サラリーマンを辞めて独立したいと思ったとき、法人として会社を設立した方がいいのか、個人事業主として始めた方がいいのか悩むところです。じつはこの選択を誤ると税金面で損をしたり、トラブルが起こったりする可能性があります。
独立するさいに会社設立をするか個人事業主ではじめるか、それぞれのメリット・デメリットやリスクなどを説明します。
- 目次 -
会社を設立して独立する場合のメリット・デメリット
会社を設立して独立するメリットとは?
会社を設立して独立するメリットはおもに3つです。
- 取引の信用度が増すので仕事が増える
- 倒産時の責任が有限である
- 節税効果が高い
それぞれ詳しくみていきましょう。
会社を設立する最大のメリットは、取引先に対して信用度が増すことです。個人事業主の場合、第三者から財務状況や経営状況が分かりにくいため信用度が低くなってしまうのに対し、会社であれば定款や登記簿謄本などによって会社の事業内容や財務状況を確認することができます。
そのため取引先からの信用度が増し、仕事がスムーズに行く可能性が高くなります。また、仮に事業がうまくいかず倒産した場合でも、会社組織であれば経営者個人は出資した分の責任を負うだけでそれ以上の責任は課されません。しかし個人事業主の場合は事業に失敗すると、個人の財産を処分してでも負債に充当しなければなりません。
さらに会社組織にすると個人事業主に比べて税率がかなり低くなります。他にも経費として認められる範囲が個人事業主に比べて広くなりますから、節税面でのメリットもあります。
会社を設立して独立するデメリットとは?
いっぽう、会社を設立して独立するデメリットは次の点が挙げられるでしょう。
- 会社設立費用がかかる
- 社会保険料など毎月の負担が増える
会社を設立するには、ある程度の経費が必要です。まず定款を作り、公証役場で認証を受けなければなりません。その後、必要書類を法務局に持参して設立登記を行います。
このように株式会社では一般的に25万円程度の経費が必要です。また定款の作成・認証を行政書士に、設立登記を司法書士に依頼すればこれらの経費以外に報酬を支払わなければなりません。
また会社組織にすると社会保険に加入しなければなりません。毎月社会保険料等を負担しなければならず、業績が悪い時には負担が重くのしかかります。また従業員を雇えばその給料や社会保険料なども負担しなければなりません。
会社を設立する際に必要な書類や手続きとは?
会社を設立する場合、まずやるべきことは定款の作成です。会社を国にたとえれば定款は「憲法」のような位置づけで、これを作成しないと会社設立が始まりません。
定款には会社の目的、組織、業務などの基本的事項・ルールを記載します。作成した後は定款が法律に則って作成されているということを公の機関で認めてもらう必要があります。これが定款の「認証」です。
作成した定款を公証役場に持って行って公証人に内容をチェックしてもらいます。そして、内容に問題がない場合には、「認証」してもらうという流れです。認証手数料や印紙代などで、約10万円程度の経費が必要となります。
その後、会社の設立登記を行います。登記とは会社を人にたとえれば「出生届」の提出です。つまり設立登記をしなければ、「戸籍」がないことになり、社会が会社として認めてないということになります。
設立登記の際には、登記申請書、定款(認証済み)、印鑑届書、払い込みがあったことを証する書面、資本金の額の計上に関する書面、取締役の印鑑証明書等を法務局に持参し、手続きを行います。この際に登録免許税を納めますが、その金額は資本金の1000分の7の金額です。例えば、資本金が1億円の場合は70万円です。ただし、資本金の1000分の7の金額が15万円未満の場合には一律15万円となります。
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会社を設立する際には株式会社と合同会社の2種類がある
株式会社を設立する
株式会社は、株式(資本金)を基にして設立する会社です。もっとも一般的な会社の形態で、株式を公開していれば、株式を購入することで、誰でも株主(出資者)になれます。
会社が利益を上げれば、株価が上がり、株主に利益を還元することになります。これを「株式の配当」と言います。しかし、業績が悪ければ株価が下がり、株主から経営陣の責任を追及されることになります。
合同会社を設立する
合同会社は、2006年の会社法の改正によって、設立できるようになった会社の形態です。この会社は、経営者と出資者が同じである出資者全員が有限責任社員であるという特徴があります。
有限責任社員とは自分が出資した分(金額)だけ責任を負う社員のことです。仮に会社が倒産して場合でも有限責任社員は負債に対して出資した金額以上の金額を負担する必要はないということです。
株式会社は一般的に出資者と経営者が異なりますが、合同会社は会社を経営する人がそれぞれ出資金を持ち寄って設立する会社ですから、出資者と経営者は同じということになります。
会社を設立する場合、株式会社と合同会社、どちらの方が良いのか迷うところですが、どちらの会社にもメリット、デメリットがありますから一概にどちらの会社が良いとは言えません。
合同会社のメリット・デメリットなどはこちらの記事を参考にしてみてください。
個人事業主として独立する場合
個人事業主として独立するメリットとは?
個人事業主の最大のメリットは初期費用が安くて済むということです。職種にもよりますが、仕事が順調に入ってくるまでは自宅の一室を仕事場として使用することもできます。また、会社のように定款を作ったり設立のための登記をしたりする必要もありません。極端に言えば、連絡手段、商品、仕事場等があれば、すぐにでも始められます。
また、自分一人で事業を始める場合には従業員がいないわけですから、その分の給料も支払わなくてもいいことになります。つまり自分が稼いできた分は、全て自分の収入ということです。
個人事業主として独立するデメリットとは?
株式会社の場合、仮に事業に失敗して倒産することになっても自分が出資した金額の分だけ責任を取ればいいことになります。しかし個人事業主はそうはいきません。相手から借りた金銭、与えた損害については全て責任を負わなければなりません。
もし自分の資産を全て費やしても負債を返済できなければ、自己破産等の手段を取ることになります。個人事業主の場合、取引相手とは会社組織ではなく個人と契約を結んだわけですから、個人としての責任を全うしなければならないのです。
個人事業主で独立する際に手続きとは?
個人事業主として事業を始めるには、手続きは必要ありません。しかし、サラリーマンと違って自分で確定申告を行うことになりますから、事務所を置く場所、あるいは自宅を管轄する税務署に「開業届」を提出する必要があります。
その際には、「白色申告」にするか、「青色申告」にするかを選択しなければなりません。さらに、「青色申告」には、「10万円控除」と「65万円控除」の2つに分かれています。つまり、全部で3種類の申告方法があるわけです。
10万円控除は年間所得から10万円を差し引くことができる制度、65万円控除は年間所得から65万円を差し引くことができる制度です。もちろん、65万円控除を選択すれば、それだけ納める税金を少なくすることができますが、そのためには、きちんと帳簿をつけて、申告の際に決算書も提出しなければなりません。
一方で、「白色申告」や「青色申告10万円控除」は、帳簿付けが簡易で決算書を提出する必要がありません。「青色申告65万円控除」と聞けば、面倒だという印象を持つかもしれません。しかし、現在は会計ソフトがありますから、青色申告65万円控除を選択する人が少なくありません。
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会社設立でいくか個人事業主でいくかを判断するポイント
これから独立して仕事をする人にとって、会社設立でいくか、それとも個人事業主で行くか、迷うところです。それぞれのメリット・デメリットはここまででご説明したとおりですが、もう一つポイントになるのは、それぞれの税率です。
会社組織の税率(単位%)
年間課税所得 | 法人税 | 法人事業税 | 法人住民税 |
400万円以下 | 18.0 | 2.7 | 3.11 |
400万円超 800万円以下 | 18.0 | 4.0 | 3.11 |
800万円超 | 30.0 | 5.3 | 5.19 |
個人事業主(住民税は課税は10%)
年間課税所得 | 事業税 | 所得・住民税合算 | |
税率(%) | 控除額(万円) | ||
195万円以下 | 業種に応じて3%~5%(控除額290万円) | 15 | ー |
195万円超 330万円以下 | 20 | 9.75 | |
330万円超 695万円以下 | 30 | 42.75 | |
695万円超 900万円以下 | 33 | 63.6 | |
900万円超 1800万円以下 | 43 | 153.6 | |
1800万円超 | 50 | 279.6 |
この表で使われている「控除額」というのは、税率をかける前に所得額から差し引かれる金額のことです。たとえば個人事業主Aさんの昨年度の所得が800万円だとします。800万円は、「695万円超から900万円以下」に該当しますから、「控除額63.6万円」、「所得・住民税額合算33%」です。ですから、所得・住民税の額合算は、「(800-63.6)×33%=243万円120円」となります。
税率だけを見ると年間所得が800万円を超えることが見込まれる場合には、あらかじめ会社組織にする方が節税のメリットがあるということになります。独立する際には今後事業収や所得をどれくらい見込めるかを考えて、会社組織か個人事業主かの選択をする必要があります。
会社設立or個人事業主、選択を間違えておこる失敗
税金面での失敗例
節税になると思って会社組織にしたが、思ったよりも売り上げが上がらず会社を設立したメリットをあまり感じない、逆にそれほど売り上げが上がらないと思い、個人事業主として事業を始めたが、思っていたよりも売り上げが伸び、予想以上の税金を納めることになったということがあり得ます。
これは、独立して事業を始める際の売上見込みのむずかしさを物語るものです。会社組織と個人事業主の税率はかなり違いますので、事業を始めるさいには同じエリアで事業を行っている同業者の状況などを十分リサーチして、売り上げ予測を立てることが大切です。
利益配分での失敗例
個人事業主として事業を始めたり家族経営で会社を設立したりした場合は問題になりませんが、他人と共同で事業を始めるさいに利益配分のトラブルが発生する場合もあります。
共同で事業を始めるほどですから信頼のおける関係性で会社を設立する場合が少なくないと思いますが、そのような仲だからこそ、金銭のこと、とくに利益配分のことをあらかじめ話し合うことはなかなか気が進まないかもしれません。しかし、じっさいに利益を配分する状況になってからではうまく話がまとまらないものです。
また、利益配分を決めていても、事業を進めていく上でそれぞれの役割分担が公平でない場合、どちらかに利益配分に関する不満が出てくる可能性があります。