2008年に企画経営アカデミー株式会社を設立し、起業支援を行ってきたドリームゲートの大槻貴志アドバイザー。自身も14歳で起業に目覚め、日夜新規事業のことばかり考える「新規事業中毒者」と自認。これまでに3000人以上もの起業志望者と会い、300人以上の個人支援を実施しており、その業種も漁業からITまで70以上と多岐にわたります。
そんな大槻さんが初めて出版されたのが、『まずは1人で年1000万円稼ぐ! 個人事業のはじめ方』(明日香出版社)。タイトルでは「起業」という言葉は使われていませんが、ご自身の起業支援経験からのエッセンスがふんだんに盛り込まれているそうです。この新刊についてお聞きしながら、大槻さんに、起業を考える人への示唆に富んだアドバイスを伺いました。
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起業したい会社員に向けたが、起業実現組から高校生まで幅広く反響を
―このコロナ禍のなか、5月25日に初めての著書が発刊されています。いわゆる起業本というカテゴリーになりますが、本書で何を伝えたかったのですか?
大槻:出版の経緯としては、もともとは3年ほど前に私が起業支援している方の出版をコーディネートしたご縁で、ビジネス書で定評のある出版社から、私自身へも出版のオファーをいただいたのがきっかけです。それで企画を練ったのですが、実は2度ほど企画が通らず、今回3度目の正直でやっと決まりました。2019年5月くらいのことです。
―どういう点が通りにくかったのでしょう?
大槻:当初はもっと、起業するにあたっての「マインド」に寄った内容でした。起業までのステップや準備すべきこと、自分のアイデアをどう形にしていくかなどですね。私自身、「U25スタートアップ起業塾」という25歳以下の起業支援も行っていたので、10代のうちに身につけておきたいアントレプレナーへの道、といった項目も入れていたんです。
―本書を見てみると、そういうものの残り香も感じられる気がします。実際、本書で想定した読者層は、どのような人たちですか?
大槻:現在は会社勤めをしていて、すぐではなくても、いつか起業したいと考えている人たちですね。第7章の「会社にいるうちにできる準備」はその表れです。
ただ、蓋を開けてみると、思った以上にさまざまな方に読んでいただけています。すでに起業されている方からは、本書の内容について「たしかにそうだ、納得できた」という声もありましたし、若い方、なかには高校生の読者もいて驚きました。皆さん、立場によって面白いと思っていただけるポイントはさまざまなのですが、「起業する・しないにかかわらず、仕事する上で役立つことが書いてある」というのは共通した感想のようです。
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「個人事業で経営に慣れて、稼ぐ力を身につける」という提案
―たしかに、起業のメリット・デメリットや成功を左右する分岐点といった、起業を考える上での前提条件的な話から、実際に起業を、まず個人事業の形で実践していくというステップ。そして、会社にいるうちにできる準備として、身につけておきたいスキルや知識、人脈作りのポイントから、起業全般に関わるお金の話……と、ダイジェスト的ですがひととおりの流れにおいて知っておくべきことが、スルスルと読めますね。
大槻:そもそもの企画趣旨は、起業をめざすにあたっては、個人事業からはじめて、経営に慣れていきつつ、稼ぐ力を身につけていこうという提案なんです。私自身、さまざまな方の起業支援を行ってきて感じたのが、個人で稼ぐ力がないと、その先に行けないということ。
アイデアはよくても、稼ぐ力がないために起業自体がうまくいかない例をごまんと見てきました。起業を成功できなかった人たちのなかには、この個人で稼ぐ力さえ鍛えればできたはずというケースが少なくないのです。
―なるほど。だから、起業を「個人事業」からはじめてみるわけですね。「まずは1人で年1000万円」を目標にされたのは、なぜですか? 非常にキャッチーな数字なので、気になります。
大槻:個人事業に留まらず、次のステージへ行ってもらいたいという思いからです。「まずは」と言っているとおり、これはゴールじゃなく、通過点。年1000万円稼げれば、従業員を雇うことができ、事業を拡大していけますから。パラドックス的ですが、個人事業からはじめてほしいけれど、ずっとそれを続けることは決してお勧めしていないんですね。年1000万円を目安として置くことで、その先までを意識してもらうのが狙いです。
起業を目的化してはダメ。「What」「How」「Why」の順番が成否を分ける
―本書の特徴として、もともと企画で挙げられていた「マインド」についても言及されていることがあります。第10章の「起業にあたって必要なマインドセット」にある「他責にせず自責にできるか」というのは、すでに起業されている方も納得される点でしょう。また、最終章に「起業準備がうまくいかなかった時には」として、「起業をしないのも手」とあったのは衝撃的でした(笑)。こうした項目で伝えたかったこととは?
大槻:コロナ禍の影響や、副業・兼業など働き方の多様化という社会の状況はありますが、私自身が昔から一貫して言っているテーマは「どうやって生き抜くか」なんです。
与えられた仕事をこなすのと、自分から仕事を取りにいくのは全く異なるスタンスであり、会社員でも起業するのでも、仕事する上で何より大事なのはその点ですよね。ですから本書においても、マインドセットについては不可欠でした。
最終章については、これも私が起業支援をしていて痛感することなのですが、起業しようとする方って意外と、自分で自分を追い込んでしまうんです。
―それは、どういうことでしょうか。
大槻:起業すると一度決めると、なかなか起業できない自分がどんどん許せなくなってしまうんですね。でも起業にはタイミングがあって、お金を払ってくれる顧客を見つけられたり、その事業に対する思いがうまく噛み合えば自然に回っていったりするものなんです。起業は本来あくまで「手段」なわけで、会社勤めではできないから自分でやろうというのが自然な流れ。ですが、起業がいきなり「目的」になってしまっているケースが、あまりにも多いのです。
だから、「自分は本当に起業がしたいのか」に向き合うことも大切です。私が起業支援させていただいた中には、それまでに10年間起業準備をしてきたができないでいて、面談するうちに、本当は起業したくなかったことに気づかれた例もあります。起業したくないのに、決めたからしなきゃという思いが、その方を苦しませていたんですね。
私のテーマは「どうやって生き抜くか」ですから、無理に起業しなくてよいというスタンスです。そんなメッセージも、本書には忍ばせておきたかった。それで、よくスタートアップ界隈でもいわれる、サイモン・シネックが提唱する「ゴールデン・サークル」についても触れてあります。起業の成否を分けるのは、「What」「How」「Why」の入り方の順番だといった話ですね。「Why」から入るのが重要です。ドリームゲート会員にもとても参考になると思うので、ぜひ読んでみてください。
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人脈の質量は、起業する未来の稼ぎと比例する
―本書では、人脈作りのことにもかなりページを割かれています。年1000万円をめざすなら、名刺交換してランチや打ち合わせくらいはしたような少し踏み込んだ関係性で、2000人は知り合いを作るという、相当な積極性が示されていて、ちょっと驚きました。これは、ご自身の経験から重要だと?
大槻:そうですね。私自身は学生時代から早稲田の名刺を持って、100人単位で人脈を作りまくっていましたから。そういうことは当たり前だと思っていたので、以前は起業支援のなかでも特に伝えていなかったのですが、この大切さに気づいていない相談者があまりにも多いので、今は丁寧に伝えるようにしていて、本書にも入れました。
起業でアイデアを実現したいときに、カギとなるのはネットワークや仲間。その源となるのが人脈なわけです。幸運や発見、出会いを引き寄せる力をセレンディピティといいますが、2000人の人脈があればそれが起こせるんです。その1%だとしても20人の人たちが仲間や協力者、支援者となってくれるわけです。一方、20人きりの人脈だったら、誰一人役に立ってもらえない状況が考えられます。この差は大きいでしょう。
―なるほど。いろいろなアイデアや発想が幅広く語られている本書ですが、それぞれの話題に深い意味が込められているのですね。ちなみに、年1000万円を達成するために、最も大事なことは何ですか?
大槻:それは「いかに自分を高く売るか」ですね。時間単価が低いままでは、コマネズミのように働いても、その先が広がっていきません。自分の価値をうまく定義して、安売り競争には巻き込まれないことが重要です。
そのため本書で触れているのは、パーソナルブランディングです。提供するサービス内容だけで勝負するのではなく、誰がやるのかという、その人なりの魅力の提示が大事なんですね。
コロナ禍はマイクロビジネス=個人事業にとって、追い風
―この本を手にした人に、もっともメッセージとして伝えたいことは何ですか?
大槻:個人事業からはじめることで、起業するために必要な力をつけてもらうというコンセプトですが、その際に「無理をしない」ということですね。起業がうまくいかないのは、現時点ではその能力や人脈など、リソースが足りていないのにもかかわらず、すごくレベルの高いビジネスをめざされていることが多いのです。
それで挫折してはもったいなくて、きちんと自己分析して、個々の能力を高めていけばよいわけです。そうすれば、ステップアップ自体は着実にしていけるもの。そうすれば年1000万円は特段に難しくはありません。その方のレベル感によって、必要なことに本書で気づいてもらえればと思います。
―現在、コロナ禍で多くのビジネスは困難な状況に見舞われていますが、実際、個人事業で年1000万円は今も実現可能だと思われますか?
大槻:実際に達成している人は数多くいますし、むしろ、こういう時代だからこそマイクロビジネスのほうが稼げる時代になっていくでしょう。会社が自前で全てを抱えることができにくくなっていきますから、これまで以上に業務委託やアウトソーシングが進みます。そこに商機はあるはずですし、個人事業は不景気のほうが新たなニーズを掘り起こせるので、チャンスがあるといえます。
―それは、たいへん励まされる言葉です! 最後に、ドリームゲート会員にメッセージをお願いします。
大槻:ゴールデンサークルの話を少ししましたが、会員のみなさんにもぜひ、どんなビジネスをするかよりも、なぜ自分は起業をしたいのか(Why)を、熟考してもらいたいと思います。アイデアに固執するのもよくありません。起業準備していると、顧客ニーズに合わせていくので、当初考えたアイデアがそのまま形になることは、むしろほとんどないんですね。それよりも大事なのは、自分を知ること。なぜ起業したいのか、あなたの「What」「How」「Why」を一度考えてみてください。
『まずは1人で年1000万円稼ぐ! 個人事業のはじめ方』(明日香出版社)
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