インボイス制度が昨年10月から始まって、まもなく1年が経とうとしております。だんだんと領収書や請求書に登録番号がある方が増えてきており、売上の少ない小規模事業者や、新規設立法人など、本来消費税の免税制度の対象となりうる事業者も、社会情勢を鑑み取引を円滑に進めるため、登録番号を申請して課税事業者になるケースが多くなりつつある現状です。
さて、インボイス制度開始当初より、事業者の急激な税負担の増加を緩和するため、いくつかの特例(経過措置)が設けられているのをご存じかもしれません。
しかし当該各特例につきましては、時限立法であるため、近年中に制度がなくなってしまうのをご存じでしょうか?当該制度の終了に伴い、消費税の納付負担が増すことが懸念されるため、各特例の終了時期を把握し、対策を準備しておきましょう。
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インボイス制度の「8割控除」
8割控除とは、インボイス登録していない事業者が取引先にいた場合、インボイスがなくても支払った消費税につき、80%まで税額控除できるという経過措置です。
インボイス制度においては、原則は登録番号のある取引先への支払においてのみ、消費税の計算上税額控除ができ、登録番号のない取引先への支払に係る消費税については、税額控除できないことになっております。
しかしながら、8割控除が適用される期間においては、登録番号のない支払先についても80%は控除できるため、支払先に登録番号があるかないかで、20%のみ控除額が変わることになります。
しかし注意頂きたいのは、80%控除の経過措置期間は2023年10月1日から2026年9月30日までとなっており、その後は80%控除が50%控除となってしまいます。さらに50%控除の経過措置期間は2026年10月1日から2029年9月30日までとなっており、それ以降は登録番号のない支払先に係る控除額は0円となってしまい、消費税の納付額計算において、納付額が増えることにつながります。
ちなみに事業者における消費税の納付額の原則計算は
課税期間における売上に係る消費税の合計-課税期間における支払に係る消費税の合計 =課税期間における消費税の納付額 |
となっています。
登録番号のない支払先に係る消費税の控除額が8割から5割になると、売上に係る消費税額から控除できる金額が減り、消費税の納付額が増えてしまうため、割合の改定に備えて、8割控除期間終了までに支払先につき登録番号がある業者への選択変更などを検討したり、税負担額の増加につきシミュレーションをしておくなどの対策が考えられます。
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インボイス制度の「2割特例」
2割特例とは、新規設立法人や、2期前の売上が1000万円以下などの免税事業者がインボイス登録により課税事業者となる場合には、原則によらず、
課税期間における売上に係る消費税の合計×20%=課税期間における消費税の納付額 |
とすることができる経過措置です。この経過措置により、新設法人などの事業者は最初の約2年間、2期前の売上が1000万円以下の小規模事業者などは継続して消費税の納付額が少なくなる可能性があります。
しかしながら、当該制度も時限立法となっており、経過措置期間は2023年10月1日から2026年9月30日の属する課税期間となっております。8割控除と経過措置期間が若干異なるのが、8割控除は2026年10月以降の取引は全て経過措置終了となりますが、2割特例については「2026年9月30日の属する課税期間」という文言のため、例えば12月決算の場合は、2026年12月31日までの課税期間が経過措置期間となります。
新設法人や、2期前の売上が1000万円以下の事業者においても、2割特例適用期間終了後は、通常の原則計算にて消費税の納付額を計算するため、納付額が一気に増えるケースも想定されるのです。そのため、対策について考えてみましょう。
対策
2割特例が終了になる前に、簡易課税選択届を提出する
2割特例終了後の対策の一つとして、原則計算に変わって、簡易課税制度を選択するという方法があります。
簡易課税制度とは、原則計算の
課税期間における売上に係る消費税の合計 - 課税期間における支払に係る消費税の合計=課税期間における消費税の納付額 |
という計算方法ではなく、
課税期間における売上に係る消費税の合計×(1-事業区分ごとに決められた%)=課税期間における消費税の納付額 |
という計算方法を選ぶという制度です。
当該制度は、2期前の課税売上が5000万円以下の事業者が選択できる制度です。
事業区分ごとに決められている%(みなし仕入れ率)というのがこのような状況になっています。
第1種事業 | 90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
第2種事業 | 80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。 |
第3種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 |
第4種事業 | 60% | 第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 なお、第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業となります。 |
第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます。 |
第6種事業 | 40% | 不動産業 |
前述の表を元に例を出すと、建設業(第3種)70%や飲食業(第4種)60%だと、簡易課税制度を選ぶことで、売上に係る消費税の60~70%が自動的に控除されるため、もし経費割合につき給与(非課税)の支払額が多いケースなどは、2割特例終了後は原則計算より簡易課税制度を選んだ方が有利になる可能性があるのです。
そのため、2割特例後に簡易課税制度を選ぶ手続きが有効となるケースを想定し、今のうちに消費税の計算において、原則計算での納付額と簡易課税制度での納付額を比較するシミュレーションを行っておくことをお勧めいたします。
また、支払先につき登録番号のない支払先が多いケースなどは、8割控除→5割控除→0控除となるに従い、簡易課税制度を選んだ方が有利になるケースも出てくると想定されるため、合わせてシミュレーションをしていくのが有効です。
簡易課税制度の選択については、対象となる課税期間の直前に届出をする必要があり、一度提出すると2年間は原則計算に戻せなく、また固定資産などの大規模投資がある場合、原則計算の方が有利となる可能性があるので、実際に届出を出す前に専門家に相談されることをおすすめします。
少額特例
最後に少額特例についても触れておきます。少額特例というのは、支払先への支払額が10,000円未満の取引については、登録番号のない支払先であっても、一定の帳簿保存を要件に、全額税額控除ができるという経過措置です。
この制度は2023年10月1日から2029年9月30日までという経過措置期間となっており、それ以降は少額特例がなくなるため、8割控除と同様に、期間終了までに支払先につき登録番号がある業者への選択変更や、消費税の負担増に係るシミュレーションを行って、納税準備をしておくのが有効でしょう。
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執筆者プロフィール:ドリームゲートアドバイザー 加賀谷豪(税理士、ファイナンシャルプランナー)税理士加賀谷豪事務所
1981年 北海道札幌市生まれ
同志社大学卒業後、税理士事務所業界経験12年の内、起業者の税務顧問をメインとして携わる中で、より起業支援に特化した研修、勉強会などのサービス提供を目的として、平成26年に株式会社ピクシスを設立。マーケティング戦略・ネット集客に係るプランニングにより、売上のビジョンを明確化するという目的と、それによる充実した事業計画を作成活用することで、融資対策につながるご提案を目的とした起業者向け勉強会を継続的に行っている。平成28年に税理士登録とともに、税理士法人アクシオンを設立
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