M&A後の事業統合(PMI)とその流れについて、詳しく解説

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 萩原 洋

以前、本コラムでM&Aはゴールなのかスタートなのかについて執筆しました。その時、事業統合(PMI = Post Merger Integration)について少々述べましたが、今回はM&Aの最終的なゴールである事業統合(PMI)と、その一連の手続きについてさらにくわしく解説したいと思います。

事業統合(PMI)の重要性とその課題

事業統合(PMI)とは、M&A成約後の本格的な経営、事業を統合する一連の作業のことをいいます。最初に設定したM&Aの戦略上の目的を実現し、企業価値を創出していく手続きです。M&Aは契約の締結をもって終了するわけではありません。

特に、買手側企業にとっては、相当な額の先行投資をするわけですからM&A後、ぶじ事業統合を果たし本来の目的が達成されてこそ、晴れてM&Aが成功したと、株主をはじめとしたステークホルダー(利害関係者)からの評価を受けることができるのです。これは業種を問わずいえることです。

飲食業界でもたとえば、大手外食フランチャイズチェーンのメイン業務が頭打ちで、事業の多角化によりグループ全体の売上・利益を上げようとする戦略上の目的で、成長が見込めそうな中堅フランチャイズチェーンや個性のある店舗にM&Aを行い事業統合する場合もそうです。M&A後に当初の戦略とおりに売上・利益が上がってこそ、真にM&Aは成功したといえるわけです。

また、事業統合に際して認識しておくべきいくつかの課題があります。これらをしっかりと理解し、意識しながら一連の事業統合の手続きを進めていくことで、全体としてM&Aがうまくいったという評価になります。認識する事業統合上の課題としては、

①マネジメント力
②異なる企業文化と体制
③シナジー(相乗)効果

です。これらについて具体的に見ていきます。

①マネジメント力

M&Aが成功したかどうかの評価は、M&A成約後、事業を統合し本来の目的が達成されたかによりますが、そのためにはマネジメント力が大きく左右してきます。

通常M&Aでは、売手側企業と買手側企業のマネジメント力には差がありますが、事業統合は主に、買手側企業のマネジメントのもとで進められていきます。この時に、売手側企業のマネジメント力に優れたスタッフを重用することで、従来の買手側企業単独よりも優れたマネジメント力を発揮し、事業統合を一気に進めることができます。

逆に売手側企業・買手側企業双方の対等な関係にこだわった結果、両者の優れたマネジメント力が発揮されず、レベルの低いマネジメントになってしまい、思ったように事業統合が運ばなくなってしまうこともあります。

②異なる企業文化と体制

M&Aとは、異なる組織をひとつの組織にする一連の手続きともいえます。各々の組織には、本来、異なる経営理念や企業文化、経営システム、人事制度といったものがあり、経営や業務に対する考え方、取り組み方、そしてモチベーションなどに差があります。
こういったものをそのままにしておいては、事業統合の大きな阻害となります。

こうしたリスクを排除し、事業統合の手続きを進め、M&Aの目的を達成するためには、優れたマネジメント力で、早めに企業文化の融合を図り、体制を固める準備をすることです。

③シナジー効果

シナジー効果の発現は、事業統合の最大の課題でありM&Aの目的です。そのため、M&Aを開始する際、シナジー効果による企業価値の創出といった明確な目的の設定と、そのためのM&A戦略を立てておくことが重要になります。

シナジー効果は、「コストシナジー」と「財務シナジー」といったものがありますが、これらがうまく機能することで、その効果が最大限発揮されるわけです。買収代金という形で先行投資をしている買手側企業にとっては、特にシナジー効果を最大限引き出す必要があります。

少なくともシナジー効果の発現により、売買対象である売手側企業の企業価値に、「のれん」といったプレミアム分を上乗せした以上のキャッシュフローを生み出さなくてはなりません。こうしたことを可能にするには、やはり優れたマネジメント力により異なる組織間の軋轢(あつれき)を取り除くことが第一歩となるでしょう。

以上のような事業統合上の課題を踏まえた上で、事業統合の流れを見ていきましょう。

事業統合(PMI)の一連の流れ

事業統合の流れは、前半の短期的な統合手続きと、後半の中・長期的なものに大まかに分けられます。さらに前半の手続きは、フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と3段階に分けて進めていきます。

短期的な統合手続き

◎︎フェーズ1

実施時期はM&Aプロセス後半、デューデリジェンスからクロージング時 (これをDAY1という)、M&Aプロセスと並行して行います。

具体的な内容は、事業統合に向けた内外のステークホルダーへのM&Aについての周知を徹底することです。外部の株主、取引先、顧客といったステークホルダーに対しては、M&Aによる企業価値の増加という積極的な情報発信をします。また、内部の従業員に対しては、M&Aにより給与その他人事面などのメリットについて話しておきます。

また、統合に際しての基本的なスタンスもこの段階で決めておきます。当面売買対象企業をそのままの経営体制にしておくか、買手側企業に完全統合し消滅させる、あるいは支配従属関係にするか、といったことが考えられます。そして、数値目標を設定した今後のスケジューリングもこの時期に立てておきます。

◎フェーズ2

実施時期は、フェーズ1のDAY1から3ヶ月程度の期間で、これをDAY100あるいは100日プランといったりします。

先のフェーズで設定したスケジュールを実行し、早期に買手側企業と売買対象企業との組織の統合を図るとともに、先のスケジュールをブラッシュアップした将来のプラン作りが主な内容となります。組織統合のため、買手側企業スタッフをトップとするプロジェクトチームを編成し、売買対象企業スタッフも含めた分科会と、これを補佐するBMO(ビジネス・マネジメント・オフィス)を組織します。

◎フェーズ3

実施時期は、M&Aのクロージングから1年程度の期間で、M&A後最初の決算を含むものです。
主な内容は、フェーズ2で統合した会社組織の安定化を図るとともに、コストシナジー効果により、M&A後の事業統合の最初の成果を内外にアピールすることです。

これにより前半の短期統合の手続きは終了し、これにより次の中・長期的な統合手続きへとスムーズに繋げていけます。

中・長期的な統合手続き

時期的には、M&Aクロージング後、2〜5年程度の期間です。

短期統合手続きの中で策定された、中・長期計画を実行し、シナジー効果の発現による継続的な企業価値の創出といったM&Aの本来の目的を確実に成し遂げる事業統合の最終段階です。

まとめ

以上、M&A後の事業統合について、一連の流れを含めて述べました。M&Aとは、戦略上の目的を設定したうえで取るひとつの手段であって、その後の事業統合によりその目的を実現することが真に重要なことです。

先にあげた飲食M&Aの例にように、大手フランチャイズチェーンがさらなる事業拡大のため、M&Aにより中堅フランチャイズチェーンを傘下に収め、「財務シナジー効果」により売上・利益を増やす。逆に不採算店舗をM&Aにより売却、「コストシナジー効果」による事業や店舗の選択と集中を図るといったものが事業統合の代表的なものです。

しかし、これは大手外食産業に限らず、個人対個人のマッチングプラットフォームを利用したM&Aにも当てはまります。実績のある店舗を買収し、それを足がかりに多店舗展開、いずれは飲食フランチャイズ本部を立ち上げるといった目的のため、M&Aという手段を利用し、事業統合でシナジー効果を出し所期の目的を実現するということは、極めて有効といえるでしょう。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)

外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。

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ドリームゲートアドバイザー萩原洋

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