまかしていると思われやすい)。
- 注意2・定額で残業代を払っていれば、何時間残業させても支払いの必要がないと誤解している方も多くいらっしゃいますが、それですと世の中に残業代はなくなります。
対象時間(この場合30時間)を超えたら差額支払いを徹底してください。これがないと有効な定額残業代と認められない可能性もあります。
また裁判になると、これに利息や付加金(罰金的なもの)も加わる可能性が高いです。
従業員が1~2名であり、ごく稀に残業月60時間越えが発生するレベルであれば、残業代のコスト増はたいしたことはありません。
しかし、従業員が増えてきてそれが毎月のように発生するとなると、1年間で増える残業代の総額は決して見逃せません。
※1か月に60時間を超える時間外労働を行った従業員に対して、60時間を超える労働時間の割増賃金に代えて、有給休暇を与える制度も新設されています。これは「代替休暇」と言います。
厚労省パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/091214-2_04.pdf
いいわけ2.それは労働時間ではない(さぼり。早出。無許可。持ち帰り等)
これだけ残業代を請求してきたけど、あいつは毎日仕事中にスマホでSNSやゲームなどをやっていた。実際は労働時間ではなく、解雇したいのを勘弁してやっていたのだ。
またはこの時間は始業前や終業後であり勝手に仕事をしていた。会社は命じていないというもの。
現在、勤怠管理はシステムを導入すればスマホ一つで入力できます。またメールを送った場合もログは残ります。
そういった「勤怠の記録を否定する」ということは、会社がそれを証明する必要があり、余程の回数注意した記録があるなど(仕事中のゲーム、始業前・終業後の勝手な業務をやめること。またその時間・回数の記録)でないとなかなか難しいと思われます。
また、勝手に残業をしていたと言ってもそもそも会社に管理責任があり、黙認していたでは通りません。
いいわけ3.管理監督者である(管理職なのでそもそも残業代はない)
管理監督者とは以下のような方です。
- 経営者と同じくらいの権限がある。
- 出退勤(労働時間)は裁量がある。
- 一般の従業員に比して、その地位と権限にふさわしい給与や処遇を与えられている。
いわゆる、エリアマネージャーや営業部長以上くらいの立場の方ですが、中小企業で役員(取締役)以外に、このような方がいらっしゃるでしょうか?
ましてや起業したばかりで、社長以外に従業員1人。その1人が管理監督者・・・?
3番の給与に関しては一概ではありません。他の従業員の給与との格差によるからです。ちなみに、年収1000万円でも否定された判例がありますが、感覚的に最低でも年収800万円程度は必要かと思います。
正直、管理監督者は認められないケースが多いです。そもそも最初から高額な給与を払えることは少ないでしょう(あっさりと、起業当初から役員にする場合が多いです。その場合残業代は必要ありません)。
管理監督者について詳しくはこちら
https://jsite.mhlw.go.jp/iwate-roudoukyoku/content/contents/kanrikantoku.pdf
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結局、起業時から長時間労働ありきの事業計画では難しい
残業してくれる人に依存した「長時間労働ありきの事業計画」は、かなり難しくなっていると言わざるを得ません。
スマホ一つで何でも調べられるのですから、残業代を払わないなどというのは、起業リスク以外の何物でもありませんし、長時間残業ありきというのもリスクが大きくなります。
例えば、その従業員が体調を崩した瞬間に起業は破綻してしまいます(飲食店の店長として雇い入れた方が体を壊してしまい、代わりの人材が見つからないで、時短営業等を余儀なくされたなど、よくあることです)。
- 起業時から、なるべく残業が無くても回せる計画
- 残業自体を削減する
以上を経営課題の重要ポイントとしてご認識頂ければ幸いです。
残業削減に向けての例
- 残業は「事前申請」にして、必ず時間のチェック
- ボトルネックの洗い出しなど、単体の業務フローの見直し
- 定型業務は分散させ単純作業は任せる
上記、残業時間単価 2,250円ならパートさん2人は採用できます。
もちろん、就業規則や雇用契約書、36協定など労働関係の書面を整備することは大前提なのは、言うまでもありません。
起業形態によりいろいろと考えや違いはございますので、個別にご相談下さい。皆様の起業成功を祈っております。
注意)本内容は今から起業される方向けに、2022年6月現在の法律のポイントをわかりやすく掲載しているため、本記事の記載により生じたいかなる損害に関しても責任を負いかねます。
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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 箕輪 和秀(社会保険労務士 行政書士)
箕輪オフィス 代表
東京都中央区にオフィスを構え社会保険労務士の資格以外に行政書士の資格も持つ人情派のアドバイザー。
特に建設関連の業界に強く、多くのクライアントから支持を得ている。経営者にとって最善の方法を常に模索し、的確なアドバイスには定評がある。
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