突然ですが「国民の三大義務」って覚えてますか?
たしか中学生のときに教わったはずです。
答えは「教育」「勤労」「納税」。
今回は、このうちの「納税」について考えていきます。
事業を始めて利益がでると、税金がかかります。
利益が出ていなくても、発生する税金もあります。
この税金を払わないと、いったいどうなると思いますか?
結構、怖い目にあいます。
私が経験した1億の税金滞納しトッカンに差し押さえされかかった事例をもとに、納税と滞納についてみていきましょう。
- 目次 -
なぜ1億円も税金を滞納してしまったのか
ある日、中小企業の社長が相談に来ました。
相談内容は、「所得税を1億円滞納していて、税務署から厳しく督促されている。どうしたらよいか」ということでした。なんでそんなに多額の税金を滞納しているのか尋ねると、次のような話をしてくれました。
その社長は、マンション1棟を、個人で所有していました。わりと大きなマンションで、時価8億円ぐらいでした。そのマンションは、会社が銀行からお金を借りるときに担保に入れました。
会社は、最初は調子よかったのですが徐々に業況が悪くなり、借金の返済ができなくなってしまいました。
そうすると銀行は、マンションを売って借金を払えと言ってきました。人のいい社長は、泣く泣く銀行の言うとおりにマンションを売りました。
マンションは8億円で売れました。
土地が値上がりしていたので、売却益がでました。税理士さんが計算したら、だいたい1億円の所得税がかかることが分かりました。
7億円を借入金の返済に充て、残り1億円は税金を支払うためにとっておきました。
銀行はその1億円を、その銀行の口座に入れておいてくれと言ってきました。
人のいい社長は、銀行の言うとおりにしました。
それから半年が過ぎました。会社の業績は回復せず、また返済ができなくなってしまいました。すると銀行に、税金支払いのためにとっておいた1億円を、借入金と相殺されてしまいました。
そうなると、1億円の所得税を支払うことはできません。
こうしてこの社長は、1億円の所得税を滞納することになってしまったのです。
家宅捜索と差押え
そんなある日、社長が会社で仕事をしていると見知らぬスーツ姿の男性が数人尋ねてきました。
「税務署です。これから家宅捜索をします!」
「はい、そこ動かないで!」と強めの口調で言われて、みんな凍りついたそうです。
彼らは、「税金を滞納しているから差し押さえに来た」「自宅も現在捜索している」といった説明をしたあと捜索を開始します。
机の引き出しや本棚などは中身がすべて出され、金庫の場所を聞かれて鍵を開けさせられ、パソコンは入念に調べられ・・・と、テレビドラマに出てくるような光景が繰り広げられました。
幸か不幸か、社長は自宅以外にたいした財産がありませんでしたので、差押えされるようなものは何も見つかりませんでした。税務署員は仕方なく、額面100万円の未公開株(昔付き合いで買ったもので、価値はほとんどありません)を差し押さえて帰っていきました。
散らかった部屋のなかで、しばらくみんな呆然としていたそうです。
恐怖の延滞税
税金を滞納すると恐ろしいことの2つ目は、延滞税です。その税率は、べらぼうに高いのです。
詳しい計算は省きますが、だいたい9%ぐらいです。ゼロ金利の時代に、ちょっと考えられない税率ですね。
この事例は少し前の話なのですが、当時はもっと高い税率でした。なんと14.9%でした。
ちょっと計算してみてください。
1億円を1年間延滞したらどうなるかを。
なんと約1500万円も余分に払わなければなりません。
自分の給料もろくに取れない貧乏会社の社長にとっては、払える金額ではありません。少ない給料のなかから一生懸命税金を払っていましたが、払っても払っても雪だるま式に滞納額が増える状態になってしまったのです。
怖いですね。
所轄の税務署から国税局、そしてトッカンへ
ここまでが、相談の時に社長が話したことです。
まずは、税務署に事情を説明に行くことにしました。
このままでは、強制執行が避けられません。
社長の資産は自宅だけとはいうものの、これを取られたら住むところが無くなってしまいます。
社長の奥様は今回の件で精神的にきつい状況にあり、このうえ自宅もなくなったら持ちこたえられるかどうか分かりません。
税務署に事情を話して、分割で返済させてほしいと頼みこみました。税務署からは「自宅は公売にかけて納税に充てる」と言われましたが、事情を考慮してくれたようで公売は猶予してくれました。
しかし1億円超の滞納です。このままで済むわけがありません。
担当が、所轄の税務署から、国税局に変更されました。
大口の滞納者は、国税局が直々に担当するのです。
税務署よりも一層厳しいことを言われましたが、何とか分割返済を続けて凌いできました。
すると今度は、国税局内で担当が変さらになりました。
今度は、特別国税徴収官が担当です。トッカンとも言われ、滞納者のなかでも悪質な事案を担当する、税金取り立ての最高峰です。
悪質な脱税者を相手にする国税査察官(マルサ)はよく知られていますが、トッカンはマルサよりも強い権限を持っていて、令状なしで強制捜査でき、差押えもできます。
このままではまずい・・・
引き延ばすのも限界だと感じ、とっておきの秘策を繰り出すことにしました。
そして・・・一発逆転へ
秘策とは「保証債務履行の特例」といわれているものです。これは、保証債務を履行するために土地建物などを売った場合には、所得がなかったものとする特例です。今回は、会社の債務を、保証人である社長個人が土地建物を売って返済したので、使えそうです。
この特例を使って「所得がなかったもの」となれば、1億円の税金自体がなくなります。
「そんな便利な特例があるのなら、最初から使えよ」と言われそうですが、この特例は履行した保証債務が取り返せないことが前提になります。例えば会社が倒産してしまったので会社から取り返すことができない、といった状態ならこの特例が使えます。
しかし会社は生きており、しかもこの時点では黒字になっていました。
税理士さんにも相談したのですが、無理だと言われたので、この特例の適用はあきらめていました。
切羽詰まってしまい、もう一度この特例について通達などを調べてみると「債務超過の企業の債務を保証した場合はこの特例を利用できる」といった文言を見つけました。
早速税理士さんと交渉し、この特例を使って更正の請求を出してもらい、特別国税徴収官にも認めてもらって、滞納状態を脱することができました。
めでたしめでたしです。
さいごに -税金について、よく理解しておこう ! -
なぜこの社長は大変な目にあってしまったのでしょうか。
ターニングポイントは、2つありました。
1)納税用のお金を銀行から言われるままに口座に入れておいた
借入金返済が延滞しているからといって、すべて銀行の言うなりになる必要はありません。返済が滞っていると、銀行はいろいろなことをしてくる可能性があります。納税資金はその銀行から引き出して、別で保管しておくべきでした。
2)保証債務履行の特例を最初から使うべきだった
そもそも最初に使っていれば、税金自体が発生することがなく、こんな苦労をしなくてすみました。ただこういう特殊なことは普通の人は知りませんので、税理士さんが最初に教えてあげるべきだと思います。
しかし実際は、資産税関係はくわしくない税理士さんが多いという現実があります。経営者自身も、自分の身を守るために、税務知識を高めておくことが必要だと思います。
何にしろ、税金を滞納すると大変な目に遭います。悪意をもって税金を逃れるのはもちろんダメですが、今回のように悪意がなくても滞納者になってしまうこともあります。
起業を志す方は、税金についてもしっかりと勉強しておきましょう。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 太田 眞彦氏(株式会社さあ頑張ろうぜ)
株式会社さあ頑張ろうぜ 代表取締役 1960年生まれ。東京都出身。経営コンサルタント歴20年のベテランが、アイデア出しから起業までを支援します。
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