中小企業や小規模事業者を取り巻く経営環境は激変しており、変革・挑戦が求められています。
新型コロナの影響はまだ大きいですが、それ以前から、人口減少・少子高齢化、地域社会の縮小、格差拡大など構造的な変化や、SDGsなど環境重視の価値観、消費者ニーズの多様化、インフレ、エネルギー高騰や米中対立など世界情勢の影響などの様々な変化に日本経済は直面しています。
中小企業・小規模事業者も、自ら変わらなければ、生き残っていけない時代に入ったようです。そのために時代に合った新事業の開発が求められています。
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新事業開発の落とし穴
昨今、事業再構築補助金やものづくり補助金を使っての新事業開発が注目されています。
企業にとって、返さなくてもよいお金を数百~数千万円も国がくれるというのだから、これを活用しない手はないということでしょう。ただし、「老朽化した設備を新しくしたい」など自己都合だけを優先した内容ではなかなか認めてはもらえません。
採択されたいのなら、国が目的としている「日本全体の産業振興」、特に個々の企業に世界と戦える競争力をつけてほしいという思惑があることを理解すべきです。つまり、既存の儲からない事業から脱皮して、高収益で競争力のある新事業や新製品の開発に積極的に取り組むことを促しているのです。
しかし普通に新事業開発をやろうとすると、業界や技術、顧客ニーズの動向の分析から入るので、結局は競合他社も皆、同じような方向性になりがちです。では、他社と差別化された高収益の事業を開発し、スピード感をもって展開するにはどうしたらよいのでしょうか?
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新事業開発は「ありたい姿」の明確化から始める
経営者自身のありたい姿とは?
経営理念やありたい姿が腹落ちまでしていない経営者の方は、まずは自身の「ありたい姿」の明確化から始めることをお勧めします。ここで述べる「ありたい姿」とは、数年で実現可能な目標ではなく、経営者にとって到達できないかもしれないが本当にワクワクして心から目指したい理想や方向性のことです。それは北極星のように決してブレない軸です。
自社らしさの形成が経営基盤となる
外部のコンサルタントが内外部環境分析などのデータ分析をやればやるほど、経済的合理性がある根拠に基づいた、みな同じような結論になってしまいがちです。それに対して、経営者が心からワクワクし腹落ちする「ありたい姿」は、人によって大きく異なり、これが差別化の原点となります。
これがブレることがない原点となるので、上手くいかないからといって、決して諦めることがありません。この「ありたい姿」が「自社らしさ」を形作ることとなり、新事業や新製品の開発のみならず、あらゆる面での考えの基礎となってくれます。
具体的な目標まで、ありたい姿から逆算で落とし込む
長期的視点を持つ
通常、経営者は目の前の問題の解決に追われており、経営環境の大きな変化の自社への影響や問題などに対応できていないことが多いものです。しかし今こそ、長期的な視野を持つことが必要です。そして過去の延長線上で考えるのではなく、「ありたい姿」から逆算して現在に向かうロードマップを想像します。それが過去の延長線上ではとてもつながらないような、「高いけれど実現可能な目標設定」が可能となるのです。実はこのやり方は、孫正義氏、永守重信氏など名経営者と呼ばれる方の多くが普通にやっていることなのです。
ありたい姿からバックキャスト思考で逆算する
さて、「ありたい姿」は、“理想像”なので、そのまま計画目標としては使えないでしょう。
例えば、美容院A社の経営者が「日本中の女性をきれいにして、世の中をもっとハッピーにしたい」という「ありたい姿」を持っていたとします。そのままでは現場に伝えても、従業員は何をやっていいのかわかりません。そこで「ありたい姿」から現在の方向へ時間を遡って、順々に中間目標を決めていく方法(バックキャスト思考)を使います。現在の状況に引きずられないで「ありたい姿」から考えていくため、どの中間目標も、高い目標を一連の指標で示すことができるのが特徴です。
私がサポートした例で説明すると、美容院A社では、
- 30年後は日本で500店舗展開の1位の美容チェーン
- 20年後は100店舗で県内で1位
- 10年後は30店舗で市内で1位
- 5年後に2号店出店
と逆算していきました。日本1位の美容チェーンという途方もない目標も、「まずは5年後に2号店の出店」に落とし込むと、決して無理ではないように思えてきます。
バックキャスト思考の効用
バックキャスト思考は、経営者のモチベーションと行動に対して、良い影響を与えてくれます。A社でいうと、複数店舗の立地、将来の店長候補の育成、顧客管理やオペレーション、仕入の仕方に至るまで、1店舗だけの経営と、将来多店舗経営を目指した経営では、考え方がまったく違ってくるのは当然でしょう。そして何より「ありたい姿」に向かうモチベーションが全く違ってきます。通常の事業計画は過去の実績を基に将来を予測するので、真逆となります。実績ベースの経営目標は、堅実で、金融機関からの納得感は得やすいものの、経営者にとってはモチベーションの上がらないものになりがちですから。
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外部リソースの活用が有効
足りないものは外部から調達する
「ありたい姿」を明確にし、それを起点にバックキャスト思考で目標を設定していくことで、心から達成したい高い目標を見つけ、モチベーション高く行動につなげることができます。ただし過去の延長線上ではない発想での新事業構想なので、自社の経営リソースでは不十分な場合が多いでしょう。そのときは外部リソースをうまく活用することで、より大きなビジネスをより早く、よりリスク少なく進めることが可能です。何でも自社でやろうとせずに、不足するものは他社と連携するなど外部リソースの活用こそが肝要なのです。
All-winの仕組みを構築する
自社だけでは困難な新事業でも、足りない部分を外から調達することで目標を達成することもより容易くなります。しかし外部の協力先をうまく使って自己利益だけ確保しようとする姿勢ではうまくいかないものです。自社、協力先のみならずお客様もすべてが喜ぶような状態(All-win)を構築していくことが肝心となります。
また儲け話で協力者を募るのではなく、「ありたい姿」に表される価値観に共感してくれた協力者との連携を目指すべきでしょう。そうでないと、事業が少しうまくいかなくなるとすぐに逃げ出すように、おカネの切れ目が縁の切れ目になりかねません。よって「ありたい姿」は、外部の方でも共感を得られるような大義名分的なものが理想的です。
事例ですが、ある家具屋は、地元の建売住宅工務店と連携し、モデルルームに設置する家具セットを購入してもらっています。部屋に合った家具やインテリアをコーディネートするので、内覧での見栄えが良くなり、家もよく売れるようになりました。お客様も住宅に合った家具を買うこともできるので、家具屋だけでなく、工務店、お客様の3社ともに満足な“all-win”状態なのです。
補助金申請書でも外部協力者との体制構築は有効
事業再構築補助金やものづくり補助金でも、単独での取り組みより、連携先や支援先がしっかりと支えてくれる仕組みがあると評価が高くなります。自力だけで何でもやろうとすると限界があります。ノウハウ・時間・労力・資金力などいくらリソースがあっても足りません。優れた事業アイデアであっても、通常審査員には判断できません。信用できそうな外部の会社や公的機関・金融機関などの支援体制があると、計画自体の信ぴょう性が増して説得力がグッと増すのです。
補助金活用でスタートダッシュ
新事業を始めるためには、かなりの額の初期投資が想定される場合があります。外部の協力者に事業資金を出してもらうこともあってもよいのですが、補助金をうまく活用することも有効です。補助金で採択されたという実績は、新事業の評価にもプラスになり、金融機関からの融資も受けやすくなることもあります。
流行の入れ替わりが激しいように、現代は昔よりスピードが求められる時代になりました。自社でじっくり取り組んで育てていくことも否定しませんが、時流をとらえてタイミングよくスピーディーに新事業を展開していくことで成功の確率が高まります。補助金は新事業のスタートダッシュに役立つ支援ツールなので、積極的に活用することをお勧めします。
まとめ
過去のデータを駆使して論理的に結論を導き出すと、みんな同じような答えに行きつくことが多いものです。つまり飛躍した発想が出にくいのです。いざ新事業を始めても、これで良かったのかと迷うことばかりですが、「ありたい姿」を明確にすると、状況が一変します。向かいたい方向性はブレないので、どうしたらうまくいくのかに集中できるのです。
現在はVUCAの時代と呼ばれ、複雑で不確実、そして予測不可能な経営環境に直面しています。その中で拠り所になるのは、それぞれの経営者にとっての「ありたい姿」なのです。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 神吉 耕二(かんき こうじ) /KMC株式会社
補助金採択率90%、補助金に精通したベテランの中小企業診断士です。創業前の方を含めた、若手経営者ゼミナールを毎年開催しており、起業家の育成に力を注いでいます。
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