多くの企業が今、賃上げに力を入れていますが、非正規雇用労働者の収入増にまで配慮できているでしょうか。もし企業の経営者が、「非正規雇用者にも賞与と退職金を支給したい」と考えていたら、厚生労働省のキャリアアップ助成金はその「助け」になるでしょう。
キャリアアップ助成金のうち賞与・退職金制度導入コースは、非正規雇用労働者向けに賞与・退職金制度を導入した企業を助成する制度です。同コースについて解説します。
- 目次 -
非正規雇用者の処遇を改善する意義
キャリアアップ助成金の賞与・退職金制度導入コースを解説する前に、非正規労働者の処遇を改善する意義を考えてみます。
なお非正規雇用労働者とは、有期雇用労働者や短時間労働者、派遣労働者などの、いわゆる正社員ではない労働者の総称です。キャリアアップ助成金制度のなかでは有期雇用労働者等と呼ばれることもありますが、この記事では原則として「非正規雇用労働者」で統一します。
また「事業主」も原則として「企業」としています。
参考)物価高を上回る所得増へ
人件費メリットの減少を補って余りあるメリット
正社員より安価な賃金で雇用できる非正規雇用労働者を確保することは、企業にとって、人件費を抑制できるメリットがあります。非正規雇用労働者向けの賞与・退職金制度の新設は人件費を増やすことになり、このメリットを減少させてしまうでしょう。
しかし厚生労働省は、非正規雇用労働者の処遇を改善する企業は、次のようなメリットが得られると説明しています。
■非正規雇用労働者の処遇を改善する企業のメリット
- 労働者の意欲向上
- 労働者の能力向上
- 生産性の向上
- 優秀な人材の確保
処遇が改善されれば労働者は「働こう」「スキルを獲得しよう」という気持ちが強くなります。労働意欲と能力が高い労働者は生産性を高めるでしょう。そして求職者は処遇がよい会社に入りたいと考えるため、企業は優秀な人材を確保しやすくなります。
これらのメリットは、企業と経営者が渇望するものではないでしょうか。これが、企業が非正規雇用労働者向けの賞与・退職金制度を導入する意義になります。
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賞与・退職金制度導入コースの概要
賞与・退職金制度導入コースは、厚生労働省のキャリアアップ助成金の6つのコースのひとつです。
参考) キャリアアップ助成金|厚生労働省
新設して就業規則等に規定する
賞与・退職金制度導入コースは、非正規雇用労働者向けの賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積立てを実施した場合に助成するものです。なお、新設する賞与・退職金制度は、就業規則または労働協約(以下、就業規則等)に規定しなければなりません。
キャリアアップ助成金の目的は処遇改善
キャリアアップ助成金についてかんたんに説明します。
この制度の目的は、非正規雇用労働者が勤務先の企業内でキャリアアップできるように、正社員化、または処遇改善に取り組んだ企業を助成することにあります。6コースは次のとおりです。
■キャリアアップ助成金の6コース
正社員化支援 | 正社員化コース |
障害者正社員化コース | |
処遇改善支援 | 賃金規定等改定コース |
賃金規定等共通化コース | |
賞与・退職金制度導入コース | |
社会保険適用時処遇改善コース |
賞与・退職金制度導入コースの支給額:最高は56.8万円
賞与・退職金制度導入コースの助成金の支給額を紹介します。
■賞与・退職金制度導入コースの助成金の支給額
導入する制度 | ||
企業規模 | 賞与制度または退職金制度のいずれかを導入 | 賞与・退職金制度を同時に導入 |
中小企業 | 400,000円 | 568,000円 |
大企業 | 300,000円 | 426,000円 |
助成金の額は、企業規模が小さいほど、そして、賞与制度と退職金制度の両方を導入したほうが高額になります。助成の回数は1事業所あたり1回です。
賞与と退職金の定義
キャリアアップ助成金では、賞与と退職金を次のように定義しています。
■賞与とは
労働者の勤務成績に応じて定期または臨時に支給される手当。いわゆるボーナス。
■退職金とは
事業所を退職する労働者に対して、在職年数などに応じて支給される退職金を積み立てるための制度。積立金や掛金などの費用を全額企業が負担することが就業規則等に規定され、じっさいにその費用を全額企業が負担するもの。年金払いや、企業が拠出する掛金に上乗せして従業員が掛金を拠出する場合を含む。
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賞与・退職金制度導入コースの対象となる非正規雇用労働者
賞与・退職金制度導入コースの対象となる非正規雇用労働者は、次の4つの要件すべてに当てはまる人です。
■対象となる非正規雇用労働者の4要件
- 賞与制度または退職金制度、または両方を新設した日の前日から起算して3カ月以上前の日から新設日以降6カ月以上継続して、支給対象企業に雇用されている有期雇用労働者
- 賞与制度または退職金制度、または両方を新たに設け、初回の賞与支給または退職金の積立てをした日以降の6カ月、当該対象適用事業所において雇用保険被保険者である
- 賞与制度または退職金制度、または両方を新たに設け適用した事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者
- 支給申請日において離職していない者
3と4については理解しやすいと思いますので、ここでは1と2について説明します。
1についてですが、期間が複雑なので図式してみます。対象になるにはこの期間に雇用されている必要があります。
■対象
3カ月以上前の日 | 新設日 | 6カ月以上先の日 |
← 雇用 → |
したがって、以下の場合は対象外となります。
■対象外
3カ月未満の日 | 新設日 | 6カ月未満の日 |
← 雇用 → |
2では雇用保険被保険者であることが要件に挙がっています。労働者の1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合、その労働者は雇用保険の被保険者になります。
賞与・退職金制度導入コースの対象となる企業
賞与・退職金制度導入コースを申請できる企業(事業主)は次の7つの要件をすべてクリアする必要があります。
■賞与・退職金制度導入コースの対象となる企業
1:就業規則等の定めるところにより、その雇用するすべての非正規雇用労働者に関して、賞与もしくは退職金制度またはその両方を新たに設けた企業であること
2:1の制度に基づき、対象労働者1人につきaもしくはbまたはその両方に該当する企業
a:賞与については、6カ月分相当として50,000円以上支給した企業
b:退職金については、1カ月分相当として3,000円以上を6カ月または6カ月分相当として18,000円以上積立てした企業
3:1の制度をすべての非正規雇用労働者に適用させる
4:1の制度を初回の賞与の支給または退職金の積立て後6カ月以上運用している企業
5:1の制度の適用を受けるすべての非正規雇用労働者について、適用前と比べて基本給と定額で支給されている諸手当を減額していない
6:支給申請日において賞与制度もしくは退職金制度またはその両方を継続して運用している
7:2-bの適用を受ける場合は、支給決定後に積立金などが確認できる書類を提出することに同意している
賞与・退職金制度導入コースの申請方法
賞与・退職金制度導入コースの支給申請の方法を紹介します。
支給申請までの流れ
支給申請までの流れをステップごとに紹介します。
■ステップ1:キャリアアップ計画をつくる
賞与・退職金制度導入コースの実施日の前日までに、キャリアアップ計画をつくり、労働局に提出します。キャリアアップ計画に盛りこむ内容は、人材確保の現状分析、非正規雇用労働者のキャリアアップの課題、対応方針案などです。キャリアアップ計画の作成では、非正規雇用労働者や労働組合の意見を踏まえる必要があります。
■ステップ2:労働局長の認定
キャリアアップ計画は労働局長の認定を受ける必要があります。したがって申請者は労働局に同計画の作成援助を受けることになります。
■ステップ3:就業規則等の改定を相談する
賞与・退職金制度導入コースの対象になるには就業規則等に規定する必要があります。申請者は就業規則等の改定について労働局に相談します。
■ステップ4:就業規則等を改定して取り組みを実施する
労働局に相談したあとに就業規則等を改定し、そのとおりに取り組んでいきます。
■ステップ5:取り組み後6カ月の賃金の支払いをおこなう
■ステップ6:支給申請
ステップ5までは、支給申請前の準備になり、ステップ6で支給申請ができます。
支給申請は、取り組み後6カ月の賃金を支払った日の翌日から2カ月以内におこないます。
■ステップ7:審査と決定、振り込み
申請者からの支給申請を受けて、労働局が支給審査と支給決定をおこないます。決定後に申請者の指定口座に助成金が振り込まれます。
支給申請に必要な書類
支給申請に必要な書類と添付書類を箇条書きで紹介します。
- キャリアアップ助成金支給申請書(様式第3号)
- 賞与・退職金制度導入コース内訳(様式第3号・別添様式5)
- 支給要件確認申立書(共通要領様式第1号)
- 支払方法・受取人住所届
- 労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書の写し
- 制度新設前後の就業規則等(労働基準監督署の受理印が必要)
- 対象労働者全員の制度新設前後の雇用契約書、または労働条件通知書などの写し
- 対象労働者全員の初回の支給・積立て前後、および賞与支給月分の賃金台帳などの写し
- 賃金台帳などに関する確認書
- 対象労働者全員の制度新設前後、および初回の支給・積立て前後の出勤簿、またはタイムカードなどの写し
上記のほかにも、代理人による申請の場合には、委任状が必要となり、中小企業に該当する場合であれば、事業所確認票も必要となります。また、追加で労働局が必要と認める書類の提出が求められる場合もあるため、詳細は管轄労働局にお尋ねください。
賞与・退職金制度導入コースの注意点
賞与・退職金制度導入コースに申請するときの注意点を紹介します。
新制度の実施後に支給申請と助成金の振り込み
賞与・退職金制度導入コースでは、企業が先に新賞与制度、または新退職金制度、またはその両方を実施して、そのあとに支給申請をおこないます。助成金の振り込みは、支給申請後の審査に通過した場合におこなわれます。
日にちと期間
賞与・退職金制度導入コースでは日にちと期間が重要になってきます。
「就業規則等に賞与制度を設けた日および賞与支給日」と「就業規則等に退職金制度を設けた日および6カ月分積立て日」がキャリアアップ計画の期間内である必要があります。
支給申請は、初回の賞与の支給、または退職金積立て後6カ月分の賃金支払い日の翌日から2カ月以内におこなう必要があります。なお、賞与と退職金制度を同時に導入した場合、初回の支給日または積立て日のいずれか遅い方の日が申請期限です。また、初回の賞与の支給日または退職金積立て日が賃金支払日と同日の場合は、翌月の賃金支払日から起算して6カ月分の賃金支払日翌日から2カ月以内であることが必要です。
就業規則等を「一部支給」から「全員一律」に変更した場合は対象外(賞与)
すでに就業規則等で一部の非正規雇用労働者に賞与を支給すると規定している企業が、今後、すべての非正規雇用労働者に一律に支給することにして就業規則等を変更する場合は、賞与・退職金制度導入コースの対象外になります。「変更」は「新設」ではないので対象外となるのです。
慣例的な支給から、就業規則等に規定した支給に変更した場合は対象になる(賞与、退職金)
就業規則等に規定せず、慣例的に賞与や退職金を非正規雇用労働者に支給している場合もあります。このような場合には、新設する賞与制度や退職金制度について新たに就業規則等に規定した場合であれば、賞与・退職金制度導入コースの対象企業になります。
定年がない場合も退職金の適用が必要
定年がない非正規雇用労働者についても原則、年齢にかかわらず退職金制度に適用させないと、賞与・退職金制度導入コースの対象外になります。なお、ごく短期間の雇用契約である場合は例外扱いになります。
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執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
運営:株式会社プロジェクトニッポン
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