令和2年3月10日より、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」(以下、ものづくり補助金)の一次公募(一般型のみ)が発表されました。経費の1/2(⼩規模事業者は2/3)を最⼤1,000万円まで補助されます。また、新型コロナウイルスの影響に加点措置と要件緩和があることも発表されているのも注目ポイントです。
例年と異なる点は次の通りです。
- 5次締切(令和3年2月頃)まで3か月おきに計5回に分けて公募がある
- 手続きが100%電子化
- 添付書類が必須3点、最大8点へとなり半分に
- 事業実施期間が10か月へ倍増
- グローバル展開型といった海外事業支援補助はまだ準備中
- ビジネスモデル構築型もまだ準備中
- 十分な賃上げ等をした企業は収益納付免除
- 新型コロナウイルスの影響に加点措置と要件緩和、更に事前着手が可能
- 新規の申請者には優遇する制度開始
- 対象経費の明確化で、分かりやすい事務処理へ
今年の一般型の攻略法は、審査の目的「革新性」の有無に沿って書くことです。
革新性を審査する技術面が最も重要なのです。
当然事業を成功するための事業化面の「展望と数値目標」が次に大事です。
最後に、政策面である「地域経済への波及性」つまり賃金アップによる収入増と税収アップに資することが可能な事業かどうかとなります。
今回は3つの審査で重要なポイントについて、具体例を交えて攻略法を解説いたします。この記事を期に、採択率平均約40%に入る申請書の書き方を知って、事業の発展に役立ててください。
- 目次 -
2020年ものづくり補助金の概要
攻略法に入る前に、2020年のものづくり補助金の概要・応募に必要な要件とスケジュールを簡単に説明します。
概要
ものづくり補助金とは?・・・「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略で、国(中小企業庁)の補助金施策になります。つまり、「中小企業が経営革新のための設備投資等に使える」補助金のことです。大まかな要項を記載します。
目的 | 新製品・サービス開発や生産プロセス改善等のための設備投資及び試作開発を支援すること。 |
補助上限 | 1,000万円 |
補助率 | 1/2(小規模なら2/3) |
申請方法 | 補助金申請システム(Jグランツ)による電子システムのみ受け付け |
補助対象事業の要件
次の要件を満たす事業計画(3〜5年)を策定し実施が可能な中小企業なら、応募ができます。
○交付決定日から10か月以内(ただし、採択発表日から12か月後の日まで)の事業実施期間に、発注・納入・検収・支払等のすべての事業の手続きがこの期間内に完了する事業であること。(原則、事業実施期間の延長はありません)
○以下の要件をすべて満たす3~5年の事業計画を策定し、従業員に表明していること。
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加) - 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする
- 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加
今回新たな猶予措置として、以下の2つがあります。是非活用ください。
- 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、サプライチェーンの毀損等に対応するための設備投資等を行う事業者については 要件⓵~③に係る目標値の達成時期に1年間猶予がある。
- 補助金事務局から事前に承認を受けた場合は、交付決定日前に発注した事業に要する経費も補助対象とすることができる。
特に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも生産性向上に取り組む事業者については優先的に支援されます。
スケジュール
3月10日(火)17時~ 公募開始
3月26日(木)17時~ 電子申請受付
3月31日(火)17時 応募締切(1次締切)
※1次締切後も申請受付を継続し、令和2年度内には令和2年5月(2次)、8月(3次)、11月(4次)、令和3年 2月(5次)に締切りを設け、それまでに申請のあった分を審査し、採択発表を行います。
今回からは、5回にわたり申請ができます。計画的な設備投資や開発による生産性向上に資する事業計画の立案にも役立つと考えます。この補助金制度を利用して、計画的に企業価値を高めていただきたいです。
革新性の攻略法
「革新性」についておさらいしましょう。革新性をアピールするには、難しいことに取り組むための
(1)技術アイデア(新商品・新生産方式)
(2)実効性(新役務(サービス))
(3)事業の持続発展性があること(新たな提供方式の導入)
なぜなら成長が期待できる分野、収益が見込める分野に対して、本事業名前の通り生産性向上を目的とした革新的な取り組みに対して、補助金を交付するからです。
では、具体的に見ていきましょう。
(1)新商品・新生産方式
ものづくりの革新性といえば「新商品」「新技術試作」「新生産方式」が一般的です。前回の記事「【ものづくり補助金】不採択→採択に変えるビフォーアフターを公開!」でも事例を挙げました。簡単に書くと①自社にとって新しい取り組み、②他社でも一般的でない、③地域・業種内での先進性、という3つが示されていなければなりません。
具体例を挙げてみますと、新商品開発事例として、「避難所向け水循環シャワーの開発」を考えてみます。
自社にとっての新分野・初めての商品化であれば、①の新しい取り組みです。また、「避難所向け」という限定的な市場の中で一般的ではなかったシャワーは先進性もあります。つまり②他社もなく一般でもないし、③先進的な技術アイデアであると認められるのです。
当然、自社の既存技術にシャワーの穴加工技術などがあり、自社にはない技術との組み合わせも新しい取り組みなのです。
(2)新役務(サービス)
IT技術の導入により、新たなサービスが生まれています。そのサービスに対して、①自社にとって新しい取り組み、②他社でも一般的でない、③地域・業種内での先進性、という3つが示されて行けばいいのです。
具体例を挙げてみますと、新サービス事例として、「仮想通貨の取引システムを構築」を考えてみます。
自社にとって、「仮想通貨」を初めて扱うことでも①新しい取り組みです。仮想通貨自体は新たな取り組みでなく「一般的」なので、ポイントは、「取引システム」の中身です。今までは、情報セキュリティが脆弱な環境での取引だったものを、新クラウドシステムで実現するといった取り組みは、①新しい取り組み②他社にない一般的でない③先進性がある内容ではないでしょうか?
(3)新たな提供方式の導入
IT技術がどこでもだれでも関われる時代です。その提供方式で、①自社にとって新しい取り組み、②他社でも一般的でない、③地域・業種内での先進性、という3つが示されて行けばいいのです。
具体例を挙げてみますと、新たな提供方式の導入例として、「従業員のスキルに応じて顧客をマッチングするシステム導入」を考えます。
従業員とお客様の適性を見るというのは、斬新的です。お客様に合う従業員が誰かが分かれば、顧客定着率、高単価化、見込み客の増加が可能になります。一目で、①新しい取り組み②一般的でなく、③先進性がある内容です。
このように、①自社にとって新しい取り組み、②他社でも一般的でない、③地域・業種内での先進性、という3つの視点をもって企業の得意な技術、サービス、リソースを発見して取り組んでいけば、攻略できるのです。
事業化面の攻略法
事業化面は、「展望」と「数値目標」が重要と書きました。なぜ重要なのでしょうか?
それは、採択要件である「付加価値額+3%以上/年」が達成見込みであるか否かの判断が重要だからです。事業を継続して賃金増を目指すことは容易ではありません。その中でも「将来の見込み」があると考える事業については、事業化面で高い点数が付きます。市場ニーズの有無から費用対効果は見込まれるのか?を評価し、事業の体制づくり、そして事業化までのスケジュールが費用対効果に照らして妥当であるか、という判断ができるように記載すれば、申請の要件は攻略できます。
政策面の攻略法
政策面は、「地域経済への波及性」つまり経済的波及でわかりやすい、賃金アップによる収入増と税収アップに資することが可能な事業であることを示す根拠となるのが、(1)賃金アップ(2)収益性です。また、令和元年補正予算から、(3)環境配慮性も審査項目に入りました。地域への経済的貢献はもちろん、SDGsの17目標といった持続可能な社会への貢献も評価対象となっています。
(1)賃金アップ
地域の特性を生かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果 を及ぼすことにより地域の経済成長を力強く牽引する事業を積極的に展開することが期待 できるかです。具体的には、次の3つです。
- 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加 (被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)
- 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30 円以上の水準にする
- 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加
(2)収益性
ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか、です。
(3)環境配慮
バイオマス素材を用いた資源循環型プラスチック製品の開発等、環境に配慮した持続可能な事業計画となっているか、です。
やはり加点は重要!注意は、減点項目!?
革新性、事業化、政策は最重要ポイントなのですが、採択されるには更なる加点項目を追加して、政策面・事業化面を強化する必要があります。そのポイントは次の4つで、最大6項目までの加点が可能です。注意点は、エビデンスとなる添付書類を提出し、各要件に合致した場合にのみ加点されることです。
(1)成長性加点
経営革新計画の承認(予定含む)を得た事業者であること。
(2)政策加点
「小規模事業者」又は「創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)」
(3)災害等加点
「新型コロナウイルスの影響を受けて、サプライチェーンの毀損等に対応するための設 備投資等に取り組む事業者」
「令和元年度房総半島台風(台風15号)等及び令和 元年度東日本台風(台風19号)の被災事業者(激甚災害指定地域に所在する者に限る)
「有効な期間の事業継続力強化計画の認定を取得した(取得予定の)事業者」
のいずれかが適用されることを証明してください。
(4)賃上げ加点等
「事業計画期間において、給与支給総額を年率平均2%以上増加させ、かつ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+60円以上の水準にする計画を有し、従業員に表明している事業者」
「事業計画期間において、給与支給総額を年率平均3%以上 増加させ、かつ、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にする計画を有し、従業員に表明している事業者」
「被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合」
今年から減点項目が増えました。過去3年間に、類似の補助金(H28,29,30年度補正)の交付決定を受けていた場合、交付決定の回数に応じて減点になることです。
新規事業者を優先して、補助金を広く活用いただきたい目的からでしょう。
まとめ
いかがでしたか?ものづくり補助金(一般型)は、生産性向上を目的とした革新的な取り組みに対して、最高1000万円の補助金が交付される魅力的な補助金です。新型コロナウイルスで事業が停滞している時期である時にこそ、先手の投資を打つことが将来の事業成功へと導くのです。
いまだからこそ、将来のために必要という経営者としての鷹の目視点から考えた「革新性」「事業化面」「政策面」のバランスが取れた申請書作成をしましょう。
引用:
https://www.chuokai.or.jp/hotinfo/gaiyou.pdf
https://www.chuokai.or.jp/hotinfo/reiwakoubo_0310.pdf
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 赤星 宏一(赤星宏一技術士事務所)
モノづくりのスペシャリストとして、30%生産性向上を実現。 2018年7月には、赤星宏一技術士事務所を開所。 現在、経験を活かしたモノづくり企業の技術力向上を支援(生産改革・商品開発・5S人財育成等)を行いつつ、モノづくり補助金審査を行う。「国語力+技術力」を強みに、刺さる審査書類の書き方を教えます。
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