小規模企業の経営者や役員、あるいは個人事業主の方々は、退職金がないことが多いのではないでしょうか。老後2000万円問題が提唱されて数年が経ち、2000万円でも足りないという説も目にします。そのような中、経営者の退職後の生活をささえる方法のひとつとして独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営する小規模企業共済を紹介します。
小規模企業共済はいわば、小規模企業の経営者や役員、個人事業主の退職金制度です。最大の特徴は、国の機関(=中小機構)が運営しているため、安心して利用できることです。
当記事では小規模企業共済の概要と、加入の3つのメリットとデメリットを紹介します。
- 目次 -
お金を積み立てて引退後に受け取る制度
小規模企業共済はかんたんに言うなら「お金を毎月積み立てて、引退するときに積み立てたお金より少し多めに受け取ることができる制度」です。
引退したときに受け取るため、中小機構は小規模企業共済を「退職金制度」と呼んでいます。ただ、一般的な企業の退職金は、従業員が退職したときに給与とは別に支払われるため、小規模企業共済とはまったく異なる制度です。小規模企業共済は、加入者が掛金を毎月納付して、加入者が退職または廃業したときに共済金という形でお金を受け取ります。
共済金の額は原則、掛金の総額より少し多くなります。なぜ共済金の額が掛金の総額より高くなるのでしょうか。それは、中小機構が加入者から集めた掛金を運用しているからです。運用益を加入者に分配しているわけです。
ただし状況によっては、共済金の額が掛金の総額を下回ることがあるため、注意が必要です。この点はデメリットの章で詳しく解説します。
制度の概要 | 共済制度| 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
共済資産の運用 |共済制度 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
共済金等請求・解約| 小規模企業共済
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小規模企業共済の4つの特徴
小規模企業共済のしくみをみていきましょう。
掛金は月1,000~70,000円
毎月の掛金の額は1,000~70,000円の間で、500円単位で設定できます。また掛金の額は、加入後に増額することも減額することも可能です。
共済金は引退後に受け取れる~満期も満額もない
小規模企業共済の退職金である共済金は、経営者や役員を退職したとき、あるいは個人事業主を廃業したときに受け取ることができます。つまり、小規模企業共済には満期も満額もありません。
なお、共済金の受け取り方法は、一括、分割、一括と分割の併用の3つのパターンが可能です。
共済金はどれくらいお得なのか
共済金の額に関するルールは複雑なため章をあらためて解説します。ここでは、共済金がどの程度お得なのか解説をおこないます。
たとえば掛金を月1万円として20年間加入した場合、掛金の総額は240万円(=1万円×12カ月×20年)になります。この場合の共済金は最大2,786,400円になります。
つまり、差額の386,400円分、お得といえます。元本(掛金の総額240万円)が20年で16.1%、1年で0.805%増えたことになります。計算式は以下のとおりです。
- 掛金の総額:毎月1万円×20年間=240万円
- 共済金の額:最大2,786,400円
- お得になる額(増えた額):386,400円=2,786,400円-2,400,000円
- 20年間の増額率:16.1%=386,400円÷2,400,000円×100
- 1年間の増額率:0.805%=16.1%÷20年
なお共済金の額を「最大」としているのは、条件によってこれより少なくなることがあるからです。
加入資格~誰が加入できるのか
小規模企業共済に加入できるのは小規模企業の経営者や役員、個人事業主となります。くわしい加入資格は、以下のとおりです。
■小規模企業共済の加入資格
●個人事業主
- 法人を設立せずに、自ら事業をおこなっている個人
- 雇用契約により雇用されて業務に従事していない
- 雇用契約以外の契約によって他者の事業に従属し、個人でその事業を行って事業所得を得ている
●個人事業の共同経営者
- 経営に携わっている事業を営む個人事業主が、小規模事業者であること
- 事業の経営において重要な意思決定をしていること、または、事業の経営に必要な資金を負担している
- 業務の執行に対する報酬を受けている
- 加入申込み時点で共同経営者であること
●会社等役員(外国法人の役員除く)
- 株式会社、有限会社、特例有限会社の取締役または監査役
- 合名会社、合資会社の業務執行社員
- 業務執行社員として登記されている合同会社の社員
- 企業組合、協業組合の理事または監事
- 農業の経営を主としておこなう農事組合法人の理事または監事
- 士業法人の業務執行社員
共済金の額のしくみ
共済金の額には種類があり、引退したときに受け取ることができる共済金の額は、加入者の役職や請求事由によって変わります。
加入者の役職には個人事業主、個人事業主の共同経営者、会社等役員があります。請求事由とは、共済金を請求する理由のことで、これには廃業や退任、会社の解散などがあります。
■個人事業主の共済金の種類と請求事由
共済金の種類 | 請求事由 |
共済金A | 個人事業主を廃業 |
加入者(共済契約者)が亡くなる | |
共済金B | 老齢給付(65歳以上で180カ月以上掛金を納付した場合) |
準共済金 | 個人事業を法人成りして加入資格がなくなる |
■個人事業主の共同経営者の共済金の種類と請求事由
共済金の種類 | 請求事由 |
共済金A | 個人事業主の廃業にともない共同経営者を退任 |
疾病・負傷で共同経営者を退任 | |
加入者(共済契約者)が亡くなる | |
共済金B | 老齢給付(65歳以上で180カ月以上掛金を納付した場合) |
準共済金 | 個人事業主が法人成りして加入資格がなくなる |
■会社等役員の共済金の種類と請求事由
共済金の種類 | 請求事由 |
共済金A | 会社などが解散した |
共済金B | 疾病・負傷で役員を退任 |
65歳以上で役員を退任 | |
加入者(共済契約者)が亡くなる | |
老齢給付(65歳以上で180カ月以上掛金を納付した場合) | |
準共済金 | 法人の解散や疾病・負傷によらず、65歳未満で役員を退任した場合 |
上記の共済金のほかに、任意解約や機構解約などによる解約手当金が存在します。
続いて共済金の種類によって額がどのように変わるか確認します。結論としては、共済金Aがもっとも高額で、共済金Bがその次に高額です。ここでは掛金月額を1万円とした場合のシミュレーションをおこないます。
■掛金月額1万円で加入した場合の共済金の額(すべて共通)
●掛金納付年数5年(掛金総額600,000円)
- 共済金A:621,400円
- 共済金B:614,600円
- 準共済金:600,000円
●掛金納付年数10年(掛金総額1,200,000円)
- 共済金A:1,290,600円
- 共済金B:1,260,800円
- 準共済金:1,200,000円
●掛金納付年数15年(掛金総額1,800,000円)
- 共済金A:2,011,000円
- 共済金B:1,940,400円
- 準共済金:1,800,000円
●掛金納付年数20年(掛金総額2,400,000円)
- 共済金A:2,786,400円
- 共済金B:2,658,800円
- 準共済金:2,419,500円
いずれにおいても、共済金AとBは掛金総額より増えています。準共済金の額は、15年までは掛金総額と同額です。20年以上掛金を納付し続けなければ、お得とはいえません。ただし元本(掛金の総額)は維持されています。
なお先ほど、小規模企業共済では元本割れが起きることがあると紹介しましたが、それは解約したときです。請求事由によって共済金を得るときは、元本と同額か、それより多くなります。
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小規模企業共済のメリット
小規模企業の経営者、役員、個人事業主が小規模企業共済に加入するメリットを考えてみましょう。
蓄えが増える
小規模企業共済の最大のメリットは蓄えが増えて、引退後の生活に役立てられるという点です。
企業に勤めている場合は、定年退職後に退職金を得られるケースがあります。しかし、小規模企業の経営者、役員、個人事業主はそのようなお金を期待できません。そのため、退職金代わりとなる小規模企業共済の共済金の存在が安心につながります。
節税になる
小規模企業共済の掛金は、全額が課税対象所得から控除されるので、中小機構は「小規模企業共済には高い節税効果がある」と説明しています。
低金利の貸付制度を利用できる
小規模企業共済の加入者は、中小機構の貸付制度を利用できます。これらの制度は低金利という特徴を持っています。
■加入者が利用できる中小機構の貸付制度
加入者が利用できる中小機構の貸付制度は、以下のとおりです。
- 一般貸付け
- 緊急経営安定貸付け
- 傷病災害時貸付け
- 福祉対応貸付け
- 創業転業時・新規事業展開等貸付け
- 事業承継貸付け
- 廃業準備貸付け
小規模企業共済のデメリット
小規模企業共済への加入にはデメリットも存在します。加入を検討するときは、以下の点に注意する必要があります。
解約時に元本割れが起こる
小規模企業共済において、元本割れが起きるのは解約時です。「共済金の額のしくみ」の章で紹介した請求事由に該当して共済金の請求をおこない、共済金を得る場合は解約ではありません。そのため、元本割れも起こりません。
しかし、請求事由に該当しない状態で、これまで納付してきた掛金を取り戻す場合に取りうる手段が解約です。解約することで、掛金の総額と同額か、それ以下の金額が戻ってきます。この戻ってくるお金のことを解約手当金と呼び、解約手当金が掛金の総額より下回ることで元本割れを起こします。
たとえば掛金月額1万円で5年間納付した場合、掛金の総額は60万円です。しかし、解約手当金の額は48万円になり、12万円の元本割れになります。なお、掛金納付月数が240カ月(20年)以上になると、解約手当金の額は掛金の総額と同額になります。
では、解約手当金の額が掛金の総額と同額になれば損をしないのかというと、一概にそうともいえません。小規模企業共済の掛金に使うのではなく、そのお金を銀行に預ければ利子がつきます。したがって「20年間、掛金を納付して解約手当金の額が掛金の総額と同額になった」場合は、「20年間、同額を銀行に預金した」場合より損をしたと考えることもできてしまいます。
掛金納付月数が12カ月未満の場合は掛け捨てとなる
掛金納付月数が12カ月未満の場合は、解約手当金は受け取れず、納付した掛金は掛け捨てとなります。そのため、最低でも「掛金×12カ月分」を確実に払い込める資金的余裕がなければ、小規模企業共済に加入しないほうがよいと判断できるかもしれません。
掛金はあとからでも増額できるため、まずは余裕資金の範囲内ではじめてもよいでしょう。
共済金を受け取るときは課税される
これは厳密にはデメリットではないのですが、人によってはデメリットと感じる場合もあるでしょう。
共済金を受け取るときは課税される可能性があります。税法上は、共済金を一括で受け取ると、退職所得扱いになります。共済金を分割で受け取ると、雑所得扱いです。いずれも非課税ではありません。
小規模企業共済は「それほど増えない」と感じるかもしれない?
退職金と聞くと、多額のお金をイメージするかもしれません。しかし、小規模企業共済の共済金はそれほど大きなお金にならない可能性があります。
「共済金はどれくらいお得なのか」の章で、以下のようなシミュレーションを紹介しました。
- 掛金の総額:毎月1万円×20年間=240万円
- 共済金の額:最大2,786,400円
- お得になる額(増えた額):386,400円=2,786,400円-2,400,000円
- 20年間の増額率:16.1%=386,400円÷2,400,000円×100
- 1年間の増額率:0.805%=16.1%÷20年
「毎月1万円の掛金で退職金が2,786,400円になる」と言われると大きな金額のように感じるかもしれません。しかし、2,786,400円のうちの240万円(約86%)は自身が積み立てたお金です。そして増えた額は386,400円であり、これは20年で築き上げたものとなります。つまり、1年で増えた額は19,320円(=386,400円÷20年)です。
現在は金融機関の預貯金の金利が非常に低いため、それよりは小規模企業共済のほうが有利かもしれません。しかし、「ものすごくお得」というイメージからは遠い存在となります。小規模企業共済はコツコツ積み上げていくお金、ととらえてみてはいかがでしょうか。
iDeCoと小規模企業共済の違い
iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、公的年金(国民年金・厚生年金)とは別に給付を受けられる私的年金制度の一つです。
公的年金と異なり、加入は任意で、加入の申込、掛金の拠出、掛金の運用の全てを自身で行い、掛金とその運用益との合計額をもとに給付を受け取ることができます。
iDeCoは20歳以上60歳以下なら誰でも加入できる一方で、小規模企業共済に加入できるのは小規模事業の経営者、役員、個人事業主、個人事業主の共同経営者です。
掛金すべてが所得税控除の対象となる点は共通しています。
最大の違いは運用を誰が行うかという点でしょう。iDeCoは自身で運用を行い、大きな利益を生む可能性も、元金割れする可能性も両方あります。一方で小規模企業共済は自身では運用せず、3年以上納め続ければ必ず利益を生むという特徴があります。※前述の通り20年以下の解約時には元本割れを起こします。
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金融の専門家を揃えたドリームゲートには、小規模企業共済について精通したプロも多く在籍しています。小規模企業の経営者、役員、個人事業主の方々が「退職金のようなお金が必要だ」と感じたら、ぜひドリームゲートの専門家にご相談ください。なお、初回のメール相談は無料です。
執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
運営:株式会社プロジェクトニッポン
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