前回のコラム「【ラーメン屋の50%が半年で潰れるワケは?】飲食業界を取り巻く現状〜その1」では、飲食業界を取り巻く厳しい経営環境についての認識の重要性について解説しました。今回は、こうした認識を前提として、それでも飲食店をやろうと決心した場合の対応策などについて見ていきたいと思います。
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厳しい中で飲食店を開業し成功するために行うべき3つのこと
サラリーマンなどの会社員が、早期退職制度や選択定年制度などを利用し、まとまった退職金を手にすると、そのお金を使って何をしようかと考えるものです。第二の人生に生かせる難関資格の取得を目指し、数年間試験勉強するための自分自身へ投資したり、会社設立、飲食店などの店舗開業といったビジネスに投資したりといろいろあります。
飲食店開業ももちろんビジネス投資で、これは極めて厳しい経営環境の中での投資となります。「飲み屋でもやろうか」、「ラーメン屋でも開こうか」など、“でも”という軽い動機から始めても、今の時代、間違いなく失敗してしまいます。
今から30年くらい前のバブル時代までは、裏路地に小料理店やラーメン中華の店を開き、夫婦・家族で営めば何とかやっていけました。しかし、バブル崩壊後、こうした店舗は次々に閉店していきました。経済が右肩上がりの時代に開業し、一時期よい思いをしてきたため経営についても“どんぶり勘定”で行っていたところが多かったのです。バブルが弾けたときも、多くの飲食店経営者は一次的な景気悪化くらいにしか考えていませんでした。
時代は大きく変わりました。繰り返しますが飲食店開業には厳しい現状の認識が不可欠で、第二の人生を飲食店に賭けるには強い覚悟が必要です。こうした飲食業界についての認識や強い思いを前提に、具体的な対応策について考察していきます。
飲食店開業を成功させる秘訣−焦って開業しないこと
飲食店開業に焦りは禁物です。脱サラし、ある程度まとまった金銭を手に入れると、すぐにでもお店を持って新たな人生を始めたいと考えてしまうものです。街の不動産屋に行き、滅多にない好物件といわれると、つい手を出してしまいそうになります。
私も20年前、会社を設立しある程度の資金が貯まると、早くメガフランチャイジー (複数のフランチャイズ本部に加盟し多店舗展開すること)として事業化しようと意気込み、フランチャイズ本部やコンサルファーム(コンサルタント会社)などをまわりました。
そこで、書籍なども多数出版している代表を擁する業界大手のコンサルファームなら大丈夫とばかりに焦って提携しました。先方はフランチャイズ店の拡大することを考えていますから、十分検討する暇を与えてはくれず、相手のペースで話は進み、とんでもない初期投資費用がかかってしまったという苦い経験があります。
飲食業界で働いた経験のない人が脱サラで飲食店開業を考える場合、まず、パートやアルバイト、できれば社員として複数の店舗を見て回ることです。できれば店長、マネージャーといった管理者としての経験を積んでおくとよいでしょう。慢性的な人手不足の業界ですから、未経験であっても雇ってもらうことはさほど難しいことではありません。
こうして5、6年の間、いろいろな面から飲食店を見ることです。調理や接客の技術、ノウハウを身につけ、店舗の内外装業者との交渉のし方、事業計画書の立て方など、さまざまなことを学んでおきます。
5、6年経験していると、1度や2度は好景気や不況といった景気の変動もあります。飲食業界は、一般的な景気変動とはややタイムラグがあるように感じます。90年代初頭のバブル崩壊時や2000年ごろのITバブル崩壊の時は、ほかの業界では早くからその影響を受けていましたが、飲食業界では半年後くらいから影響が出てきて、景気が回復基調になっても、半年から1年ほど回復が遅れたように思います。
こういったことも、ある期間飲食店の業務に従事することで身につく経験則です。実際に開業する際のタイミングを見極める上で役に立つものです。
また、5、6年という経験があることは、日本政策金融公庫から創業融資を受ける際にもメリットになり得ます。
このように、すぐに開業に走るのではなく、数年間、飲食店で経験を積み、景気動向なども考えながら開業することが開業時の失敗リスクを減らし、その後の安定した店舗経営に繋がって行くのです。
飲食店開業を成功させる秘訣−既成概念にとらわれないこと
前回のコラムで、飲食業界の特殊性として「箱物ビジネス」、「多額の初期投資」などについて解説しました。たしかに、飲食店を開業するには店舗などの箱物が必要であり、その取得や内外装工事、調理器具などの費用のために多額の初期投資が必要です。ただ、開業に際し、はじめからお金をかけた立派な店舗を構える必要がある、といった既成概念、固定観念、あるいは業界の常識などから離れてみることも大切なことです。
もともと飲食業界は、仕出し弁当のような店舗を持たずに厨房設備があればできる業界です。最近では「ゴーストレストラン」、「シェアキッチン」という店舗もキッチンも持たない新たなビジネスモデルも次々に出てきています。これらは既成概念などにとらわれない柔軟な発想から生まれるものです。
仮に店舗が必要であるとしても、多額のコストをかけた店舗を造るのではなく、居抜き物件を探してみたり、高齢で廃業を考えている経営者がいないか周囲に相談してみるなど、いろいろな方法が考えられます。
既成概念などにとらわれず、少ない投資で小さく始め、大きく育てていくといった発想も、今の時代には必要です。
飲食店開業を成功させる秘訣−相性のよいビジネスパートナーを探す
昔はともかく現代の厳しい経営環境の中で、飲食店を開業するにはひとりではできません。助言や支援をしてもらえるビジネスパートナーが必要です。
一般的には、経営コンサルタントや飲食フランチャイズ本部、あるいは公認会計士、税理士、中小企業診断士などの士業です。その他にも多くの支援者がいますが、自分にあったパートナーを探すのは意外と大変です。
私も本格的な開業に際し、20前後のコンサルファームやフランチャイズ本部を訪ね、面談を行ってきましたが、残念ながらその多くが自社や自身の利益を第一に考える事業者でした。絶対に儲かりますとか必ず成功させますといった断定的な発言をしたり、自慢話しや手柄話しばかりするところ、そして立派なオフィスを構え、多くのスタッフを抱えているコンサルファームなどは相談料や顧問料などが高くなる傾向にありますから要注意です。
このような自身の経験から私が勧める支援先、パートナーとしては、まず、商工会・商工会議所などの公的機関があります。また、弁護士、税理士をはじめとした士業、 IT、不動産、人事など特定分野に特化したアドバイザーが多数在籍している「ドリームゲート」のような起業家支援団体などです。
かくいう私も、「ドリームゲート」に所属するアドバイザーのひとりです。現在、飲食店を中心とした店舗ビジネスを支援させていただいております。30年以上にわたる飲食店に従事した経験を活かし、実践的な支援やアドバイスを心がけております。飲食店開業に関する悩みや不安がありましたら、「ドリームゲート」を通していつでも問い合わせてください。
まとめ
今回と前回、2回にわたり飲食店を取り巻く厳しい環境のもと、いかに開業して飲食事業を成長させて行くかについて見てきました。飲食店を開業し、成功するには、なにがなんでもやり抜くといった強い信念のもと、業界分析その他の入念な準備、柔軟な発想と先見性、そして相性のよいビジネスパートナーとの連携といったものの総合力が大切になってくるのです。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)
外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。
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