想像してください。
もしあなたの会社、もしくはあなたが立ち上げようとしている会社の決算が「2億円の赤字です!」と言われたら、どうしますか?
しかも言われた相手は、税理士さんです。
国が、経理のプロと認めた人です。
実際にそう告げられたある経営者は、絶望的な気持ちになりました。
「倒産だ!」「従業員になんて言おう」「死んでお詫びしようか」…
でもその会社をよく調べたら、100万円の黒字になりました。
怖いですね。
下手をしたらこの経営者、死んじゃっていたかもしれません。
本当に死ななくてよかったです。
なんでこんなことが起きるのでしょう。
不思議だと思いませんか?
ミステリーですね。
今回はこのエピソードをもとに、会社を経営するなら絶対に知っておかなければならない「利益」について考えてみましょう。
- 目次 -
2億円の赤字
私は、ある英会話学校のコンサルティングを行うことになりました。
仮にA社としましょう。
決算書を見ると、2億円の赤字です。売上高は7億5千万円。
トヨタ自動車のように売上高30兆円といった企業なら2億円の赤字といっても何とかなるでしょうが、売上高が7億円の企業にとって2億円の赤字はかなりきつい状況です。
生きているのが不思議なくらいです。「どうすればいいんだろう…」
私は途方に暮れながら、決算書を眺めました。
「損益計算書」と「利益」
まず、「利益」について簡単におさらいしておきましょう。
その会社の損益計算書は、図1のとおりでした。
損益計算書というのは、会社のその期の経営成績、つまり利益がどれだけだったかを示す財務諸表です。
「利益」といってもいくつもあるのが分かりますね。
「売上高」から「原価」を引いたものを「売上総利益」といいます。
「売上総利益」は「粗利(あらり)」とも言います。
「売上総利益」から「販売管理費」を引いたものが「営業利益」です。
「販売管理費」は一般的には「経費」といったりします。
「営業利益」は、本業によって得られた利益です。極論すると、営業利益がマイナスなら商売をやめた方がいいともいえます。A社は営業利益がマイナスなので、商売をやめたほうがいいのかもしれません。
「営業利益」から利息など本業と直接関係のないものを足し引きしたものを「経常利益」といいます。
「経常利益」は、その企業の総合的な実力を表している利益だと言われています。
「経常利益」から不動産の売却損益などその期だけの特別なものを差し引いたのが「税引前当期純利益」、「税引前当期純利益」から法人税等を差し引いたのが「税引後当期純利益」です。
「当期純利益」と「経常利益」
お気づきのように、私が「赤字が2億円」と言っていたのは、「税引後当期純利益」が2億円のマイナスだということです。
ここで注目すべきは、「税引後当期純利益」の3つ上に書かれている「特別損失1億円」です。
A社は赤字が続きお金が無くなってしまったため、本社ビルを売却してお金をつくっていました。
これが「特別損失1億円」の正体です。
これは前期だけのものですから、今期の利益には関係しません。
だからA社の利益水準(正常収益力)を考える場合、この1億円は除外して考えなければなりません。
つまり、「経常利益」のマイナス1億円が、A社の実力と考えられます。
よく「当期純利益」でその会社の良し悪しを考える人を見かけますが、その会社の実力をみるときは「経常利益」で判断するようにしましょう。
巨額の赤字でも破綻しない不思議
というわけで、1億円分は解決しましたが、まだ約1億円の赤字です。
またもやどうしようかと途方に暮れていると、不思議なことに気がつきました。
A社の経理担当者はいつも「お金がなくて大変だ!」といいながら一生懸命やりくりしていましたが、それでも何とかなっていました。年間1億円の赤字ですので、多少のずれはあっても毎月1千万円近い金額がキャッシュアウトするはずです(減価償却費や引当金は計上していません)。
本来なら、経理担当者がじたばたしたところでどうにかなるものではありません。
なぜA社は破綻せずに何とかなっているのでしょうか?
またもや途方に暮れて決算書を見ていたら、あることに気がつきました。正解は、貸借対照表にありました。
図2を見てください。
「前受金」という勘定に、2億5千万円もの大金が計上されていました。
これが、A社が巨額赤字にもかかわらず生き延びてきた理由です。
謎解き
からくりは、こうです。
A社は、英会話教室を営んでいます。この業界では、最初にお客様から何回分かのお金をまとめて支払ってもらうのが一般的です。
仮に10回分30万円を受け取ったとしましょう。
この30万円は、売上としては計上できません。
なぜなら、まだサービスを提供していないからです。
前受金として計上しておいて、実際にサービスを提供するたびに3万円ずつ売上高に振り替えていくのが正しい会計処理です。
一方で、かなりのお客様は、前払いした分を全部は使いません。例えば30万円前払いしても、15万円しか使わないというお客様が結構いるのです。
皆さんも、意気込んで高いお金を払って英会話教室に申し込んだけど、半分も行けなかった……なんて経験がないでしょうか?
このように、前受金のうち使われなかった分が実質利益のようになっていたので、A社は生き残れたのです。
黒字化へ
そこで、私は考えました。
「実質利益のようになっているのなら、本当に利益にすればいいのではないか」と。
A社の顧問税理士さんと相談して、前受金に有効期限を設けることにし、期限を過ぎたものは利益として計上するようにしました。過去の前受金も相当古いもので消滅時効期間が過ぎているものは利益に振り替えました。
一応、税務署の確認もとりました。税務署は、利益が増える場合は税金がたくさん取れるので文句は言いません。今回も二つ返事で承諾してくれました。
すると、100万円の黒字に!
以前はA社が大赤字なので邪険に扱っていた金融機関も、借入に前向きに取り組んでくれるようになりました。
さいごに
-あなたの会社の利益構造をしっかり理解しておこう!-
「利益」というと自動的に金額が決まるように思っている人も多いと思いますが、実は流動的なもので、考え方によって額が変わったりします。
わたしは昔銀行に勤めていましたが、その時のお客様で決算書を3つもつくっていた企業がありました。
一つ目は、普通に税理士さんがつくった決算書。
二つ目は、税務署用に利益を少なくしてつくった決算書。
三つめは、金融機関用に利益を多くしてつくった決算書。
こんなことをしては絶対にダメですが、ことほど左様に利益額というのは流動的なものであるということは覚えておいてください。
大事なのは、どのようにして自分の会社の利益額が出てくるのか、その仕組みをきちんと理解しておくことです。
そうすれば、A社のように大変な思いをしなくて済むのはもちろん、あなたの会社が利益を出し続けるためにはどうしたらよいか、経営者として正しい選択をすることができるようになるでしょう。
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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 太田 眞彦氏(株式会社さあ頑張ろうぜ)
株式会社さあ頑張ろうぜ 代表取締役 1960年生まれ。東京都出身。経営コンサルタント歴20年のベテランが、アイデア出しから起業までを支援します。
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