先日、東京ガールズコレクションを運営なさっている方とお話しした際に、面白いエピソードを聞きました。
「東京ガールズコレクション」(以下、TGC)はご存じ、日本最大の一般顧客向けファッションイベントです。2005年に第1回が開催され、2020年の春に第30回を迎えます。
マーケティングでよく使われる「F1層」(20~34歳の女性)をおもなターゲットとして、彼女たちの大好きなモノが大挙して登場することで大変な人気を博しました。ジャパニーズカルチャーのアイコン的な存在として海外からの関心も高まっています。
ランウェイを歩くのはファッション誌の人気モデルだけでなく、フォロワー数の多いタレントやその時々の「話題の人」なども。事前には発表されずにサプライズゲストとして登場し、会場は大いに盛り上がります。
そんな人気イベントなので、「自分もこのランウェイを歩きたい!」と憧れる女子が多くなるのも当然のこと。同イベントの企画/制作会社は、そういったニーズに向けて、オーディションを開催しています。
1回に1万人以上いる応募者の中から夢のランウェイデビューを飾れるのは、書類審査はもちろん、web上のLIVE配信を通じてポイントを集めたり、審査員の前で歌声を披露したり、といった難関をくぐり抜けた、ほんの数名です。審査にあたった芸能事務所と契約できることもあり、TGCのオーディションは芸能活動への登竜門にもなっています。
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起業前のファンづくりに着眼したJKの戦略思考
さて、前置きが長くなってしまいました。肝心のエピソードはここからです。
上でお話ししたように競争率1000倍以上という狭き門である、TGCオーディションを受けに来たひとりの女性のことです。
審査員の方に志望動機を問われて、彼女はこんなことを答えたそうです。
自分が高校生のときからよく使っているある商品を、自分がプロデュースしたいと考えている。会社を立ちあげた際には自分にファンがついているほうが絶対有利なので、そのためにTGCに出たい。TGCをきっかけに自分のファンを増やしたい。
まだ10代の志望者ですが、そんな動機を話したそうです。
今までに何万人もの志望者を見てきた審査員も、従来になかったこの答えには感心したと言っていました。どんな職種であれ自分自身の支持者をきちんと増やしていくことがこれからの時代、生き残りのカギになる、というのが我々共通の考えだったからです。
何より、「事業を始める前に、自分自身のファンをつかんでおく」という着眼が素晴らしいです。
彼女のオーディションの合否を私は知りませんが、今回の結果がどうあれ、その戦略思考と行動力があれば、商品プロデュースの事業を成功させることは、夢では終わらないのではないか、とエールを送りたい気分になりました。
起業前の「ファンづくり」が重要
この「事業開始前から市場にファンを増やしておく」という手法は、創業支援をしている行政書士の方とコラボセミナー等を開催するときの、私の主たるメッセージでもあります。
自分で事業を立ち上げるにあたり、大抵の人は今いる友人や知人に「そのときはよろしく」といった声掛けをしていると思います。
新しくお店をOPENする場合には、とつぜん開店日を迎えるのではなく、何日か前からポスターを貼ったり、チラシを配ったり、という活動をしますよね。
事前に告知を開始しておくことの重要性は誰も否定しないと思います。
告知をしておくだけだと、実際に買ってくれるかどうかは蓋を開けるまで分からないのですが、もしも見込顧客がファンにまでなってくれていたとすると、買ってくれる確度はかなり上がりそうです。
事業を始める際に、精度の高い売上見込が立っているほど心強いことはありません。
顧客との接点、「過去と今」
現在は見込み顧客づくりを実現しやすい環境が整っています。
伝統的な商売においては、売り手と買い手のおもな接点は以下の3場面でした。
- 商品の売買
- 販売の予告 / 購入の予約
- アフターサービス
いずれも商品を介しています。
商品に関すること以外で、売り手と買い手が接する機会も必要性もなかったのです。
大きな理由のひとつは、接点を持つためのコストが高かったことでしょう。
日本では2010年頃から「コンテンツマーケティング」なるコトバがよく使われ始めました(専門展示会のひとつ「コンテンツマーケティングEXPO」の第1回が2015年の開催)。
背景にあるのは、もちろんSNS利用の浸透です。ホームページやブログよりも見込顧客に到達しやすいルートができたのです。
これにより、商品を介するのではなくコンテンツ(何かしらの情報)を通じて、見込顧客にさりげなく「自分たちから買ってくれる動機付け」をしよう、というのがコンテンツマーケティングです。
見過ごされがちなので、もう一度言っておきます。
「商品を介するのではなくコンテンツを通じて」の部分が、実は重要です。
コンテンツを用いる利点のひとつは、商品広告よりも人の関心を惹きやすいこと。
もうひとつは、内容に興味を持ってもらえれば、継続的な接点を持ちやすいことです。
自分たちのことを、まずは知ってもらう、憶えてもらうところからはじめます。
コンテンツ自体は文章でも写真でも動画でも形式はなんでもいいのですが、見込顧客に興味を持ってもらえる内容で、自分の事業と何らか関連性のあることがよいです。
例えば不動産事業者であれば、
- 地元グルメやショッピングマップ
- ジョギングや散歩のお薦めルートガイド
- やさしい資産運用教室
- 近隣も含めた不動産価格の変動情報
- 地域著名人の交遊録
- 地元で見つけた珍百景
などなど、さまざまな切り口のコンテンツが考えられます。
いずれも一度情報発信して終了、ではなく、継続して発信できるような内容に工夫することがポイントです。
コンテンツを見たり読んだりしているうちに、顧客はその事業者の個性、特色、優位性などを感じ取っていきます。
「地域の事情に精通していて情報が豊富」「顧客のニーズをよくわかって、きちんと応えてくれる」「地元との結びつきが強く頼りになる」「親しみやすく相談しやすい」などといった評価が顧客のアタマの中で固まってくるのです。
それが「自分たちから買ってくれる動機」のベースになるというわけです。
ここに挙げた不動産業は最たる例ですが、商品が日用品や消耗品でなければ、ひとりの顧客と実際に売買をする機会がそうそう何度もない業種も多いでしょう。
だからこそ、商品の売買に先駆けて見込顧客と良好な関係をあらかじめ築いておくことは重要なのです。
起業前のファンづくりコンテンツを成功させるポイント
さて、起業準備の段階においては、これはもっと重要です。
先に述べた手法なら、まだ実際の商品がなくても、良好な関係の見込顧客をあらかじめつくっておくことができますし、起業時こそ効果が大きいからです。
特に現在サラリーマンの方が独立を目指している場合など、会社に勤務しているうちからSNSを活用して見込顧客づくり、ファンづくりに取り組む事例は増えてきました。
社内規約で従業員の副業を明確に禁止している会社は、最近本当に減りました。また、残業をなくそうという動きは、就業時以外の時間で起業を準備する人には追い風です。
ぜひとも事業開始前の見込顧客づくりに取り組んで欲しいと思います。
さて、ファンづくりコンテンツを発信するとき、起業前であれば特に下記をしっかり検討してください。
1.発信者
平たく言うと、顧客に個人名を憶えてもらうか、登記前の屋号を憶えてもらうか、ということです。コンテンツの主格を一人称にするかどうか、下記の「3.切り口とテイスト」などに関わるのですが、あまり考慮されていないケースは多いです。
例えば、ワインに関するコンテンツを発信する場合。ワインアドバイザーとしての活動の準備であれば個性を前面に出す切り口も考えられますが、インポーターや販売事業を始めるのであれば、あえて無人格にすることで信頼感を醸し出すという手もあります。
2.コンテンツのテーマ
とくに起業前は、事業の専門性がわかりやすい内容にしておくのが良いでしょう。これが曖昧なコンテンツは、そもそも見込顧客に届きません。
3.切り口とテイスト
「切り口」は、テーマのどんな側面を扱うか。「テイスト」は、どんなふうに味付けするか。このふたつを一括りにしているのは、自社が顧客にとってのどんな存在になりたいか、に関わるからです。顧客に好きになってもらうときに、「快感」「感心」「感謝」「共感」の4つのいずれに寄せるのが自社にとって適切か、を考えます。この「4つの感」については、こちらのコラムをご参照ください。
>>【第3弾】丸亀製麺のCMに学ぶ、顧客がファンになる4つの心理
4.ツール
コンテンツの発信のために、おもに使う媒体のことです。使いやすいものを使えばよいのですが、あくまで上の3つが決まってから決めるべきものです。「動画」とか「ライブ」とか「インスタ」とか、先にツールが決まるのは本末転倒です。
ウェブ以外でもつくれる見込み顧客づくり
SNSはうまく利用すればよいのですが、ウェブだけで完結させる必要はありません。
フェイスブックなどを通じて招待されるイベントの中にも、起業前の見込顧客リストづくりとして実施されているものは結構あります。
ワインアドバイザーのこだわりのセレクションが楽しめるワイン会、経済や金融など特定分野にフォーカスした外国語セミナー、ベトナム料理やタイ料理などの通好みの名店で開催される食事会などなど。SNSで参加者を募りますが、見込顧客との関係はリアルな場でつくることを重視している例のひとつです。
すでに事業として実施されているものもあるので、一度参加してみると具体的な運営方法の参考になると思います。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏
(株式会社エストVISION 代表取締役社長)
学生時代からマーケティングを専攻し、大手エンタテイメント企業のマーケティング担当として従事。
事業を創業した際に必要な顧客は集客活動ではなく「相手に貢献したいという思いが連れてくる」を信条として商いの理想を追求し続ける。
業種にとらわれず多数の事業で「ファン作り」のメソッドを提供。
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