個人事業主や会社員などが起業すると「自分が関わる税金」がガラリと変わります。税制はとても複雑なため、起業家が正確に納税するには正確な知識が欠かせません。
そこで「起業にかかる税金」について、前編と後編にわけてくわしくご説明します。さらに、節税効果を生む控除についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
前編である本記事では、起業する前の準備段階に身につけるべき税金と控除の知識についてご紹介します。さらに起業直後(会社設立直後)に必要になる税と控除についても確認します。「起業する!」と決めた方に役立つ知識となるでしょう。
- 目次 -
起業の定義
本記事での「起業」とは、個人事業主が法人成りすること、あるいは、会社員が勤務先を退職して会社を設立することです。一般的には会社員が退職して個人事業主になることも起業と呼ぶ場合がありますが、ここではそのケースを「起業」と呼びません。
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税金と控除の一覧
ここから税金と控除について解説していきます。
起業の準備段階にかかる税金 | 個人事業主にかかる税金 |
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会社員にかかる税金 |
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起業直後にかかる税金 | 経営者個人の税金 |
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法人の税金 |
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控除の種類 | 対象 |
所得控除 | 個人事業主や会社員 |
税額控除 | 個人事業主、会社員、法人 |
必要経費の控除 | 法人 |
起業の準備段階にかかる税金
起業には、個人事業主から法人成りするパターンや、勤務先の会社を辞めて会社を設立するパターンなどがあります。そのため起業の準備段階では、個人事業主や会社員、無職など、複数の立場が存在します。
そこで、1)個人事業主、2)会社員、3)無職、にわけて、それぞれの人たちにかかる税金を確認していきます。
1)個人事業主にかかる税金
個人事業主にかかる税金にはA)所得税(事業にかかるもの)、B)個人住民税、C)個人事業税、D)源泉所得税、E)消費税があります。
A)所得税(事業にかかるもの)
所得税は所得に課せられる税金で、個人事業主の事業所得にかかります。事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業、そのほかの事業から生じる所得のことです。
事業所得の金額は「総収入金額-必要経費」で算出されます。必要経費は売上原価、給与、賃金、地代、家賃、減価償却費などです。
事業所得に税率をかけ、控除額を差し引くと所得税の額が算出されます。
B)個人住民税
個人住民税は住民税の一種で、行政サービスをまかなうためのお金になります。住民税には個人住民税と法人住民税があり、個人事業主が納付するのは個人住民税です。
国は住民税を「その地域に住む人たちなどが広く負担をわかち合うもので地域社会の会費」と説明しています。住民税は、市町村民税(特別区民税)と道府県民税(都民税)の総称で、地方税に分類されます。
C)個人事業税
個人事業税は事業税の一種です。事業を安心しておこなうために地方団体が提供する行政サービスの経費負担のための税であり、地方税になります。事業税には法人事業税もあります。
事業税は都道府県に納めます。
D)源泉所得税
源泉所得税は、個人事業主や法人が従業員に給与を支払う際の税金です。支払者(個人事業主や法人)は、給与支払時に従業員の所得税を概算で計算し、その分を源泉徴収して税務署に納付します。
源泉所得税は、のちに紹介する「法人の税金」にも登場します。
E)消費税
ここでいう消費税は、個人事業主や法人が事業者として納付する消費税のことであり、個人消費者としての消費税のことではありません。個人事業主や法人が納付する消費税の額は、顧客から預かった消費税から、事業者として支払った消費税を差し引いた額になります。
消費税は、のちに紹介する「法人の税金」でも登場します。
2)会社員にかかる税金
会社員にかかる税金は、F)所得税(給与にかかるもの)と個人住民税です。
会社員の個人住民税は、上記で説明した個人事業主の個人住民税と同じなので説明を割愛します。
以下、所得税(給与にかかるもの)について紹介します。
F)所得税(給与にかかるもの)
所得税は所得に課せられる税金で、会社員の給与所得にもかかります。
会社員の所得は給与所得といい、これは勤務先から受ける給料、賃金、賞与などの所得のことです。給与所得は「収入金額(源泉徴収される前の金額)-給与所得控除額」で算出されます。
給与所得から所得控除を控除した額に税率をかけ、税額控除額を差し引くと所得税の額が算出されます。
源泉徴収について
会社員にかかる個人住民税と所得税は、勤務先の会社が給与から天引きして預かり、納税者本人(ここでは会社員)に代わって納付します。これを源泉徴収といいます。したがって、会社員が自分で市区町村や税務署に個人住民税や所得税を納付することはありません。
会社は、源泉徴収で集めた所得税は税務署に、個人住民税は市区町村に納付します。なお、都道府県分の個人住民税も市区町村に納付します。
3)無職の人にかかる税金
無職で収入がゼロの場合は原則、税金はかかりません。ただし「今年」が無職(収入ゼロ)でも「前年」に収入があれば、個人住民税がかかることがあります。
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起業直後にかかる税金
個人事業主、または会社員、または無職の人が起業して会社を設立すると、2種類の税が発生します。1種類目は、個人事業主や会社員、無職だった人が経営者となり、経営者個人として納付する税金(以下、経営者個人の税金)です。2種類目は、この会社の法人としての税金(以下、法人の税金)です。
1種類目:経営者個人の税金
経営者個人の税金は、先ほど紹介した会社員にかかる税金と同じで、所得税と個人住民税です。経営者が法人(ここでは会社)から受け取る役員報酬は、税法上は会社員が受け取る給与所得と同じなので、会社員にかかる税金とほぼ同様の扱いとなります。
2種類目:法人の税金
法人の税金は、会社が事業をおこなうことで得た利益に課税されるため、会社として納付することになります。法人の税金にはG)法人税、H)法人住民税、I)法人事業税、源泉所得税、消費税があります。
このうち源泉所得税と消費税は、上記で紹介した個人事業主にかかる源泉所得税と消費税と同じなので説明は割愛します。以下、G、H、Iについて紹介します。
なお「法人の税金」と「法人税」は別物ですので注意してください。法人税は、所得に課せられる税金の名称であり、法人の税金とは法人税や法人住民税などのことです。
G)法人税
法人税は会社の企業活動などで得られた所得に課されます。ちなみに所得にかかる税金でも法人税は「所得税」とは呼びません。所得税は個人の所得にかかる税金の名称だからです。
法人の所得の額は、益金の額から損金の額を差し引いたものです。益金とは、商品、製品、サービスなどの売上収入や土地や建物などの売却収入などのことで、損金とは経費や売上原価、販売費、災害による損失などのことです。
原則、所得に税率をかけると法人税の額が算出されます。ただし法人税額の算出には例外ルールが多く、かつそれらが重要となるため、後編でくわしく解説します。
H)法人住民税
法人住民税は住民税の一種で、会社などの法人に課せられます。なお、個人に課せられる住民税を個人住民税といいます。国は住民税を、行政サービスを享受するために負担する「地域社会の会費」と説明しています。
さらにくわしい解説は、後編をご覧ください。
I)法人事業税
法人事業税は会社などの法人に課せられる税金で、事業税にはそのほかに個人事業主に課せられる個人事業税があります。
法人事業税は、事業活動に使う行政サービスに必要な経費に使われる税金です。
さらにくわしい解説は、後編でおこないます。
法人住民税と法人事業税の違い
法人住民税と法人事業税は混同されることがあるため、違いを説明します。
■法人住民税と法人事業税の違い
- 法人住民税は地域社会の構成員としての法人じたいに課せられるが、法人事業税は法人が営む事業に対して課せられる
- 法人住民税の納税先は都道府県と市町村、法人事業税の納税先は都道府県
- 法人住民税の基準は従業員数、法人事業税の基準は従業員数や事業所数など
控除について
控除とは納付する税金の額を減らすしくみです。控除されると納付すべき税金が減るため、納税者にとってはメリットのあるしくみといえます。ではなぜ税金の額を減らす必要があるのでしょうか。
税制には「担税力に即した課税」という原則があります。担税力とは税金を負担する能力のことです。税金の額は算定式によって計算されますが、それだけでは「担税力に即した課税」の額にならないことがあります。そこで控除によって税金の額を調整する(減額する)わけです。
起業家にとって控除は合法的な節税になり、節税は純利益を増やすことにつながります。純利益は「経常利益-特別損失-税金」で算出されるため、税金の額が減れば純利益が増えるからです。したがって起業家は、税金の知識と一緒に控除の知識も獲得しておいたほうがよいでしょう。
所得控除と税額控除と必要経費の控除の違い
控除には大きく、所得控除と税額控除があります。さらに法人には「必要経費を差し引く(控除する)」という概念があります。
所得税は、所得に税率をかけるなどして計算するのですが、所得控除のしくみを使うと、課税対象となる所得から一定の金額を差し引くことができます。したがって、所得控除のしくみを使えば、じっさいの所得よりも低い所得額になります。つまり、所得控除がおこなわれると税率がかかる所得額が減るため、結果として所得税の額が少なくなるのです。
所得控除は個人事業主や会社員などに課せられる所得税の算出で用いられますが、法人に課せられる法人税にも似たしくみがあります。法人税の算出においては、じっさいの所得から必要経費が控除され(差し引かれ)、課税対象の所得が減少し税額が減ります。
税額控除は税金の額から一定の金額を差し引くしくみで、個人や会社員などに課せられる所得税にも、法人に課せられる法人税にも適用されます。
所得税の15種類の所得控除
個人事業主や会社員などに課せられる所得税における所得控除には次の15種類があります。
■15種類の所得控除
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄附金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
所得税の23種類の税額控除
所得税に関する税額控除には次の23種類があります。
■23種類の税額控除
- 配当控除
- 分配時調整外国税相当額控除
- 外国税額控除
- 政党等寄附金特別控除
- 認定NPO法人等寄附金特別控除
- 公益社団法人等寄附金特別控除
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
- 住宅耐震改修特別控除
- 住宅特定改修特別税額控除
- 認定住宅等新築等特別税額控除
- 試験研究を行った場合の所得税額の特別控除
- 高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の所得税額の特別控除
- 中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除
- 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の所得税額の特別控除
- 地方活力向上地域等において特定建物等を取得した場合の所得税額の特別控除
- 地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の所得税額の特別控除
- 特定中小事業者が経営改善設備を取得した場合の所得税額の特別控除
- 特定中小事業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の所得税額の特別控除
- 給与等の支給額が増加した場合の所得税額の特別控除
- 認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の所得税額の特別控除
- 事業適応設備を取得した場合等の所得税額の特別控除
- 革新的情報産業活用設備を取得した場合の所得税額の特別控除
- 所得税額から控除される特別控除の特例
法人税の必要経費の控除と税額控除について
法人税には所得控除という名称のしくみはありませんが、必要経費を収益から差し引いて法人税の税額を算出するしくみが存在します。これを「必要経費の控除」といいます。
また法人税にも税額控除があります。
この法人税に関わる2つ控除(必要経費の控除と税額控除)については、別記事の後編で解説します。
起業の準備段階の税金の留意点
起業の準備段階にあるとき、あるいは、起業して会社ができた直後のときに、起業家が税金について注意しなければならないことを紹介します。
起業家自身が複雑な税制を理解する
「起業家になる」あるいは「会社をおこす」と決めた人には、税制の複雑なルールを学ぶことをおすすめします。
起業の準備段階にあるとき、起業家がもっとも注力することは自身の事業でしょう。人材の確保や資金調達も最重要課題になるはずです。しかし税金のことを知ることも、それらと並んで重要なことといえます。
なぜなら税金を納付することは会社と経営者(起業家)の義務だからです。しかし「税金の払いすぎ」は利益を圧迫します。そのため起業家は、合法的な節税についても知っておかなければなりません。
起業家は、税金の手続きを経理担当者や会計担当者に丸投げするのではなく、自身でも税金の知識を身につけて適切な税の納付を心掛けたほうがよいでしょう。
会計・税務の専門家の支援を受ける
起業に関わる税金のしくみはとても複雑なので、起業家は会計・税務の専門家のサポートを受けたほうがよいでしょう。税理士、公認会計士、中小企業診断士などが会計・税務の専門家になります。このような専門家と顧問契約を結び、定期的にアドバイスをもらえる態勢をつくっておいたほうがよいでしょう。
会計・税務の専門家は、起業家の「税の家庭教師」です。
起業の税金の相談はドリームゲートへ
起業家が「自分の税金の知識は不十分だ」と感じたら、ドリームゲートの専門家にご相談ください。ドリームゲートには会計・税務の専門家が多数在籍しており、起業家に、起業に必要な税金の知識を提供することができます。税金の知識は起業に必ず必要になります。
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執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
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