事業では開業時以外にも「設備の更新」や「仕入れ」などで融資が必要となることがありますが、その際に気になるのが「自己資金はいくらあればよいのか?」や「いくら借入れができるのか?」「そもそも個人事業主でも融資は受けられるのか?」ということでしょう。
この記事では、個人事業主の方が利用しやすい融資の種類や、融資を受ける際のポイントについて解説いたします。
- 目次 -
個人事業主でも融資は受けられる
金融機関にもよりますが、個人事業主でも融資は受けられます。法人かどうかより、財政状態に問題はないか、融資の利用使途や事業の見通しなどのほうが重要です。後述で融資を受けるためのポイントを紹介します。
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融資の種類と金利の目安
まずはひとことで「融資」といってもどのような種類があるのか、それぞれ金利はどのように異なるのかを理解しましょう。
融資は大きく分けて日本政策金融公庫のような「公的融資」と、銀行や信用金庫などの「民間融資」の2つに分かれますが、それぞれに違いがあります。
融資を受ける際の金利は、資金調達においてとても重要なファクターとなるため、公的融資と民間融資の金利差を考慮しながら融資計画を立てることが大切です。
<公的融資の金利>
- 日本政策金融公庫の新創業融資制度では、2.37~3.05%
- 東京都制度融資では1.5~2.0%(優遇なしの場合)
<民間融資の金利>
- 銀行系のビジネスローンや事業者ローンでは、8.0%~18.0%程度
(※金利はいずれも令和4年3月現在のもの)
その差は15~16%と大きな開きとなります。これを利息額に置き換えると次の通りです。
例)300万円を借入れ、5年間で返済する場合の1年間の利息額
- 民間融資金利18%、元金均等返済としたと仮定:利息額490,500円
- 公的融資金利3%、元金均等返済としたと仮定 :利息額81,750円
利息の差は当初の1年間で408,750円(18%の利息490,500円-3%の利息81,750円)となります。ビジネスローンにはすぐに借りられるというメリットがありますが、このように高い利息の支払いをしなければならないため、まずは低金利の公的融資の金利を基準にして事業資金の返済計画を立てましょう。
個人事業主にお勧めの融資ベスト3
個人事業の方が利用できる事業融資にはいくつもの種類がありますが、次にあげる3つについてはとくにおすすめといえます。
1.日本政策金融公庫からの融資(公的融資)
創業者や中小企業の方が、はじめに選ぶべきなのが日本政策金融公庫(公庫)の融資です。
民間金融機関の資金調達をサポートするという目的があるため、民間の金融機関がしにくい創業者や中小企業への融資を積極的に行っています。
公庫には、国民生活事業・中小企業事業・農林水産事業の3つの部門があり、個人企業や小規模企業向けの小口融資については国民生活事業が、中小企業向けの長期事業融資については、中小企業事業がそれぞれ対応しています。
<他の金融機関にはない特徴>
- 低金利・長期の借入れが可能
公庫では、創業者や中小企業に対しても、大企業に適用される優遇金利での貸付けを行っているため、信用力の低い個人事業主でも低金利で融資を受けられます。
また、返済期間についても、通常の金融機関では1~5年(設備資金については7年程度まで)というところが多いですが、公庫では設備資金については20年、運転資金については7年(一部20年)までの期間に対応しています。 - 創業者の融資に手厚い
公庫では、実績のない創業者であっても、一定要件を満たせば無担保・無保証で借入れをすることができます。
また、融資限度額も3,000万円(運転資金については1,500万円)と、他の金融機関にはない大きな額の申込みが可能です。
ただし、無担保無保証で利用できる新創業融資制度を利用する場合には、「一定の自己資金が必要」、「創業期間しか利用できない」などの条件があります。 - 融資審査が柔軟
公庫では、できるだけ多くの創業者・中小企業へ融資をするため、融資審査においても一般の金融機関より柔軟な対応をしています。
そのため、通常であれば財務内容が厳しい企業であっても、計画の内容や返済の見込みから問題がないと判断できるような場合に、貸付けに応じてもらえることが少なくありません。
2.信用金庫・信用組合からの融資 (公的融資)
「信用金庫」は、信用金庫法により設立された地域金融機関です。
信用金庫には、「相互扶助を目的とした協同組織である」、「地域内における中小・零細企業を対象としている」、「融資は原則として組合員に対して行われる」といった特徴があります。
信用金庫には創業融資に力を入れているところが多く、また、顧客の規模としてもマッチするため、個人事業主におすすめです。
ただし、信用金庫は、銀行に比べて、プロパー融資が利用しやすいという特徴がある半面、規模が小さなところが多いため金利などは高めとなります。
3.自治体の制度融資(公的融資)
日本政策金融公庫と同じく、創業者や中小企業が利用しやすいのが「制度融資」です。
「制度融資」とは、公的融資の一種で、都道府県や市町村などの自治体と金融機関、公的機関である信用保証協会の3者が協調して行っている融資制度です。
それぞれの役割としては、行政が制度の設計をし、金融機関は融資を行い、信用保証協会は公的な保証人となります。
制度融資も創業者や小規模事業者への融資の促進を目的としているため、日本政策金融公庫と同程度の金利、期間で融資を受けることができます。また、自治体によっては利子の補給や融資限度額の拡大、信用保証料の補助などの優遇をしているところもあります。
ただし、制度融資は自治体ごとに運用されており、それぞれの自治体で制度の中身や条件が異なるため、制度融資を利用する際は自分の自治体でどのような融資を行っているかを確認する必要があります。
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その他:銀行融資(民間融資)
「銀行」は、銀行法により設立された金融機関で、その規模により都銀と地銀にわけられます。都銀が全国を対象とした営業を行っているのに対し、地銀では都道府県単位での比較的狭いエリアを営業範囲としているところに主な違いがあります。
銀行融資には、他の資金調達方法と比べて、低い金利での借り入れができるという特徴があります。具体的な金利は、借入企業の信用力や実績により異なりますが、通常は2~4% 程度、優良な企業についてはさらに低い金利で融資をすることもあります。
また、大きな金額の融資に対応しており、企業の信用力や担保の有無、貸出条件によっては数億円以上の融資が可能です。
しかし、銀行や信用金庫といった民間の金融機関では営利を目的とした貸し出しのため、公的金融機関よりも借入れの難易度が高くいため、個人事業主の借り入れには向いていないでしょう。
とくに、信用保証協会の保証をつけないプロパー融資は、企業に相当の実績や信用力がないと行わないため、創業者や取引の浅い中小企業では利用が難しいといえます。
融資担当者が個人事業主を審査するさいにチェックする7つのポイント
金融機関の融資審査にパスするには、おさえておきたいポイントがいくつかあります。融資担当者が審査時にチェックさするポイントを紹介します。
参照:
https://www.dreamgate.gr.jp/contents/faq/f-financing/78042
財政状態
財政状態とは、本人の財産がどれくらいあるか、逆に借入金などの負債はどうか、ということを意味し、その状態は貸借対象表を見ることでわかります。
わかりやすくいえば、預金などの財産は多く、借入金などの負債は少ないほうがいいということになりますが、資産については実際に見かけ通りの内容があるかどうかが重要となります。
たとえば、売掛金などの中に長期間回収できていないものがないか、株式などについては時価との乖離がないかなどが審査のポイントとなります。
経営者としての資質
「この事業をする経営者としてのスキルやノウハウをもっているか」という点も、融資審査においては重要となります。
ここで大切なことは、経歴書などに「今回の事業と関係する経験を積んでいる」、「経理に関するスキルを持っている」などが明確にわかるように記載することです。
また、特別な技術がある、取引先が優れているなども評価の対象となります。
事業計画
融資にあたって事業計画書を提出する必要がある場合には、ビジネスの内容を中学生でも理解できるように記載することがポイントとなります。金融機関の担当者は、金融のプロですがビジネスのプロではないので、目新しいビジネスなどについては、わかりやすく説明しましょう。
また、計画の内容については「絵に描いた餅」と思われないように、できるだけ客観的に見て「なるほど」と納得してもらえる根拠を説明する必要があります。
自己資金はどのぐらいあるか
自己資金が多いほうが、融資を受けやすくなるだけでなく、融資額も大きくなります。
例えば、日本政策金融公庫の創業融資の場合「創業にかかる経費額の10分の1以上」の自己資金が必要とされています。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html
つまり、創業経費全体で1000万円かかるケースでは、自己資金が100万円なが必要となります。しかし、実際には自己資金額の3倍程度までが借りやすい目安とされています。
なお、自己資金額が少ない場合には、その額にあわせて融資申込額を少なくするといった方法のほか、「自己資金が不要となる要件」を利用する方法もあります。
参照:自己資金が不要となる要件
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/yoken_shinsogyo.html
資金使途は明確か
金融機関で融資を受ける際には、「融資を何に使うのか?」という、資金使途が明確になっている必要があります。
資金使途は、大きく「設備資金」と「運転資金」の2つにわけられます。
金融機関では、この資金使途から返済の可能性や妥当な融資額を決定して貸し出しを行うため、その内容が具体的となっているかや、内容が妥当かといったことが非常に重要なポイントとなります。
なお、一般的には運転資金よりも、見積もりなどでその内容がハッキリとわかる設備資金の方が、より資金使途が明確と判断されやすいです。
融資希望額が計画や返済力からみて妥当か
融資の審査には、「融資の希望額が妥当かどうか?」ということが大きく影響します。
申込んだ金額が妥当かどうかは、主に
- どのくらいの利益が上げられる計画となっているのか?
- 返済キャッシュフローがどのくらいでるのか?
により判断されます。
計画については、「その内容にどれだけ実現可能性があるか?」、返済キャッシュフローについては「きちんと返済ができる利益が出るのか?」ということが重要なポイントとなります。
そのため、融資を申し込むときには資金の種類に応じて、返済財源やその根拠を説明できる必要があります。
税金、家賃、ローン等の滞納がないか
公的・民間を問わず、申込人に税金などの滞納がある場合は、融資はされないのが原則です。また、税金だけでなく、家賃・光熱費・各種ローン(住宅ローン含む)について、過去6ヶ月~1年の間に支払いの遅れや未納がある場合も同様となります。
そのため、納税証明書の記載では未納がなくとも、通帳の記載などにより近日内に支払い遅れや未納期間が確認できるケースでは融資は難しくなります。
ただし、支払いに遅れがあってもその日数が短い場合や、税務署と分割納税の協議ができている場合などは、問題とならないこともあります。
融資の必要書類は早めにそろえる
融資の申込みには、さまざまな資料が必要となるため、できるだけ早く準備をして書類漏れなどのミスがないようにしましょう。
- 企業概要書
企業概要書は、その企業の基本的な情報やこれまでの経歴をまとめた資料です。
なお、企業概要書はすべての融資で必要となるわけではなく、事業計画書を提出する場合にはその内容でOKとされる場合もあります。 - 借入申込書
借入申込書は、企業の基本情報や希望の申込額、借入希望日、資金使途などの借入れに関する条件を記入するものです。金融機関ごとに用紙が用意されているので、これに必要事項を記入して申し込みます。 - 事業計画書
創業融資や金額が大きい、事業プランが複雑などといった申込みの場合には、事業計画書の作成が必須となります。 - 履歴事項証明書
履歴事項証明書は、会社について現在効力のある登記事項を記載した書類で、通常、会社登記簿謄本といわれているものです。
これと似たものに「登記事項要約書」がありますが、これは登記事項の閲覧に代わるものとして発行されるもので記載の内容が異なるので間違えないよう注意してください。 - 決算書類一式(貸借対照表、損益計算書ほか)
金融機関に提出する決算書は、貸借対照表と損益計算書だけでなく、すべての書類(その他の別表や勘定科目明細書、税理士の確認書など)を提出するようにします。
なお、融資の申込み時には、2~3期分の決算書が必要となります。 - 試算表
決算月から6ヶ月以上の期間を経過している場合は、試算表の提出が必要となります。
融資以外の資金調達方法も検討
融資以外の資金調達の方法についても知っておくと、より幅広く資金を集める役に立ちます。
- 補助金・助成金を利用する
補助金は、国や地方自治体が一定の企業に対し、事業を行うために必要となる費用の一部を補助するものです。
これらは返還不要の資金のため、獲得できた場合には資金繰りに役立ちますが、はじめに補助事業に関する資金を立て替える必要がある、資金が入金されるのは事業の完了後となるなどを理解しておく必要があります。 - 生命保険の解約
生命保険に加入している場合には、それを解約することにより得られる解約返却金で資金の調達をすることが可能です。しかし、中には返却金のない保険もあり、また、解約時期によっては少額の返却金しかない場合もあるため、解約前に金額や条件などを確認しておきましょう。 - クラウドファンディングを利用する
クラウドファンディングによる資金調達では、自社の商品やサービスを購入してもらうという方法が一般的ですが、最近では出資を利用した支援なども行われています。この方法による資金調達については、実施してみないといくらの調達ができるのかわからないというリスクがありますが、一方で、募集を通じて見込み客を集めることができるといったメリットがあります。 - 出資者を募る
企業が法人の場合には、関係者から多くの出資を募るという方法も有効です。出資には返済義務がなく、資本金の増加にもつながります。また、個人事業の場合には、法人成りをすることで出資を募ることができます。 - 手持ち資産の売却による現金化
不動産や株式などの有価証券を所有している場合には、これを売却することより、資金を増やすことができます。ただし、不動産の売却にはある程度の時間がかかる、株式については売却のタイミングにより売買価格が変動するなどのリスクがあります。 - 家族などからの資金提供
家族からの贈与なども有効な資金調達の方法です。
しかし、資金の贈与ではなく、借入れである場合には、貸借対照表に負債として載せなければならない、創業融資の自己資金とすることができないなどに注意が必要です。
個人事業主でも事業融資を受けることはできる
個人事業であっても、正しい資金計画を立て、金融機関に正しくその内容を伝えることができれば、十分に融資の獲得は可能です。単に「〇〇円を借りたい」というのではなく、その使い道や返済の根拠についてわかりやすく説明することが成功のカギとなります。
また、日本政策金融公庫だけに限らず、自治体の制度融資などを活用すれば、さらに大きな金額を借りられる可能性があります。
金融機関からの借入れでは事業計画書の作成が必要となりますが、必要書類の準備や財務状況の確認、事業計画作成など個人では対応が難しいことも少なくありません。
そのような場合には、専門家に相談しながら早めの準備をするということも重要です。
ドリームゲートでは、事業計画書の作成に精通した専門家が多数、在籍しているので、事業プランや計画書の作成、銀行との取引などでお困りの時はお気軽にご相談ください。
執筆者プロフィール:引地 修一/Ichigo(一期)行政書士事務所
創業者と経営者の資金調達から事業再生、記事取材までを幅広くサポート。
保有資格:行政書士、事業再生士補、事業再生アドバイザー、宅地建物取引士、古物商
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