融資が通りやすい「収支計画」の鉄則 ~元・銀行支店長が教える、創業融資の必勝法③収支計画~

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 川居 宗則

私は東京で「融資・補助金に強い専門家」として活動しているドリームゲート・アドバイザーの川居宗則です。銀行に32年勤務し、主に融資業務に従事、関わった案件は10,000件を超えます。2か店の支店長を経験して銀行の現場で感じたことを活かし、融資のアドバイスやセミナーを行っています。

さて、創業の資金調達には、計画書作りが必要となります。日本政策金融公庫では「創業の手引」という説明書をWeb上で公開しています。創業融資の審査に通るためには、この手引の理解を深めることが近道となります。

このコラムでは3回にわたり、元・銀行支店長の視点・経験から、全40ページにわたる「創業の手引」からここだけは押さえてほしいポイントを解説しています。

3回は、最終回となります。創業計画書の中で、金融機関が最もよく見る「収支計画の作り方」を採り上げます

収支計画「収入と支出のバランス

まず、日本政策金融公庫の創業計画書 収支計画記入例を見てみましょう。

【アパレルショップの創業 収支計画例】

1. 収支計画とは

事業においては、収入と支出がどうなるかということは大変重要です。上記の計画書では、収入は売上高、支出は売上原価と経費です。創業に際して、売上と利益の見通しをきちんと計画することから始めましょう。

収支計画は、収入から支出を差し引いた利益について、月次、または年次で数値を策定します(日本政策金融公庫の創業計画書は月次です)。事業者にとって、利益を安定的に計上することが大事です。その利益から、融資を受けた場合の借入金返済を行っていきます。

2. 売上高の計画

(1)策定方法

初めて売上高を策定する場合は、実績がないのでなかなか策定しにくいと思います。そこで、私が売上高の相談を受けた際には、J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]業種別開業ガイド 」を参考にしてくださいということをアドバイスしています。J-Net21業種別開業ガイドでは、300を超える業種の開業ガイドがあります。

本事例では、アパレルショップの創業です。J-Net21業種別開業ガイドでは下記のような参考例が記載されています。

【参考】:店舗面積約20坪のアパレルショップ(セレクトショップ)を開業する場合

 売上計画

店舗の立地や業態、規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。平日、土曜、日曜で来客予想数を変えるなど、細かく作りこむことが重要である。

あくまでも参考なので、店舗坪数、顧客単価等により、売上高の見通しは変わってきます。

(2)業種による様々な売上高算定

下記のように業種により売上高策定の考え方が様々です。創業計画書の右欄では、売上高を算定する根拠を記載して、実現性が高いことを説明する必要があります。創業する事例に最も近いものを選んで算定してください。

①商品別販売の業種(小売・卸売)

  • (商品別)商品単価 × 販売個数 の累計

扱っている商品数が比較的少なく、商品別の売上予測が立てられる場合になります。

②来店型サービス提供の業種(飲食業、美容院、整体院など)

  • 平均顧客単価 × 顧客数

来店型サービス提供の業種のほか、ネット販売などで様ざまな商品を取り扱う場合も平均顧客単価と顧客数から売上予測をします。

③設備が直接売上に結びつき、設備単位当たりの生産能力がとらえやすい業種(部品加工業、印刷業、運送業など)

  • 設備の生産能力 × 設備数

【例】業種:部品(ボルト)加工業

・旋盤 2

・1台当たりの生産能力 1日(8時間稼働)当たり 500

・加工賃 @50 円 月 25 日稼働

売上予測(1ヵ月)= 50× 500 × 2 × 25 日= 125 万円

④販売業で店舗売りのウェイトが大きい業種(スーパーマーケット、コンビニエンスストアなど)

  • 1(または1坪)当たりの売上高 × 売場面積

⑤人的な労働集約が高い業種(ビル清掃業、自動車販売業、化粧品販売業、など)

  • 従業者1人当たり売上高 × 従業者数

(3)損益計画

収入である売上高が策定できれば、支出である売上原価と経費を検討します。ここでも、下記の通り、J-Net21業種別開業ガイドに参考例が載っています。ただし、これをご自身の創業モデルに当てはめてアレンジする必要があります。例えば、アパレルショップにおいてメイドインジャパンの上質品に拘れば、原価率が高くなることが予想されます。

人件費は、社員とアルバイトの比率により変わってきます。立地や坪数により家賃も変わってきます。つまり、事業コンセプトが反映された損益イメージを持つことが重要です。

 ■損益イメージ

(4)1年後、または軌道に乗った頃

この欄は、よほど事業が軌道の乗るのに時間がかかる場合を除いて、基本的に1年後で説明しましょう。大事なことは、軌道に乗せるためにどのような販売促進活動を行うかということです。例えば、アパレルショップではメンバーカードを作りメンバー特典を設けることや、飲食店では、週替わりのランチメニューで固定客を増やすというような活動です。Webの発達により、SNSを活用して情報発信する事業者が増えてきています。

良いものを作れば自然とお客さまが来るような時代ではありません。お客さまに購入していただく価値を認めてもらう活動をしなければ軌道に乗せるのは難しいでしょう。そのための経費(例えば広告宣伝費)がかかるならば、計画に織り込み、必要な運転資金の要素として計上することも可能です。

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借入金を返済することができる利益水準

1. 返済原資

返済原資とは、借入金の返済に充てられる資金のことです。期間は決算同様1年間です。キャッシュフローという呼び方をする場合もあります。

 返済原資=税引後当期利益+減価償却費

という算式です。

2. 返済可能年数

借入金を返済原資により何年で返済できるかという指標です。金融機関が最も気にしている指標といってもいいかもしれません。

 返済可能年数=借入金÷返済原資

金融機関は一般的に10年以内に返済できるかというところを見ています(不動産賃貸業など融資対象物件の減価償却期間が長い場合は、償却期間内で考えます)。10年を超えると、融資審査のハードルが高くなると考えておいたほうがよいでしょう。

ちなみに、日本政策金融公庫の「新規開業資金」では、設備資金が20年以内、運転資金が7年以内の返済期間設定になっています。開業では、設備資金、運転資金を併せて借りるケースがあります。その意味でも概ね10年以内で、全ての借入金を返済できる利益水準を意識することが大事です。

3. 計算例

業種:美容院

  創業融資希望額:1,000万円

  1年後の 年間の税引後当期利益80万円 減価償却費30万円

  ●返済原資: 税引後当期利益80万円+減価償却費30万円=110万円

  ●返済可能期間:借入金1,000万円÷返済原資110万円=9.0

よって、1年後には、借入金を10年以内(9年)で返済できる利益を確保する計画となっています。

ただし、1年後ではまだまだ 10年以内で返済できる利益を確保していないことがあるとは思いますが、できれば3年後までには達成しておきたいところです。

さいごに・無料相談をご利用ください

収支計画と、その計画により借入金を何年で返済できるかということについて説明しました。

創業をスムーズにスタートするためには、事業を早く軌道に乗せて、借入金の返済に心配の要らない利益を確保することが重要です。軌道に乗せるまでに十分な自己資金があるかどうかということも一つのポイントになります。

しかしながら、創業者お一人では、客観的な見方が難しいかもしれません。第三者のアドバイスがほしいときもあると思います。私は、これまで1万件以上の計画書を見てきました。創業計画のサポートがほしい場合などは、ぜひ一度ご相談ください。

初回相談は無料です。無料メール相談はこちら

【参考】

日本政策金融公庫 創業の手引、創業のポイント集 「創業の手引」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/sougyou03.html

日本政策金融公庫 国民生活事業 各種書式ダウンロード 「創業計画書」
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html

J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]業種別開業ガイド
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/guide/index.html

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 川居 宗則
(かわい むねのり) /経営デザインコンサルティングオフィス

長年金融機関に勤務し、融資課長、支店長を経験し、融資実行は5,000社以上という実績を持つ川居アドバイザー。融資以外にも、補助金・助成金なども相談できます。資金調達の力強いパートナーになる方です。

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ドリームゲートアドバイザー 川居 宗則

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