本記事では、起業を考えている人や会社を設立したばかりの人が身につけるべき税金と控除の知識を解説していきます。
前編と後編の2本の記事で構成されており、本記事は後編になります。
前回、起業の準備段階にかかる税金・控除と起業直後(会社設立直後)にかかる税金・控除について見ていきましたが、今回は起業してできた会社などの、法人の事業が軌道にのってからかかる税金と控除について解説していきます。
- 目次 -
前編のまとめ
本題に入る前に、前編の内容を紹介します。前編では、起業の準備段階、または会社設立直後の税金と控除について解説しました。
起業の準備段階にある人(起業家になる人)の立場には、個人事業主、会社員、無職などがあります。個人事業主の場合は、これから設立する会社でおこなう事業と同じ事業をすでにおこなっていることが多くなっています。そのため、かかる税金も法人の税金と似ており、種類も多くとても複雑です。一方、会社員の税金は、所得税(給与にかかるもの)と個人住民税の2つでありシンプルです。なお、無職の場合は前年に収入がなければ、原則税金はかかりません。
起業し会社が設立されると、経営者(起業家)個人の税金と法人の税金の2種類が発生します。経営者個人の税金は会社員の税金と同じですが、法人の税金はさらに複雑です。法人の税金には法人税、法人住民税、法人事業税があり、適正な税納付をおこなうには、控除の知識も必要になります。
ここまでが前編で紹介した内容になります。会社の事業が軌道にのると、起業家が身につけておくべき税金の知識はますます増えるため、本記事でよりくわしく解説します。
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起業して軌道にのってからかかる税金
起業して事業が軌道にのってからも、会社(法人)にかかる税金は、前編で紹介した「起業直後(会社設立直後)にかかる税金」と変わりありません。ところが自社にかかる税金のしくみはさらに複雑になります。複雑になるのは、会社が大きくなったり売上高や利益が増えたりすると細かいルールが適用されるようになるためです。
法人税:税額が確定するまでの5つのステップ
前編では法人税の額は「原則、所得に税率をかけると法人税の額が算出される」と紹介しました。しかし法人税の額の計算では、原則以外の細かいルールがとても重要になります。法人税の額は5つのステップを経て確定します。
ステップ1:収益から必要経費を差し引いて利益を算出する
まず、収益から必要経費を差し引いて利益を算出します。利益とはいわば「所得に近いもの」です。法人税の計算でまず必要経費を除外するのは、必要経費には税金がかからないからです。
収益は売上高と似た概念ですが、売上高が本業で得た利益であるのに対して、収益は売上高とそれ以外の収入も含みます。それ以外の収入には利息収入、資産の売却益などが該当します。
なお必要経費については、後段の「控除について」の章の「法人税の必要経費の控除」で解説します。
ステップ2:利益から損金を差し引く
利益のなかには、企業会計上は費用とはならないものの、法人税としては損金になるものが含まれます。損金には法人税がかからないため、利益から差し引く必要があります。
損金には、福利厚生費や水道光熱費、保険料などがあります。
ステップ3:課税所得を算出する
次は、企業会計上は費用となるが、法人税としては損金にしないものを利益に加算します。損金にしないのであれば、法人税の対象となるからです。
損金にしないものには、一部の引当金への繰入額や一定額を超える交際費、寄附金の支出額などです。
このステップ3によって税率をかける課税所得が算出されます。課税所得の計算式は以下のようになります。
ステップ1 | ステップ2 | ステップ3 | |
課税所得= | 収益-必要経費 | -法人税上の損金 | +法人税上の損金にしないもの |
ステップ4:税率をかけて算出税額を算出する
課税所得の算出ができたため、これに税率をかけることで算出税額が算出されます。法人税の税率は以下のとおりです。
資本金 | 課税所得 | 税率 | ||
普通法人 | 資本金1億円以下 | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | |||
年800万円超の部分 | 23.2% | |||
上記以外の普通法人 | 23.2% |
一般的な会社などのことを法人税の制度では普通法人と呼んでいます。原則の税率は23.2%ですが、資本金1億円以下の場合は、課税所得の800万円以下の部分の税率が15%または19%と、通常より低率になっています。つまり税の優遇を受けているわけです。
適用除外事業者とは、法人の事業年度開始前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の平均が15億円を超える法人のことです。
算出税額の計算式は以下のようになります。
●算出税額=課税所得×税率(23.2%、19%、15%のいずれか)
「算出税額」という名称のため、これが会社が納付する法人税であるような印象を受けるかもしれません。しかし、そうではありません。ここから税額控除を受けることができます。
なお税率の区分には普通法人以外に、協同組合等、公益法人等、人格のない社団等、特定の医療法人があり、それぞれ条件によって23.2%または19%または15%の税率になります。
ステップ5:税額控除をおこなって(差し引いて)法人税の額が確定する
算出税額から税額控除の額を差し引くことで、法人税の額が確定します。この金額が、法人が納付する法人税になります。
税額控除には所得税額控除、一般試験研究費の額に係る税額控除などさまざまなしくみがあるため、後段の「控除について」の章で紹介します。
法人住民税
法人住民税は地域社会の構成員としての法人じたいに課せられる地方税です。法人税は、法人の規模に応じて同一の額を納付する均等割と、法人税の額に応じて税額が決まる法人税割の2つで構成されています。均等割は法人の利益に関係なく負担することが特徴です。法人住民税はさらに都道府県民税と市町村民税にわかれます。
税額と計算方法は以下のとおりです。
■法人住民税のうち均等割の額
資本金の額 | 都道府県民税の均等割 | 市町村民税の均等割
(従業員数50人超) |
市町村民税の均等割
(従業員数50人以下) |
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万超~1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億超~10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億超~50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
■法人住民税のうち法人税割の計算方法
- 都道府県民税:法人税額×1%
- 市町村民税:法人税額×6%
法人事業税
法人事業税は法人が営む事業に対して課せられる地方税です。法人事業税の額は法人の所得に税率をかけて算出するのですが、付加価値割や所得割などにわかれていてそれぞれ税率が異なります。
■法人事業税の税率
資本金1億円超の普通法人 |
|
資本金1億円以下の普通法人 |
|
なお区分には電気供給業者などがありますが、ここでは説明を割愛しています。
源泉所得税と復興特別所得税
源泉所得税は、個人事業主や法人が従業員に給与を支払う際に発生する税金です。支払者(法人や個人事業主)は、給与支払時に従業員の所得税を概算で計算し、その分を源泉徴収して税務署に納付します。これは、支払者が従業員に代わって所得税を一時的に仮納付する形です。
源泉所得税の額は概算であるため「従業員の年間所得税の総額にほぼ近いもの」といえます。しかし、確定申告や年末調整で最終的に調整されるため、完全に一致するわけではありません。
給与所得の源泉所得税の額は、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」に記載されており、「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」によって異なります。
なお、会社などの源泉徴収を実施するものを、源泉徴収義務者といいます。
「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」による復興特別所得税も、源泉徴収義務者が源泉徴収して納付します。
消費税
法人が納付する消費税の額は、顧客から預かった消費税から、事業者として支払った消費税を差し引いた額になります。
消費税の税率は、標準税率が10%で、そのうち2.2%は地方消費税になります。軽減税率は8%で、そのうち1.76%が地方消費税です。
消費税を負担するのは消費者であり、商品やサービスを生み出している事業者ではありません。消費税の税金分は商品やサービスの価格に含まれていて、消費者はその価格で購入することで消費税を負担します。
仕入税額控除について
法人が納付する消費税の額は仕入税額控除というしくみを使って決まります。「控除」とついていますが、消費税の制度にとって重要なルールとなるため、次の「控除について」の章ではなく、ここで解説しています。
仕入税額控除は、課税売上にかかっている消費税の額から、課税仕入れにかかっている消費税の額を控除して(差し引いて)、法人が納付する消費税の額を決めるルールです。
法人は仕入税額控除後の消費税を納付しないと、払いすぎになってしまいます。起業した会社の事業が軌道にのると消費税の納付額も増えてくるため、仕入税額控除は経営に大きな影響を与えるでしょう。
控除について
事業が軌道にのった会社の経営者は、法人税の必要経費の控除と税額控除の活用を心掛けなければなりません。2つにわけて解説します。
法人税の必要経費の控除
企業活動のなかで発生した必要経費は、法人税の課税対象になる収益から差し引く(控除する)ことができます。そのため必要経費の控除によって節税効果が生まれるわけです。
必要経費には次の2種類があります。
■2種類の必要経費
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
上記は国税庁の説明文となっています。2)は理解しやすいですが、1)は難解な印象があるのではないでしょうか。1)の必要経費とは「収入を得るためにじっさいに使った費用」のことです。たとえば「商品やサービスを売るためにかかった原価や営業にかかるコストなどのこと」といった意味になります。
具体的な必要経費としては、原材料費、人件費、通信費、地代、家賃、水道光熱費、修繕費、広告宣伝費、旅費、交通費、保険料、福利厚生費、減価償却費、支払利息、法人事業税などが挙げられます。
法人税の税額控除
法人税の税額控除のしくみにはさまざまなものがあるため、ここでは主なものを紹介します。税額控除は納付する法人税の額を直接軽減するものであり、会社の経営者もどのような税額控除があるのか知っておいたほうがよいでしょう。
所得税額控除
会社などの法人が利子や配当金、保険金、賞金などを受け取るとき、それにかかる所得税と復興特別所得税があらかじめ差し引かれる(源泉徴収される)ことがあります。この源泉徴収された税金は「所得税等の額」と呼ばれ、法人はこの税金分を法人税から差し引くことができます。これが所得税額控除のしくみです。
一般試験研究費の額に係る税額控除
一般試験研究費の額に係る税額控除制度は、法人の試験研究費の額に一定割合を乗じて計算した金額を法人税額から控除するしくみです。対象の試験研究費に該当するのは、原材料費、人件費、試験研究を委託するものに支払う費用、情報収集の費用などです。
地方拠点強化税制における雇用促進税制による税額控除
地方拠点強化税制における雇用促進税制は、都道府県知事が認定した地方活力向上地域等特定業務施設整備計画にしたがって雇用創出に取り組む法人の法人税を優遇するものです。本社機能の拡充・移転を実施する法人が雇用者を増加させた場合、1人当たり最大90万円の税額控除が受けられます。
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制による税額控除
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制は、産業競争力強化法に基づいて、生産工程の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備を導入した場合、最大10%の税額控除(中小企業は最大14%)または50%の特別償却などの措置が受けられるものです。
控除の率は、炭素生産性の向上率によって異なります。
研究開発税制による税額控除
研究開発税制は、企業が研究開発をおこなっている場合に、法人税額から、試験研究費の額に税額控除割合(1~14%)を乗じた金額を控除できる制度です。
中小企業経営強化税制による税額控除
中小企業経営強化税制は、特定経営力向上設備を取得した中小企業などに、法人税の税額控除、または特別償却の措置を実施するしくみです。
なお特定経営力向上設備とは、経営力向上に寄与する生産性向上設備、収益力強化設備、デジタル化設備、経営資源集約化設備のことです。
中小企業投資促進税制による税額控除
対象設備を取得したり製作したりした対象業種に該当する資本金1億円以下の法人、または従業員1,000人以下の個人事業主などに対して、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除が選択適用される制度です。
対象設備とは、機械、設備、測定工具、検査工具、ソフトウェア、貨物自動車、内航船舶で、それぞれ一定金額以上のものです。
累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
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起業して軌道にのってからかかる税金の留意点
前編では、起業の準備中にある起業家に対して、以下のアドバイスをおこないました。
- 起業家自身が複雑な税制を理解したほうがよい
- 会計・税務の専門家の支援を受けたほうがよい
そして後編では、事業が軌道にのった会社の起業家(経営者)は、必要経費について留意したほうがよい、とアドバイスします。
■起業して軌道にのってからかかる税金の留意点
●起業家自身が必要経費について正確に把握して、計上できる費用は確実に計上し、計上してはならない費用は計上しないようにする
事業が軌道にのるころには経理、会計、税務の責任者を雇用できていることでしょう。経理責任者であれば、必要経費の知識が豊富で、適正に必要経費の控除を実施できるはずです。それでも起業家も必要経費の知識を身につけておいたほうがよいのです。
なぜなら事業が軌道にのれば必要経費の額が大きくなるため、それを適切に計上すれば法人税の額を小さくできるからです。税金の額が減ればその分だけ利益が増えることになるため、必要経費の知識は経営の知識ともいえます。
しかしこのしくみを悪用して、必要経費を不正に多く計上して課税逃れをしようとする法人があります。そのため国税庁は、必要経費について事実と異なる経理をおこない、不正に所得金額を少なく申告している納税者に関する情報を集めるなどして監視の目を光らせています。
経営者は税理士などの専門家に相談するなどして、適切な必要経費の計上に努めたほうがよいでしょう。
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