私は「お金を味方につける専門家」として活動しているドリームゲート・アドバイザーの川居宗則です。銀行に32年勤務し、主に融資業務に従事、関わった案件は10,000件を超えます。2か店の支店長を経験して銀行の現場で感じたことを活かし、融資のアドバイスやセミナーを行っています。
さて、新たな創業融資制度として「スタートアップ創出促進保証制度」が始まりました。起業のネックになりやすい経営者保証について、無しという条件となっている画期的な制度です。本コラムでは、この制度の内容から、該当する対象者、活用の留意点まで説明していきます。創業融資をこれから利用することをお考えの方はぜひ参考にしてください。
- 目次 -
スタートアップ創出促進保証制度の概要
スタートアップ創出促進保証制度とは、民間金融機関での融資の際に、信用保証協会が保証し、最大3,500万円まで無担保・無保証で融資が受けられるという創業融資制度です。これから創業する方はもちろん、創業後5年未満の法人も対象にしています。
岸田政権の「骨太の方針2022」における国内スタートアップの数を5年で10倍にするという目標を背景に、今年の3月から開始されました。
※次のいずれかに該当する場合、3年以内とすることができます。なお、プロパー借入とは、信用保証協会の保証を付さない借入をいいます。
①本保証付借入と原則同時に、申込金融機関からプロパー借入をする
②保証申込時にプロパー借入の残高がある
(出典:東京信用保証協会 スタートアップ創出促進保証制度リーフレット)
融資における経営者保証の状況
下記は、中小企業庁が公表している2020年度における経営者保証の状況です。なんと8割の中小企業・小規模事業者において経営者保証を金融機関に差し入れています。
国では、この経営者保証の高い比率に問題意識を強く持っています。スタートアップを含む起業家・創業者の育成は、日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決する鍵です。しかし、失敗時のリスクが大きいために起業することをためらう起業関心層の方のうち、およそ8割が「借金や個人保証を抱えること」を懸念されています。
経営者保証の提供状況(2020年度)
(出典:中小企業庁HP 令和2年度「経営者保証に関するガイドライン」周知・普及事業(中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業)事業報告書より作成)
本制度は、令和4年6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を踏まえ、その起業・創業の阻害要因を取り除くために設けられました。つまり、経営者保証が起業のネックの一つと考え、経営者保証無しの融資制度により心理的負担を軽減します。
この背景には、岸田政権では「骨太の方針2022」の中で、新しい資本主義に向けた重点投資分野の一つに、「スタートアップ(新規創業)への投資」を掲げていることがあります。政府は、スタートアップの数を5年で10倍にすることを視野に入れているのです。
スタートアップ創出促進保証制度の内容
本制度は2023年3月15日から開始しています。民間金融機関融資の際に、信用保証協会が保証する制度です。信用保証協会とは、中小企業や小規模事業者の資金調達を円滑にすることを目的とする公的機関です。具体的には、中小企業や小規模事業者が金融機関から事業資金を調達する際、自らが公的な保証人になり融資を受けやすくしています。
これまで民間金融機関では、信用保証協会の保証付き融資の場合、経営者保証も要求するのが一般的です。本制度では、信用保証協会の保証だけで、経営者保証は要求しないという内容となっています。
保証限度額は3,500万円で担保保証人は必要ありません。保証期間は10年以内であり、そのうち据置期間は1年以内であり一定の条件を満たす場合は3年以内です。
保証料率については、各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せされた水準となっています。これは、経営者保証無しというリスク分を上乗せしているものです。
また、創業を予定されている方、または税務申告1期未終了の方は、創業資金総額の1/10以上の自己資金が必要となっています。
保証対象者
(出典:東京信用保証協会 スタートアップ創出促進保証制度リーフレット)
上記の通り、創業を予定されている方はもちろんのこと、創業後5年未満の法人も対象にしていることは、要チェックです。
創業融資で民間金融機関に期待されていること
経営者保証に依存しない新規融資の割合
(出典:中小企業庁HP 金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」および中小企業庁「政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」「信用保証協会における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」より作成)
このグラフは、金融機関新規融資全体で経営者保証に依存しない比率の推移を表しています。政府系金融機関52%に比べて、民間金融機関は32%に留まり大きな差が生じています。
創業融資でも同様のことが言えます。政府系の日本政策金融公庫の取り扱いをイメージする方が多いと思います。日本政策金融公庫の創業融資では比較的積極的に保証人無しの条件で取り組んでいます。そこで、今回民間金融機関が活用する保証協会付き融資において、保証人無しの制度を設けることにより、この差を埋めていくことを目指していると考えられます。
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スタートアップ創出促進保証制度の留意点
創業計画書(スタートアップ創出促進保証制度用)
本制度の融資審査に際して、A4サイズ3枚程度の創業計画書を提出します。内容は、日本政策金融公庫に提出する創業計画書に類似しています。
具体的な項目としては以下の通りです。
- 事業概要
- 創業準備の着手状況 (税務申告1期以上終了している者は記入省略可)
- 必要な資金及び調達の方法(税務申告1期以上終了している者は記入省略可)
- 収支計画(今後1年間分)
- 販売・仕入先
- 借入金等状況
- その他(計画に関する補足説明がありましたらご記入してください)
創業計画でアピールすべきことは、「なぜこの事業を行うのか」「この事業を行ううえでの知識、技術・ノウハウ」「他社と差別化できる強み」「ターゲットとする顧客」です。この内容については、できるだけ手厚く事業概要やその他補足説明に記入して、審査する金融機関に訴求しましょう。
ガバナンス体制の確認
この項目は、日本政策金融公庫の創業融資にはない本制度独自のものです。中小企業庁のホームページでは以下の説明があります。
「本制度により融資を受けた後、会社を設立して3年目及び5年目のタイミングで中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」に基づく確認および助言を受けていただくことになります。企業が創業期から次のステージに移行するにつれガバナンス向上の取組みが期待される中、創業期の中間期・終期のタイミングにおいて、中小企業活性化協議会の統括責任者などによる助言や必要に応じて磨き上げ支援を受けることで、創業者の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に繋げていただくことを目的としています。」
ガバナンスとは、「統治・支配・管理」を意味する言葉です。企業視点では「コーポレートガバナンス」の意味で使われることも多く、この場合は健全な経営をおこなうための管理体制や企業統治のことを指します。
つまり、経営者保証無しの融資を受けた事業者は、健全な経営を続けるようにというメッセージです。そして、3年目、5年目にチェックを受けるということです。
チェック項目は、下記3項目です。
- 経営の透明性:経営者へのアクセス、情報開示、内容の正確性
- 法人個人の分離:資金の流れ、事業資産の所有権
- 財務基盤の強化:債務償還力、安定的な収益性、資本の健全性
さいごに
新たな創業融資制度である、「スタートアップ創出促進保証制度」について説明しました。これから活用が増えてくると予想されますので、本制度の利用に関しては、金融機関または最寄りの信用保証協会にお問い合わせください。
創業において、初期の設備資金、運転資金を確保することは大変重要です。ぜひ創業を後押しするために設けられた本制度を上手く活用してください。
この制度の利用にあたり、創業計画書の作成や準備など、分からないことがありましたら無料のメール相談よりご相談ください。サポートさせていただきます。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 川居 宗則
(かわい むねのり) /経営デザインコンサルティングオフィス
長年金融機関に勤務し、融資課長、支店長を経験し、融資実行は5,000社以上という実績を持つ川居アドバイザー。融資以外にも、補助金・助成金なども相談できます。資金調達の力強いパートナーになる方です。
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