賃上げ促進税制が改正され、令和6年度(2024年4月)から新しい内容になります。企業が給与等を前年度より一定以上増やした場合には、税額控除が適用されます。税額控除の額は、中小企業であれば給与等増加額の最大45%、大企業・中堅企業は最大35%です。
当記事では、改正後における賃上げ促進税制の内容を解説したうえで、企業のメリットについても、具体的な数値や金額を用いて紹介します。さらに、よくある質問にも回答しているため、ぜひ参考にしてください。
- 目次 -
賃上げ促進税制とは~まず中小企業向けを解説
まず中小企業向けの賃上げ促進税制について解説します。後段で大企業・中堅企業向けとの違いを紹介します。
この制度は、中小企業者等が前年度よりも給与等を増加させたときに、増加額の一部を法人税から税額控除するしくみです。なお、個人事業主も対象となり、その場合には、法人税ではなく所得税から税額控除されます。
参考)
国税庁 |No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)
対象となる中小企業等とは
賃上げ促進税制の対象となる中小企業等は、次の3つのいずれかの事業者になります。
1)次のいずれかに該当する法人
- 資本金の額、または出資金の額が1億円以下の法人
- 資本または出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
2)常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
3)協同組合など
なお以下の事業者は対象になりません。
- 前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人
- 同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人
- 2つ以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
対象となる給与等とは、雇用者給与等支給額とは
賃上げ促進税制の対象となる給与等とは給料、賃金、賞与、俸給、歳費などの性質を有する給与のことです。さらに通勤手当、残業手当、休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族手当、扶養手当、住宅手当などの給与所得となるものも給与等に含まれます。
なお、退職金などの給与所得に該当しないものは給与等には含まれません。
また、雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得金額の計算上、損金の額に算入されるすべての国内雇用者に対する給与等の支給額のことです。
対象期間は令和6、7、8年度
賃上げ促進税制が適用される期間は令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度になります。つまり令和6、7、8年度が対象になります。
なお、個人事業主は令和7年から令和9年までの各年が対象期間となります。
要件と税額控除率~いくら増やすと何%控除されるのか
賃上げ促進税制の要件と税額控除率を紹介します。3)と4)は上乗せ分になります。
- 1)雇用者給与等支給額(全雇用者の給与等支給額)を前年度より1.5%以上増加させる:増加額の15%を税額控除
- 2)雇用者給与等支給額(全雇用者の給与等支給額)を前年度より2.5%以上増加させる:増加額の30%を税額控除
- 3)上乗せ1:教育訓練費を前年度より5%以上増加させる:10%上乗せ
- 4)上乗せ2:「くるみん認定以上」or「えるぼし認定2段階目以上」:5%上乗せ
少し複雑なしくみになっているため、くわしく解説します。
1)と2)がいわばベースとなる要件になります。
雇用者給与等支給額の増加の幅が前年度比1.5%以上の場合、税額控除率は15%になります。つまり、雇用者給与等支給額の増加額の15%が税額控除されます。
そして増加の幅が前年度比2.5%以上になると、税額控除率は30%になります。
3)上乗せ1は、教育訓練費を前年度より5%以上増やすと10%上乗せされるしくみです。たとえば、雇用者給与等支給額を前年度より2.5%以上増加させた企業が、さらに教育訓練費も前年度より5%以上増加させた場合には、税額控除率は40%(=30%+10%上乗せ)になります。
4)上乗せ2は、くるみん認定とえるぼし認定に関わるものです。くるみん認定、または、その上級グレードのプラチナくるみん認定を受けているか、えるぼし認定の2段階目以上を受けていると、税額控除率が5%上乗せされます。
たとえば、雇用者給与等支給額を前年度より2.5%以上増加させた企業が、教育訓練費も前年度より5%以上増加させ、さらにくるみん認定か、えるぼし認定の要件に該当すれば、税額控除率は最大の45%(=30%+10%上乗せ+5%上乗せ)になります。
くるみん認定は、次世代育成支援対策推進法に基づく、子育てサポートに力を入れている企業を認定する制度です。
えるぼし認定は、女性活躍推進法に基づく、女性の活躍をサポートしている企業を認定する制度です。えるぼし認定にはグレードがあり、上からプラチナえるぼし、3段階目、2段階目、1段階目となっています。
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賃上げ促進税制利用時の注意点
賃上げ促進税制利用時の注意点を紹介します。
●賃上げ促進税制は青色申告のみを対象としていて、白色申告は対象外です
●新規に会社などを設立した場合で、前事業年度がない場合も対象外となります
●税額控除の控除上限額は1回(1年度)あたり法人税などの20%です
賃上げ促進税制を利用する際の手続き
賃上げ促進税制を利用する際の手続き方法を紹介します。
手続きは、法人税の税務申告の際におこないます。個人事業主の場合は、所得税の税務申告の際に手続きが必要になります。
確定申告書に、適用額明細書、税額控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額、控除を受ける金額、その金額の計算に関する明細を記載した書類を添付します。
なお、税務申告より前の段階において、特段の手続きは必要ありません。つまり、事前に認定を受けたり、何か書類を提出したりといったことは必要ありません。
さらに、教育訓練費に関わる上乗せ措置を利用する場合は、「教育訓練等の実施時期、教育訓練等の実施内容および実施期間、教育訓練等の受講者、教育訓練費の支払証明を記載した書類」を作成する必要があります。しかし、自社で保存しておけばよく、確定申告書に添付する必要はありません。
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具体的にどれくらい優遇されるのか~控除額は5年繰り越せる
中小企業等限定ではありますが、令和6年版の賃上げ促進税制では、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額を5年間繰り越せることになりました。具体的な金額を使って解説をおこないます。
中小企業A社を想定し、前提を以下のようにします。
【A社のケース】
■X年度
- 前年度比2.5%増の賃上げ(増加額は1,500万円)
- 税額控除の額:450万円(=1,500万円×30%)
- 赤字で法人税額0円なので税額控除できない
- 税額控除450万円を繰り越す
↓
■X+1年度
- 黒字で法人税額が1,500万円に
↓
■X+2年度
- 黒字で法人税額が1,500万円に
A社はX年度に前年度比2.5%増となる賃上げをおこない、その増加額は1,500万円でした。2.5%増のため、本来であれば増加額の30%にあたる450万円(=1,500万円×30%)を税額控除できます。しかし、X年度のA社は赤字だったため、法人税額は0円となり税額控除できません。
このままでは賃上げ促進税制の優遇を受けることができません。しかし、5年間の繰越税額控除のしくみを使うことで、将来5年間にわたって優遇を受けることが可能となる場合があります。
それではA社の「X+1年度」以降をみていきましょう。
■X+1年度
- 黒字で法人税額が1,500万円に
- 繰り越された450万円のうち賃上げ促進税制の控除上限額300万円(法人税額の20%)を税額控除
- 税額控除の残り150万円(=450万円-300万円)を繰り越す
↓
■X+2年度
- 黒字で法人税額が1,500万円に
- 繰り越された150万円を全額税額控除
- 税額控除の残り0円
A社は「X+1年度」に黒字化して法人税額が1,500万円になりました。したがって、繰り越された450万円を税額控除に使うことができます。
ただし、賃上げ促進税制の控除上限額は1回(1年度)につき法人税額の20%のため、A社の「X+1年度」の控除上限額は300万円(=法人税額1,500万円×20%)になります。そのため、450万円のうち300万円のみ税額控除されます。
そして残りの150万円(=450万円-300万円)は翌年度以降に繰り越されます。
「X+2年度」も黒字化して法人税額が1,500万円となっているため、繰越残額である150万円の全額が税額控除されます。
ここでは「X+2年度」までで試算しましたが、繰り越せる期間は5年間なので、税額控除の残りがあれば、「X+5年度」まで繰り越すことが可能です。
中小企業と大企業・中堅企業の違い
ここまで中小企業向けの賃上げ促進税制について紹介してきましたが、大企業と中堅企業向けの賃上げ促進税制も存在します。3つの賃上げ促進税制の主な違いは税額控除率であり、その率は以下のとおりです。
■中小企業(再掲)
1)雇用者給与等支給額(全雇用者の給与等支給額)を前年度より1.5%以上増加させる:増加額の15%を税額控除
2)雇用者給与等支給額(全雇用者の給与等支給額)を前年度より2.5%以上増加させる:増加額の30%を税額控除
3)上乗せ1:教育訓練費を前年度より5%以上増加させる:10%上乗せ
4)上乗せ2:「くるみん認定以上」or「えるぼし認定2段階目以上」:5%上乗せ
■大企業
1)継続雇用者の給与等支給額を前年度より3%以上増加させる:増加額の10%を税額控除
2)継続雇用者の給与等支給額を前年度より4%以上増加させる:増加額の15%を税額控除
3)継続雇用者の給与等支給額を前年度より5%以上増加させる:増加額の20%を税額控除
4)継続雇用者の給与等支給額を前年度より7%以上増加させる:増加額の25%を税額控除
5)上乗せ1:教育訓練費を前年度より10%以上増加させる:5%上乗せ
6)上乗せ2:「プラチナくるみん認定」or「プラチナえるぼし認定」:5%上乗せ
■中堅企業
1)継続雇用者の給与等支給額を前年度より3%以上増加させる:増加額の10%を税額控除
2)継続雇用者の給与等支給額を前年度より4%以上増加させる:増加額の25%を税額控除
3)上乗せ1:教育訓練費を前年度より10%以上増加させる:5%上乗せ
4)上乗せ2:「プラチナくるみん認定」or「えるぼし認定3段階目以上」:5%上乗せ
企業規模が小さくなるほど、低い給与等支給額の増加率で高い税額控除率が適用されることがわかります。つまり中小企業ほどハードルが低く、優遇が大きい制度といえます。
よくある質問と回答
よくある質問に回答します。
参考)
経済産業省| 大企業向け「賃上げ促進税制」 よくある御質問 Q&A集
中小企業庁| 中小企業向け 賃上げ促進税制 よくあるご質問 Q&A
質問1:中小企業等に該当するかどうかの判定はいつおこなうのか
中小企業向けの賃上げ促進税制を利用できるのは中小企業等だけです。中小企業等に該当するかどうかの判定は、賃上げ促進税制の適用を受ける事業年度の終了時です。
質問2:中小企業向け賃上げ促進税制の「雇用者給与等支給額」と大企業・中堅企業向け賃上げ促進税制の「継続雇用者給与等支給額」の違いは
雇用者給与等支給額は、適用年度の所得金額の計算上、損金の額に算入されるすべての国内雇用者に対する給与等の支給額です。
継続雇用者給与等支給額は、国内雇用者のうち継続雇用者に対して支給する給与等の支給額です。なお、継続雇用者とは、前事業年度および適用事業年度のすべての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者であって、前事業年度および適用事業年度のすべての期間において雇用保険の一般被保険者であり、かつ前事業年度および適用事業年度のすべて、または一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない者を指します。
質問3:教育訓練費とは何か
上乗せの要件のひとつに教育訓練費の増額があります。教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術や知識を習得させるために支出する費用です。具体的には講師謝金、施設使用料、研修委託費、研修参加費などです。
なお、教育訓練費について事前に認定などを受ける必要はありません。また、自社の役員や社員を講師にして講師料などを支払っても教育訓練費に計上することはできません。
質問4:手当として支給した商品券や食事券も、給与所得になれば「給与等」に含まれるのか
手当として支給され給与所得になれば、商品券や食事券の金額も「給与等」に含まれます。
質問5:控除額を5年間繰り越せるしくみについて制限はないのか
繰越税額控除は、全雇用者の給与等支給額が前年度より増加している事業年度に限り適用できます。
賃上げ促進制度利用の相談は税理士に相談を
賃上げ促進税制は賃上げに取り組んだ企業などを税制面で優遇する制度です。賃上げに取り組むのであれば、この制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
ただし、賃上げ促進税制は少し複雑な内容となっています。ルールがわからない場合は、ぜひドリームゲートの税理士を頼ってみてください。初回のメール相談は無料なため、なんでもお尋ねください。
執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
運営:株式会社プロジェクトニッポン
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