どうなる生成AIと著作権、集英社の写真集販売中止のワケをさぐる

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 森下 梓

少し前に、生成AIを利用して生み出された女性モデルを利用したグラビア写真集について、著作権等の議論が不十分であることから集英社が販売を停止したという報道がありました。今回は、この報道を踏まえて、生成AIと著作権の問題について考えてみたいと思います。

生成AIとは

近年、生成AIの技術開発が盛んです。生成AIとは、機械学習モデルの一種であり、テキストや画像等のアウトプットを生成するところに特徴があります。

テキスト生成系AIとしては、ChatGPTが著名であり、膨大なデータ学習により、表現系において人間と遜色ないアウトプットを行うことで、話題になりました。

一方、画像生成系AIも大きく発展しています。例えばMidjourneyは、テキストを入力として、テキストに合致する画像をアウトプットする有名な画像生成系AIであり、これを利用した漫画なども多く生み出されています。

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著作権法の問題

ところで、著作権法は、小説などの言語の著作物、絵画等の美術の著作物の権利を保護するものです(著作権法10条)。そのため、生成AIの利用が、著作権法に違反しないかどうかが問題となり得ます。

生成AIの利用にあたり、著作権法が問題となる場面は、主に次の3つです。

  • ア 著作物を生成AIの学習用データとして利用する場面
  • イ 著作物を生成AIの入力データとして利用する場面
  • ウ 生成AIの出力したテキストや画像を利用する場面

このうち「ア」及び「イ」の場面については、既に著作権法で手当てがされています。

著作権法30条の4は、著作物を情報解析の用に供する場合や、その他著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく、情報処理の過程における利用等に供する場合には、著作権者の利益を不当に害さない限り、著作権侵害とならないことを定めているのです。

著作物の学習用データとしての利用や、入力データとしての利用は、この例外規定に該当する限り、著作権者の承諾を取る必要はありません∗1。

一方、「ウ」については、著作権法上特段の手当てはされておりませんので、原則に戻って考える必要があります。

著作権法において、著作権侵害が成立するためには、類似性と依拠性が認められる必要があります。類似性とは、他人の著作物と似ていることを要件とするものであり、依拠性とは、他人の著作物に依拠したこと、わかりやすく言えば、他人の著作物を知って、それを模倣したことを要件とするものです。

これを踏まえて、具体的に、どのような場合に生成AIの出力したテキストや画像を利用することが著作権侵害となり得るのか、考えてみましょう∗2。

∗1もっとも、実際にこの規定に該当するかどうかは慎重な検討が必要ですし、著作権法とは別途、個人情報保護法や不正競争防止法、他社との秘密保持契約等も問題となり得ます。

∗2著作権法上、著作物を個人的に限られた範囲内で利用する場合(私的利用の場合)には、著作権侵害が生ずることはないのですが(著作権法30条を参照。そのほかにも、教育機関における複製等、いくつかの例外規定があります。)、以下では、生成AIによる生成物を、ビジネスに利用することを前提として検討します。

(1)入力データに他人の著作物が含まれている場合

まず、入力データとして利用された著作物に係る著作権侵害が問題となる場合があります。例えば、ある絵画(著作物)の画像を入力データとして入力し、その結果、その絵画とそっくりな画像が生成されたとします。

この場合、生成された画像は元の絵画と似ているため、類似性は認められます。そして、利用者が自ら絵画を入力データとして利用していることから、依拠性についても認められると解されています。

そのため、そもそも入力データと類似性の認められるデータを出力する生成AIの利用には、リスクがあるということができるでしょう。本件の例のように、画像を入力データとして利用し、これに似た画像を出力する生成AIは、著作権侵害のリスクが大いにあります。一方、例えばテキストを入力データとして、画像を出力する生成AIのように、入力データと生成物との間に著作権法上の類似性が認められない場合には、問題となりません(著作物は、具体的な表現が問題となるため、テキストと画像という全く異なる表現が類似するということはありません)。

(2)学習用データに他人の著作物が含まれている場合

次に、学習用データとして利用された著作物に係る著作権侵害が問題となる場合を取り上げます。例えば、生成AIから出力されたテキストや画像が、学習用データに用いられた著作物とそっくりであり、類似性が認められる場合を考えてみます。

この場合、入力データに他人の著作物が含まれている場合とは異なり、場合分けが必要です。まず、利用者が、学習用データに著作物が含まれていることを知っていたときには、依拠性も認められると解されています。

次に、利用者が、学習用データに著作物が含まれていることを知らなかった場合ですが、この場合は、学説上判断が分かれています。本稿で詳細に述べることはしませんが、学習用データに著作物が含まれていることを知らなかったとしても、生成AIが当該学習用データを利用している限り、依拠性が認められる(あるいは、依拠性が推定される)という立場と、生成AIが、学習対象となった著作物をそのまま出力するような構成を有するものでない場合には、依拠性を認めるべきでないとする立場とがあります。

ただ、いずれの立場に立った場合でも、例えば特定の画家の表現を模倣するためにカスタムされたAIを用いる場合など、学習用データの模倣を目的としたものと評価できるような場合には、依拠性が認められることに留意が必要です。

(3)入力データにも学習用データにも他人の著作物が含まれていない場合

最後に、生成AIには利用されていない著作物に係る著作権侵害が問題となる場合があります。例えば、出力されたテキストや画像が、生成AIとは無関係な既存の著作物と類似する場合です。

この場合には、利用者が自らテキストや画像を作成した場合と同視し、当該利用者が、元となった既存の著作物を知りつつ、生成AIを利用して当該著作物と類似するテキストや画像を生み出した場合に、依拠性が認められることになります。

まとめ

このように、生成AIの利用にあたっては、特に出力された生成物が他人の著作物と類似している場合に、著作権法の問題が発生しやすいことがわかります。冒頭の写真集の例も、掲載された女性モデルが実在の人物と似ているとの指摘がありました。

もっとも、生成AIによる問題は、生成物による著作権侵害だけではありません。例えば、生成AIで生み出された人物画像が実在の人物に瓜二つであれば、肖像権やパブリシティ権の問題が発生します。また、生成AIが、利用者による特段の相違工夫を伴わずに生み出してテキストや画像には、著作権が発生しないことから、利用者はせっかく手に入れたテキストや画像の権利を主張できないのではないかという議論もあります。更に、これまでの議論は日本の著作権法に基づくものですが、海外では異なる考え方が採用される可能性もあり得ます。

事業において生成AIを利用する場合、このような議論に十分留意する必要があります。多くの官公庁や団体が、生成AIの利用について様々なポリシー、ガイドラインを検討していますので、これらを参考にすることが肝要です。また、例えば一般社団法人日本ディープラーニング協会は、「生成AIの利用ガイドライン」として、生成AIを利用する際に、組織において策定すべきガイドラインをわかりやすくまとめています。

生成AIは大きな発展を遂げており、事業の推進に大きな力を発揮してくれる存在であることは間違いありません。著作権法その他の問題に留意しつつ、これを最大限に利用して頂ければ幸いです。

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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 森下 梓氏
(弁護士法人内田・鮫島法律事務所)

技術のわかる弁護士・弁理士として、知財・法務アウトソーシングサービスを展開している。数多くの中小企業、ベンチャー企業に対して知財戦略コンサルティングを行い、少ない資金で事業を守るための効率的な権利・ライセンス等を取得することで、資金調達、競合他社参入防止に貢献。その他、契約書・訴訟経験も多数。

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