在宅勤務がいつの間にか定着し、ネット通販が生活の一部になってしまった中、いろいろなトラブルが発生しているには、ご存じかと思います。
実は、消費者が巻き込まれるトラブルの裏で、ネット通販に進出したばかりの事業者がトラブルに巻き込まれるケースが意外と多いことをご存じでしょうか?
今回は、事業者側が陥り易いトラブルの1つである商標権にまつわるトラブルと、その対策について、商標を取り扱う弁理士としての立場から、話をしてみたいと思います。
- 目次 -
1.サイト名や商品名で起こりがちな商標権トラブル
「商標権の侵害って、どういうことですか?」
突然の電話で矢継ぎ早に、そんな質問を受けるケースが、一年を通して結構な数に上ります。
具体的には、商標権者やその代理人から、
「御社のサイト名や通販サイトの名称が、当方の商標権を侵害しており、即時に、その名称を変更してください。速やかに対処していただけない場合には、法的手段を執らせていただきます。」
といった内容の内容証明郵便やメールを受け取って、慌ててお電話をいただくケースです。
自社の社名として法務局で登記できているのに、なぜ商標権侵害として、こんな連絡を受けてしまうのか、訳が分からなくなっているケースが大半です。
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2.いますぐできること(商標制度を知り、調べること)
上述のようなケースに陥らないためには、商標制度等の正しい知識を、ビジネスの常識として知っておいていただくのが、一番の対策になります。
商標権は、商標権を取得した商品やサービス(役務)の範囲で、登録商標を独占的に使用できる権利です。商標権は、日本国内の全域に及びます。
つまり、他人が、同じ種類の商品やサービスの名称に同一又は類似の商標登録を持っていれば、こちら側はその名称が使えない、ということです。
法務局で商号(社名)の登記が出来ているから、というのとは、直接関係ない話です。さらに、商標登録は早い者勝ちです。
商標制度を知る、というのは、単に制度を知るだけでなく、コスト面での理解も重要です。他人の商標権を侵害し、こちらの名称を変更する場合、相当なコストが掛かることは優に予想できると思います。他方、商標登録出願する費用は、弁理士費用を含んでも最低区分数で、出願から取得(10年間分の設定登録料を含む)で、25万円程度が平均なのではないでしょうか。つまり、1年あたりで見ると、25,000円程度なのです。
そして、もう一つ重要なのが、商標調査をしてみる、ということです。
「自分は大丈夫だろう?」なんてのんきなことを言っている場合ではないかもしれません。
特許庁が、無料で商標調査できるサイトを用意しています。特許情報プラットフォーム:通称「J-Plat-Pat」(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)です。
具体的な調査方法はここでは説明しませんが、まずは、ご自身で調べてみるということが重要だと思います。もちろん、最終的な調査や判断は、専門家に相談されることを、強くお勧めしますが。
3.商標権って、何?(商標権が守ってくれるもの)
商標権は、他人が勝手にこちらの商品名を使うのを排除する侵害防止の手段と考える人が大半なのではないでしょうか。
間違ってはいませんが、それが主な目的ではありません。
商標権は、商標を通して、みなさんの商売の信用を保護する制度なのです。
化粧品の例がわかりやすいと思いますが、多くの女性は、自分のお気に入りのメーカーのロゴマークのある化粧品を、何の疑いもなく手にすると思います。それは、ブランド(ロゴマーク)が、品質を含めた商品の信用力を示していることを表しています。
商標権=「商標品やサービスの信用を真剣に守ろうとしている証」、そんな言い方もできるかもしれません。
「でも、商標って具体的には何で、商標権は具体的には、どこまで及ぶんですか?」そんな質問が聞こえてきそうですね。
「商標」は、具体的には、商品やサービス(役務)の名称です。社名(商号)が、人や組織の名称であるのとは、実は大きく異なります。社名(商号)は、1つの組織に原則1つですが、商標は、商品やサービス毎ですから、1つの会社が多くの商標権を持っても良いわけです。
また、社名(商号)は、文字だけですが、商標は、文字や図柄(ロゴを含む)単独でも良いですし、それらの組み合わせもOKです。色もいろいろですね。最近は、音の商標なども登録可能です。
商標の使い方も様々で、商品自体に商標を附するだけでなく、パッケージやその商品のサイトに記載することも、商標の使用になります。
せっかく商標登録できた商標を、他人が同種の商品のパッケージに使っていたら、さすがに頭に来ると思います。
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4.商標登録出願のメリット/デメリット
もう既に、お気づきだと思いますが、商標を通して、自社の商品やサービスの信用が生まれ、そして、商標登録されることで、その信用が守られることになるのです。
これが、商標登録出願の最大のメリットだと、私は考えています。
そして、その信用を貶めようとする他者を排除できるのです。
商標登録済みのマーク(🄬)があると、消費者が、大手企業の商品やサービスだと勘違いしてくれるような副次的なメリットも、無くはないようですが。
商標登録出願のデメリットを、あえて1つ挙げるとすれば、費用が掛かる、ということでしょうか。とはいえ、他人から警告を受けるリスク(費用的や精神的な負担)を考えると、お安いものだと思います。
このように、商標登録を得ることは、実はビジネス上、メリットばかりに近い制度なのです。
事業者の信用や利益を守るだけでなく、お客さんが偽物を買ってしまわないように、つまりは消費者を守るためにも、是非、商標登録を得ていただきたいと思います。
商標登録出願にあたっては、どんな商品やサービスに使うかをしっかり吟味して、正しい権利を取得する必要があります。商品やサービスの内容に迷ったら、気軽に相談していただけたらと思います。
その他、ブランディングの全体や商標の調査方法などについても疑問や不安をお寄せいただけたらと思います。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 加藤 道幸(弁理士、行政書士)
芦田・木村国際特許事務所
法務・知財・特許を専門とし、多くの起業家やベンチャー、中小企業の知的財産に係るお手伝いをしてきている加藤アドバイザー。また全国でも珍しい行政書士資格を持つ弁理士です。
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