厚生労働省が今年4月より実施している産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)は、事業再構築補助金で採択され、新しく人を雇う際にその賃金に対して助成金が出る制度です。この記事では事業再構築補助金と産業雇用安定助成金をダブルで受給し最大4,400万円を調達できる方法やその効果などを紹介します。
補助金と助成金を組み合わせてポストコロナ時代の新しい取り組みに活かしたい事業主必見です。
- 目次 -
2つの支援策の概要
事業再構築補助金と産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)のそれぞれの概要を紹介します。ただし、本項ではかんたんに紹介するだけにとどめ、詳細は後述する「2つの支援策の詳細」の章でお伝えします。
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待しがたいなか、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等を支援する制度です。ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等がおこなう新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業・業種転換、事業再編、国内回帰、規模の拡大などを補助対象としています。ポイントは、申請者(中小企業等)がコロナ禍の影響を受けていることと、事業再構築に取り組むことです。
事業再構築補助金の特徴のひとつに、種類が多いことがあげられます。さまざまな角度から支援を実施するため、次の8つの枠が用意されており、申請者は、自社が取り組む事業再構築の内容に応じて申請します。
- 成長枠
- グリーン成長枠
- 卒業促進枠
- 大規模賃金引上促進枠
- 産業構造転換枠
- 最低賃金枠
- 物価高騰対策・回復再生応援枠
- サプライチェーン強靱化枠
産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)とは
産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)は、新たな事業への進出など、事業再構築をおこなうために必要となる新たな人材の円滑な受け入れを支援する制度です。新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主を助成対象としてます。コロナ禍と事業再構築に関連する点は、事業再構築補助金と同様ですが、こちらは新規雇用が重要な要件になります。また、助成金の対象になる新規雇用者の人数は最大5人です。
産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)には、もうひとつ重要な要件があります。それは申請する際に、事業再構築補助金(最低賃金枠と物価高騰対策・回復再生応援枠のみ)の交付決定を受けている必要があることです。したがって産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の受給は、必ず事業再構築補助金(最低賃金枠または物価高騰対策・回復再生応援枠)とのダブル受給になります。
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ダブル受給できるケースと資金調達の例
補助金も助成金も、申請者にとっては重要な資金調達方法です。ダブル受給できる形態はいくつか考えられますが、ここでは2つのケースを紹介します。
ケース1:事業再構築補助金・最低賃金枠+産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)
ある中小企業(従業員21人以上)が事業再構築補助金の最低賃金枠を選択し、事業再構築に関する事業(補助事業)をおこなうことにした。補助事業の総額は2,000万円とした。
この中小企業はまた、補助事業の実施のために新たに労働者を5人雇用した。(産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の対象者の上限は5人)
●事業再構築補助金・最低賃金枠における中小企業の補助率は3/4となります。そのためこの申請が採択された場合、補助事業2,000万円の3/4である1,500万円を受給可能です。
●この企業が産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の受給要件に該当すれば、助成額は労働者1人当たり280万円となります。そのため、総額1,400万円(=280万円/人×5人)を受給することもできます。
●結果1:この中小企業は計2,900万円を受給可能
内訳
事業再構築補助金・最低賃金枠:1,500万円
産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース):1,400万円
ケース2:事業再構築補助金・物価高騰対策・回復再生応援枠+産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)
ある中小企業(従業員51人以上)が事業再構築補助金の物価高騰対策・回復再生応援枠を選択し、事業再構築に関する事業(補助事業)をおこなうことにした。補助事業の総額は4,500万円とした。
また、この企業は補助事業の実施のために新たな労働者を5人雇用した。
●事業再構築補助金・物価高騰対策・回復再生応援枠の中小企業の補助率は、従業員数51人以上の場合は1,200万円まで は3/4 、それ以上は2/3となります。そのため、この申請が採択された場合、補助事業4,500万円の2/3である3,000万円を受給可能です。
●この企業が産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の受給要件に該当すれば、ケース1と同様に総額1,400万円(=280万円/人×5人)を受給することもできます。
●結果2:この企業は計4,400万円を受給可能
内訳
事業再構築補助金・物価高騰対策・回復再生応援枠:3,000万円
産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース):1,400万円
2つの支援策の詳細
事業再構築補助金と産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の2つの支援策の詳細をみていきましょう。対象(主な要件)と補助・助成内容、受給までの流れを紹介します。なお、事業再構築補助金については、産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)とのダブル受給が可能になる最低賃金枠と物価高騰対策・回復再生応援枠のみを紹介します。
補助金と助成金の対象(主な要件)
2つの支援策の対象、または主な要件について紹介します。
【事業再構築補助金】の対象(主な要件)
最低賃金枠の要件
- 事業再構築指針に示す事業再構築を補助事業としておこなうこと(以下、事業再構築要件)
- 事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けていること(以下、認定支援機関要件)
- 補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3.0%以上増加、または従業員1人当たり付加価値額の年率平均3.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること(以下、付加価値額要件)
- 2022年1月以降の連続する6カ月間のうち、任意の3カ月の合計売上高が対2019~2021 年の同3カ月の合計売上高と比較して10%減少していること
- 2021年10月から2022年8月までの間で、3カ月以上最低賃金+30 円以内で雇用している従業員が全従業員数の10%以上いること
物価高騰対策・回復再生応援枠の要件
- 事業再構築要件
- 認定支援機関要件
- 付加価値額要件
- 以下(a)(b)のいずれかを満たすこと
- (a)2022年1月以降の連続する6カ月間のうち、任意の3カ月の合計売上高が対2019~2021年の同3カ月の合計売上高と比較して10%減少しているこ
- (b)再生事業者であること
【産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)】の対象(主な要件)
次の1)~9)のすべてに該当すること
1)事業再構築をおこなうために新たな人材を雇入れる。以下の①と②に該当する必要がある
①次のaまたはbのいずれかに該当する
a.専門的な知識や技術が必要となる企画・立案、指導、教育訓練などの業務に従事する
b.部下を指揮および監督する業務に従事し、係長相当職以上
②1年間に350万円以上の賃金が支払われる
2)2023年4月1日以降に事業再構築補助金の応募書類を提出し、交付決定を受けていること
3)対象労働者の雇入れにあたって、次のa~cのすべての条件を満たすこと
- 雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れること
- 期間の定めのない労働契約を締結する労働者(パートタイム労働者は除く)として雇い入れること
- 事業再構築補助金の補助事業実施期間の初日から当該期間の末日までに雇い入れること
4)対象労働者に対して1年間(助成対象期間)に350万円以上の賃金を支払っていること
5)雇入れ日前6か月から本助成金の支給申請までの期間に雇用する労働者を解雇などしていないこと
6)基準期間に倒産や解雇など特定受給資格者となる離職理由の被保険者数が対象労働者の雇入れ日における被保険者数の6%を超えていないこと(特定受給資格者となる離職理由の被保険者が3人以下の場合を除く)
7)支給申請日の前日以前に、過去に本助成金の支給決定の対象となった労働者を解雇していないこと
8)以下の条件を満たすこと
受給に必要な書類※を整備し、受給のための手続きにあたって労働局などに提出するとともに、保管して労働局などから提出を求められた場合はそれに応じて速やかに提出すること
※雇い入れの対象となった労働者の出勤の状況や賃金を明らかにする書類(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)など
9)労働局などの実地調査を受け入れること
補助内容と助成内容
続いて補助と助成の内容を紹介します。
■事業再構築補助金の補助内容(最低賃金枠と物価高騰対策・回復再生応援枠のみ)
補助金額や補助率は企業規模などによって変わります。
1)最低賃金枠の補助内容
- 補助金額:100万~1,500万円
- 補助率:中小企業3/4、中堅企業2/3
2)物価高騰対策・回復再生応援枠の補助内容
- 補助金額:100万~3,000万円
- 補助率:中小企業2/3、中堅企業1/2
■産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の助成内容
- 助成額(第1期と第2期の総額):中小企業:280万円/人、中小企業以外:200万円/人
- 助成対象期間1年
受給までの流れ
本項では、受給までの流れを紹介します。また、産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)は、事業再構築補助金の交付決定を受けていないと申請できません。そのため、「事業再構築補助金の申請→交付決定→産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の申請」という順で紹介します。
事業再構築補助金の受給までの流れ
中小企業等が事業計画などを策定する
↓
中小企業等が事務局に申請する(電子申請)
↓
事務局が申請者(中小企業等)に交付候補者の採択の通知をおこなう行う
↓
申請者が事務局に交付申請をおこなう行う
↓
申請者が補助事業を実施する
↓
事務局が申請者に交付決定を知らせる
↓
申請者が事務局に補助事業の実施・実績の報告をおこなう
↓
事務局が申請者に対し、補助金の交付額の確定を知らせる
↓
申請者が事務局に補助金を請求する
↓
事務局が申請者に補助金を支払う(申請者が補助金を受給する)
産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)の受給までの流れ
(申請者が事業再構築補助金の交付決定を受ける)
↓
補助事業実施期間内に対象者を雇い入れる
↓
申請者が事務局に助成金の第1期の支給申請をおこなう
↓
事務局が支給申請の内容を調査して確認する
↓
事務局が支給・不支給を決める
↓
支給なら助成金が支給される(申請者が助成金を受給する)
(第2期まであり、第2期も同様の手続きをおこなう)
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よくある質問
事業再構築補助金と産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)に関してよくある質問と、それに対する厚生労働省の回答を紹介します。
Q:事業再構築補助金はどのような制度か
A:ポストコロナ・ウィズコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編など、思い切った事業再構築に意欲を持った中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的としています。
Q:産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)について。雇い入れた労働者が、専門的な知識や技術が必要となる企画・立案、指導、教育訓練などの業務に従事する者であることは、どのように証明すればよいのか
A:対象労働者雇用状況等申立書(様式第2号)に、当該労働者の従事する業務の内容を記載するとともに、業務内容、部署が明らかにされた事業主の組織図などの写しを提出していただきます。
Q:2023年4月1日より前に事業再構築補助金の交付決定を受けた場合は、労働者を雇い入れた場合でも支給対象とならないのか
A:2023年4月1日以降に事業再構築補助金の応募書類を提出し交付決定を受ける必要がありますので、第9回以前の公募による補助事業者は支給対象となりません。
Q:事業再構築補助金の交付決定を受けたが、事業計画の「実施体制」中に人材確保に関する事項を記載していない場合は、労働者を雇い入れた場合でも支給対象とならないのか
A:支給対象とはなりません。ただし、事業再構築補助金の計画変更により人材確保に関する事項を記載し、独立行政法人中小企業基盤整備機構の承認を受けた場合であって、当該承認日以降、補助事業実施期間の末日まで対象労働者を雇い入れた場合は、支給対象となります。
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001078600.pdf より
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事業再構築補助金や産業雇用安定助成金(事業再構築支援コース)は、単体であっても、受給が容易ではない制度です。ましてや、ダブル受給を目指すことは、さらに難易度が高くなります。しかし、いずれも中小企業にとって重要な事業資金になるため、要件を満たせばダブル受給を目指したい企業が多いでしょう。
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執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
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