「売上が1,000万円になると消費税を払う義務があるって本当?」
「消費税の手続きって大変じゃないだろうか」
個人事業主で年間売上1,000万が視野に入ると、消費税の納税に関して気になる人も多いのではないでしょうか。
そこで起業家支援のドリームゲートが、「なぜ個人事業主が売上1,000万超で消費税が発生するのか」の理由や、まだ消費税を払わなくてもいいケース、注意点などを紹介します。
- 目次 -
消費税の納税義務があるのは、2年前の年間売上が1,000万円超の場合
個人事業主に消費税の納税義務が発生するのは、実際に年間売上が1,000万円を超えた年から2年後です。所得税とは考え方が違うので、まずは消費税の基本や「なぜ1,000万円を超えると消費税を支払わなければならないのか」などの疑問について解説します。
消費税の仕組み|なぜ1,000万円を超えると納税の必要があるのか
消費税とは、国内の消費一般に対して広く公平に課税する間接税です。2020年現在の税率の内訳は以下の通りです。
- 標準税率10%(うち地方消費税が2.2%)
- 軽減税率8%(うち地方消費税が1.76%)
所得税と違い、「事業者は負担しないが、消費者や販売元から受け取った税金分を代わりに納付する」という仕組みになっています。
例として、メーカーが作った商品が小売店⇒消費者とわたる一連のフローを、消費税の扱いと合わせて見ていきましょう。
<計算式>
「消費税額」=「売上税額(消費者から受け取る消費税額)」-「仕入税額(取引先に支払った消費税額)
(出典:国税庁|消費税の仕組み)
※標準税率にて計算
<1.メーカーが小売店に商品を売る>
- メーカーが小売店に50,000円+消費税5,000円で商品を売る
- メーカーが受け取った消費税5,000円を税務署に納める
- 税務署に納めた累計5,000円
<2.小売店が消費者に売る>
- 小売店がメーカーから55,000円で仕入れた状態
- 小売店が消費者に80,000円+税8,000円で商品を売る
- 小売店は受け取った消費税8,000円から仕入れ時にメーカーに支払った5,000円を差し引いた3,000円を税務署に納める(仕入額控除)
- 税務署に納めた累計8,000円
<3.消費者が買う>
- 消費者は80,000円+税8,000円で商品を手に入れる
- 消費者が支払った消費税8,000円=メーカーと小売店が納めた消費税8,000円
- 最終的には、「消費者が間接的に8,000円納めた」という構造になる
このように、「事業主が提供した商品・サービスに含まれる分が転嫁され、最終的に消費者が支払う」という構造になります。
しかし個人事業主のうち、免税事業主(年間売上が1,000万円以下の事業主。1,000万を超えると条件から外される)は、受け取った消費税の納付が必要ありません。つまり消費税分の金額を売上がそのまま儲けになります。
以上を踏まえてまとめると、売上が1,000万円を超えたら消費税を納めるというのは、「免税事業者ではなくなった結果、受け取った消費税を税務署に支払う義務がでますよ」という意味です。
※2023年度より始まるインボイス制度導入に伴い、仕入額控除の手続きに変更あり。詳しくは国税庁の「消費税のあらまし」を参照。
インボイス制度についてはこちらもご参考に
消費税の申告義務は1,000万円を突破してから2年後
実際に消費税の申告義務が発生するのは、年間売上が1,000万円を突破してから2年後です。基準期間(個人事業主は前々年度の1~12月の期間のこと)の課税売上高で判断されます。
その課税期間(個人事業者は暦年、法人は事業年度)の基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1,000万円を超える事業者は、消費税の納税義務者(課税事業者)となります。
引用:国税庁|消費税の仕組み
たとえば令和1年の1~12月に1,100万円を売り上げたときは、令和3年1月より免税事業者から課税事業者に扱いが変わり、消費税の納税義務が発生します。令和1年と2年分は免除です。
1つ例外としてあるのが、特定期間中(1年前の1~6月30日まで)に課税売上高が1,000万円を超えたときです。具体的いうと、令和2年の6月30日までに1,000万円を超えたときは、2年経っていなくても課税事業者になります。
確定申告の際に消費税を納める
消費税を納めるタイミングは確定申告のときです。申告期限までに確定申告書を作成し、申告した額分の税金を支払います。
消費税の申告期限は、3月31日までです(所得税は3月15日までが一般的)。
累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
⇒事業計画書作成ツールを無料で利用してみる
- 日本政策金融公庫の創業計画書も作成でき、融資申請に利用できる。
- 業種別にあなたの事業計画の安全率を判定
- ブラウザに一時保存可能。すべて無料!
個人事業主の消費税はどうやって計算する?
個人事業主の消費税の計算はそこまで難しくないですが、慣れるまでは少し大変です。ここからは個人事業主の消費税の計算方法をご紹介します。
消費税の基本的な考え方と計算方法
消費税の計算方法は、原則課税の方式で行うのが基本です。先述の通り、消費税は預かった消費税をそのまま納めるのではなく、仕入れ・経費にかかった消費税分も差し引いた分を納税します。
標準税率で消費税を計算するときは、国に納める分と自治体に納める分を区別します。前述したとおり、消費税は正確には「消費税と地方消費税」に分かれます。
- 標準税率10% → 消費税7.8%+地方消費税2.2%
- 軽減税率8% → 消費税6.24%+地方消費税1.76%
ここでは標準税率のケースを例にして、まず10%のうち国に納める7.8%を計算し、残りの地方消費税2.2%を算出しましょう。もし金額が税込み表示の場合は、数値に100/110を乗じて税抜価格を算出します。
では実際に、売上が税抜き1,000万円・仕入額が税込み660万円だった場合の納める消費税(消費税・地方消費税)を見ていきます。
<消費税/税率7.8%>
(売上税額1,000万円×7.8%=78万円)-(仕入税額660万円×100/110×7.8%=46万8,000円)=31万2,000円
<地方消費税/税率2.2%>
(売上税額1,000万円×2.2%=22万円)-(仕入税額660万円×100/110×2.2%=13万2,000円)=8万8,000円
<合計消費税>
31万2,000円+8万8,000円=40万円
【合計課税売上】1,000万円-660万円×100/110=400万円
【消費税】400万円×78/100=31万2,000万円
【地方消費税】400万円×22/100=8万8,000円
上記のケースでは、40万円を消費税として納めます。
前年の48万円超の消費税は中間申告が必要
もし個人事業主で前年度に納めた消費税(地方消費税は除く)が48万円を超えると、次年度からは中間申告書の提出が必要です。
中間申告の回数は、「直前の課税期間の確定消費税額(中間申告対象期間の末日までに確定した消費税の年税額)」で決まります。
直前の課税期間の確定消費税額 | 申告数 |
48万円以下 | 確定申告のみ |
48万円超~400万円以下 | 確定申告+中間報告1回 |
400万円超~4,800万円以下 | 確定申告+中間報告3回 |
4,800万円超 | 確定申告+中間報告11回 |
手続きによっては、48万円以下でも任意での中間申告が可能です。
消費税の課税業者は軽減税率にも注意
消費税の課税業者は、軽減税率(複数税率)についても注意が必要です。軽減税率とは、普通のより低めに設定された消費税率です。主に令和1年10月以降に10%になった影響で、特定の商品のみに適用の経過措置8%(国税6.24%・地方税1.76%)のことを指します。
軽減税率が適用される商品は以下の3つです。
- 酒類、外食(ケータリング含む)を除く飲食料品(スーパーの食品・テイクアウト品など)
- 一体資産(おもちゃ付きのお菓子など)のうち、「税抜価額10,000円以下」「食品の価値を占める割合が2/3以上のもの」
- 週2回以上発行される新聞
事業によっては10%と8%の売上・仕入れが入り乱れたり、取引先や消費者から問い合わせが来たりが考えられます。以下の点に注意が必要です。
- 毎日の業務のうち軽減税率に関係することを確認する
- 取引の売上・仕入に軽減税率があるか1つひとつ確認する
- 税率ごと(8%・10%)で区分して請求・記帳・申告する
- 消費税の計算で適用税率を間違えないようにする
申告内容や額を間違えると、追加徴税になる可能性もあります。
個人事業主が消費税を納税するために必要な手続き
個人事業主が消費税を納税するためには、以下の手続きが必要です。
<消費税課税事業者届出(基準期間)>
課税売上高が1,000万円を超えたときに行う手続き。
<消費税課税事業者届出(特定期間)>
特定期間のうちに課税売上高が1,000万円を超えたときに行う手続き
<消費税の確定申告>
取引でかかった消費税額を確定申告で税務署に申告する。
税務署に提出する必要書類まとめ(一般課税)
消費税関係で税務署に提出する書類は以下の通りです。
- 消費税課税事業者届出手続(基準期間用もしくは特定期間用)
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(一般用)
- 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
- 課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表
- 【中間申告を行う場合】中間申告書
- 【還付を申請する場合】消費税の還付申告に関する明細書(個人事業者用)
累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
⇒事業計画書作成ツールを無料で利用してみる
- 日本政策金融公庫の創業計画書も作成でき、融資申請に利用できる。
- 業種別にあなたの事業計画の安全率を判定
- ブラウザに一時保存可能。すべて無料!
計算がグッとカンタンになる「簡易課税制度」とは?
消費税額の計算方法の中には、簡単な数式に当てはまるだけで税額が計算できる簡易課税制度があります。計算がとても簡単になるため、制度を使える人はこちらの制度を使いながら、納税の準備を進めることがおすすめです。
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、特定の条件に当てはまる事業所が場合、消費税の計算を簡単にできる制度です。
売上や仕入1つひとつのチェックが必要だった原則課税と違い、課税売上高にみなし仕入率を乗じるだけという単純な計算になります。
簡易課税制度が適用される条件とその計算方法
まず、簡易課税制度が適用される条件は以下の2つに適合することです。
- 課税期間の基準期間における課税売上高が5,000万円以下であること
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに納税地の所轄税務署長に提出していること
続いて、簡易課税制度における消費税の計算式は次の通りです。
消費税額=売上課税額にかかる消費税額×(売上課税額にかかる消費税額×みなし仕入率)
みなし仕入率とは、「この業種だとだいたいこれくらいの控除額や経費額になるだろう」という予想割合です。これでわざわざ仕入額や仕入税額を計算しなくても、みなし仕入率で代用できます。
みなし仕入れ率 | 割合 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業等)小売業・農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) | 80% |
第3種事業(製造業等)農林漁業(上記以外)・建築業・製造業など | 70% |
第4種事業(その他)飲食店業など | 60% |
第5種事業(サービス業等)運輸通信業・金融保険業・サービス業 | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
(参考:国税庁|消費税の仕組み)
たとえば課税売上高が税抜4,000万円・事業が第2種事業だった場合の計算式は以下になります。
※標準税率で計算
(4,000万円×消費税率0.1)-(4,000万円×消費税率0.1×第2種事業0.8)=消費税額80万円
簡易課税制度を選択した2つ以上の事業を運営しているとき(一般)
もし2種類以上の事業を営んでいたときは、基本的に事業区分と課税売上高の割合を見て計算します。課税売上高税抜4,000万円のうち、第1種事業が2,000万円・第2種事業が1,000万円・第3種事業が1,000万円のときは次の通りです。
(4,000万円×消費税率0.1)-{(2,000万円×消費税0.1×第1種事業0.9)+(1,000万円×消費税率0.1×第2種事業0.8)+(1,000万円×0.1×第3種事業0.7)}=消費税70万円
もし事業の区分を行っていなかった場合は、1番低いみなし仕入率を全体に適用します。
簡易課税制度を選択した2つ以上の事業を運営しているとき(例外)
簡易課税制度の消費税計算のとき、次の2つに当てはまる場合は、少し特殊な計算式になります。
<2種類以上の事業を営む事業者で1種類の事業に係る課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合>
75%以上を占める事業のみなし仕入率をすべての事業に適用。
<3種類以上の事業を営む事業者で、2種類の事業に係る課税売上高の合計が全体の課税売上高の75%以上を占める場合>
2種類のうち1つは通常のみなし仕入率、他の2種類は2つのうち低い方のみなし仕入率を適用。
税務署に提出する必要書類まとめ(簡易課税制度)
簡易課税制度を使いたい時に、税務署に提出する書類は次の通りです。
- 消費税簡易課税制度選択届出書
- 消費税及び地方消費税の確定申告(簡易課税用)
- 課税標準額等の内訳書
- 税率別消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表
- 控除対象仕入税額等の計算表
もし簡易課税制度を使いたくないときは、消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出します。
●累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
●日本政策金融公庫の創業計画書も作成でき、融資申請に利用できる
●12業種・4188社の経営者と比較し、あなたの事業計画の安全率を判定
これらの機能がすべて無料で利用できます!
年間売り上げが1,000万円を超えたら法人成りの検討もおすすめ
年間売上で1,000万円を狙えるなら、もしかすると法人成りした方が節税につながるかもしれません。ここからは法人成りのメリット・デメリットについてご紹介します。
売上1,000万円の個人事業主と法人で比較
年間1,000万円を売り上げた際の個人事業主と法人でざっと比較を行いました。
個人事業主 | 法人 | |
税率 | 所得税33% | 法人税23.2% |
経費・控除 | 事業に関わる必要経費のみ 課税所得の分配が出来ない |
給与所得控除 自分の給料などを経費化 家族・配偶者と課税所得の分配ができる |
退職金制度 | 無 | 有 |
社会保険 | 無 | 有 |
赤字の繰越 | 3年 | 9年 |
とくに大きな違いは税率の違いと経費・控除の幅です。
法人は累進課税の所得税率ではなく、税率が一律の法人税率になります。1,000万円の時点で税率に10%近い差が出ている上に、もし4,000万円超になると所得税の方が20%以上高くなります。
また。法人成りした方が使える経費の幅が広いです。法人成りすることで経費にできるものを以下でまとめました。
- 賃貸の家賃
- 自分への給料
- 社会保険料
- 生命保険の支払(種類に寄る) など
節税面より詳しく知りたい場合は、ドリームゲートの「法人成りは節税になる?絶対にソンしたくない個人事業主へ解説」もぜひご覧ください。
法人成りするメリット・デメリットとは?
法人成りには金銭面以外にも、個人事業主にはないさまざまなメリットがあります。とはいえ、デメリットもいくつかあるため、タイミングや状況を見ながらの法人成りの検討がおすすめです。以下より法人成りのメリット・デメリットをご紹介します。
<法人成りのメリット>
- 社会的信用度が上がる
- 有限責任になる
- 事業承継ができる
- 消費税の納付が2年間免除できる など
<法人成りのデメリット>
- 事務的な負担が増える
- 法人成りの手続きで諸経費がかかる
- 赤字でも法人住民税の支払い義務がある
- 従業員の社会保険・労働保険の負担が発生する
詳しく知りたい場合は、ドリームゲートの「「法人成り」6つのメリットと4つのデメリット、簡単に行う方法とは」もぜひご覧ください。
1,000万円超で消費税の納税義務が発生するデメリット
年間の売上が1,000万円を超えて消費税の納税義務が発生すると、今までになかった手間やリスクが増えます。ここからは消費税の納税義務が発生することによるデメリットをご紹介します。
経理面での手続きが増える
消費税の納付には、消費税を考慮した日々の仕訳・帳簿付け・チェックが必要になるため、経理面で手続きの負担が増えます。納税の手続きや取引先との整合性を取るために、すべての消費税の内訳を正確に把握しなければなりません。
事業が大きくなればなるほど経理の手間も増え、1人では回らなくなります。そのときは税理士や経理担当に、依頼料や賃金を支払ってでも作業を頼むことになるでしょう。
消費税の申告漏れのリスク・ペナルティが大きくなる
所得税の確定申告だけでなく、消費税の確定申告を行うことから、より申告漏れのリスクが高まります。
もし納税に不備があると、追徴課税として余計に税金を支払わなければなりません。考えられる追徴課税は以下の通りです。
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 不納付加算税
- 重加算税
- 延滞税
抜・税込みチェックや売上・仕入れの確認など、めんどうな作業が多いのが消費税申告の大変なところです。日頃から少しずつ経理作業を進めることが大切です。
売上1,000万円を超えたら消費税|法人化も検討しよう
個人事業主は、年間売上1,000万円を超えてから2年後に消費税の納付義務が発生します。
あくまで消費者の代理で納める形ですが、さまざまな手続きや決まりを覚える必要があるので注意が必要です。消費税の確定申告の際は、追徴課税のペナルティを受けないように、経理関係の対策をおすすめします
また、消費税が発生する年間売上1,000万円超は、個人事業主から法人成りするのには有効なタイミングです。ぜひ検討すべきでしょう。