エンジェル投資家 那珂通雅氏が語るスタートアップへの投資を決める3つのポイント

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 森若 幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

ファウンダーにとってエンジェル投資家の存在は、事業の成長を一番身近で支えてくれる貴重な存在です。彼らは、何をポイントとして投資先を選び、どのように支援していくのでしょうか。これまでGLMやFiNC Technologiesをはじめとする多数のスタートアップに投資を行ってきた著名エンジェル投資家の那珂通雅(なか みちまさ)氏にお話を伺いました。

なぜエンジェル投資家になったのか

平成元年にソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社(現シティグループ証券㈱)に入社し、外国債券営業部に所属しました。外国債券の取り扱いが多い当社の中でトップセールスとして、アメリカ国債、ヨーロッパ国債などを中心に日本の機関投資家に販売してきました。

一方で、好調な債券ビジネスとは裏腹に、私が在籍していた21年間で日本株が、ずっと低迷している事に、とても歯痒さを感じていました。日本株低迷の真の理由は平成に入ってから、時価総額1兆円を超える世界的なベンチャーが、ほとんど生まれていなかった事です。

日本にはまだまだ潤沢な資金があります。また大企業で埋もれているグローバル人材も多数おられます。スタートアップ業界でこうした資金や人財を活用出来る好循環を作り、日本発のグローバル企業を創出したいと思い、エンジェル投資家になりました。

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現役エンジェル投資家 那珂通雅氏が語る、スタートアップへの投資を決める3つのポイント

現在、年間500〜1000社と会い、5〜10社に投資をしています。私には、投資先の経営陣の一人となって共に日本発のグローバル企業に育てたいという思いがあります。何故なら、平成30年間で、アメリカは約10倍、ナスダックに関しては約20倍、中国は30〜40倍、ヨーロッパでも5〜10倍上がっているのに、日本は0.6倍と伸び悩んだのは、日本から新しい産業や平成生まれのグローバル企業が生まれなかったからだと考えているためです。

そこで、投資先を選ぶ際は、以下の3点を重要視しています。

(1)ファウンダーが魅力的であること

「チーム」を見て投資すると言う投資家も多いのですが、私は「ファウンダー」を見て判断するようにしています。何故なら、良いファウンダーなら良いチームを作れますし、チームメンバーは上場するタイミングで増減したりと、ステージ毎に変わっていくからです。では、どのようなファウンダーに魅力を感じるかをお伝えしましょう。

良好なコミュニケーションが取れる

第一に、相手の人柄が私とが合うかどうか、相性を大切にしています。共に会社を成長させていく上で、月に一度くらいは連絡を取りたいですし、良い人間関係の構築はビジネスの成長に欠かせません。逆に、連絡の回数が減ってくると、何か課題にぶつかっている可能性もあると考えます。

人並み以上のエネルギー・情熱を持っている

他の人が諦める場面でも最後まで諦めずにやり続けられる精神力とエネルギーがあるかどうかも見極めています。「意思あるところに道は開ける」という言葉がありますが、その通りで、強い意思を持つCEOが率いるスタートアップだからこそ、世界に新しい価値を生み出す開拓者となることができるのです。

辛い場面でさえ、経営者は圧倒的なエネルギーを出し続けなければなりません。それを見て、新しいメンバーが付いてくることもありますし、従業員に安心を与え、会社の方向性を示せるのですから。

際立った個性を持っている

性格の良し悪しではなく、「個性」がはっきりしているファウンダーがビジネスで成功していると感じます。ファウンダーは「残りの人生を何に注力していきたいか」を自覚し、主観的・客観的に自分を評価して表現すること、自分の才能を信じて果敢に取り組むことが重要ですが、それを出来る人は僅かです。

投資先のファウンダーに共通点があるかと問われると、一人一人異なる個性の持ち主で簡単に表すことは出来ませんが、「多少の犠牲を払ってでもこの人を応援したい」と思わせる何かがあったことは確かです。

因みに、日本の企業数を約400万社とすると人口の約4%が社長ですが、その内自ら起業するケースは多くて1%程度ではないかと思います。つまり、起業するのは100人に1人です。残りの99%の人々は彼らの挑戦を積極的に支援してほしいですね。

(2)素晴らしいビジョンがあること

会社としてどう在りたいのかを突き詰め、自分たちが成功した姿をはっきりと思い描き、その世界に到達する過程を理解してこそ、ビジョンが生まれるのだと思います。アップルやグーグルなどのシリコンバレーの会社には自分達の形があります。私達も日本版アップルや日本版グーグルじゃなく、自分達に根ざしたビジョンを持って会社のブランディングをしていく必要があるのです。

ビジョンをチームで共有し、同調する人を増やせれば会社は強くなります。また、ビジョンがあれば社会の変化にも適切に対応出来ます。投資先にもコロナ渦でガラッと製品やサービスを変えた企業がありますが、方法が変わってもビジョンがあることで世の中に自社の価値を出し続けられるのです。

(3)グローバル市場を見据えていること

私は海外でも勝てると思わないと投資しません。投資先でも海外売上が10〜30%を占める企業が出てきています。日本の株価がほどんど上がらなかった平成30年間でも、キーエンスや日本電産は株価を70、80倍にしていましたが、それは海外売上が8、9割だったからです。

現代のビジネスでは国内だけを見ていては規模が小さすぎますし、日本経済の低迷期でも着実に業績と株価を伸ばせる会社を目標にして、海外に出て外国人と互角以上に活躍してほしいと願っています。

投資後のサポート

エンジェル投資家がベンチャーキャピタルと大きく違うのは、上場後も応援し続ける点です。投資先も十数社上場していますが、経営者が続いている限り、私も共に経営に携わるようにしています。そうすることで、投資先のトップ5、6社の経験を元に他社にアドバイスすることも可能です。

では、具体的にどのような支援をしていくのかをお伝えしましょう。

上場まで

証券会社に20年いましたし、嬉しいことに「私が応援している企業だから」と集まってくれる支援者が大勢いますので、上場に向けて必要な人脈(他のエンジェル、VC、CVC、監査法人、証券会社、事業会社、弁護士など)を紹介することが出来ます。

他にも、VCやCVCとの勉強会を開催したり、毎月開催の「fabbit Conference」に登壇する機会を作ってピッチの練習をさせたりといった投資先への指導も行います。経営危機に陥る原因として「人間関係の悪化」も多く、売上不振や人材の定着率低下等のサインが現れることがあるので見逃さないようにしています。

ネガティブな要素を隠したがる経営者もいますが、そのような兆候が見られた際には心を鬼にして「このままでは社長交代や倒産もあり得る」と注意を促すこともありますね。

上場後

売上を伸ばし、利益を出し、審査を通るように努力をしていけば、上場自体はそんなに難しくないと思います。むしろ、大変なのは上場後に成長していくことで、日本はまだまだそこが低迷しています。

日本株の6割以上は海外投資家によって売買されており、彼らに買いたいと思われないと株価を上げることは難しい。当たり前ですが、経営者のコミュニケーションやIR担当者の説明、レポートも英語で行えないといけませんし、カスタマーも投資家も海外だというグローバル企業になる必要があります。

私は売上と利益と株価は三位一体で連動していると考えていますので、当然、会社として結果を出し続けなければならないのですが、会社及び経営者自らがビジョンを発信し続けることも大切だと感じます。

自分が何をやっているかを見せることによって人や資金が集まるわけで、例えばアマゾンのジェフ・ベゾス氏やテスラのイーロン・マスク氏は物凄い発信力があるから赤字続きでも投資家がついてきますよね。日本からもそういう経営者が出てきていいと思います。

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今後のビション

現在、株式会社ビジョン、株式会社ベクトル、株式会社アイスタイル 、そして株式会社ジーニーの社外取締役も勤めています。4社の事業内容は違いますが、いずれもグローバル展開をしている成長企業であり、私に対しては、特にファイナンス面とグローバルな知見を期待されていると感じております。

世界的に見たらまだ小さいですが、彼らが1000億、5000億、1兆円以上の時価総額の企業になる未来を思い描いて今後も支援していきます。

また、海外は身近だと伝えていきたいとも考えており、キャロライン・ケネディ氏のインタビューも行いました。日本人がメジャーリーガーになるなんてあり得ないと思われていた時に野茂英雄選手が突破口を開いたように、スタートアップ界からも世界プレイヤーが出てくると期待しています。そうなれば、日本経済は活性化されて、必ず元気になると信じています。

 

那珂通雅(Michimasa Naka) Boardwalk Capital 株式会社 CEO
1987年3月 慶応義塾大学理工学部管理工学科卒業。
1989年3月 慶応義塾大学理工学研究科工学修士取得。
1989年4月 ソロモン・ブラザーズアジア証券に入社、外国債券営業部に所属。
1999年3月 日興ソロモン・スミスバーニー株式会社設立に伴い、債券本部ディレクターに就任。
2000年1月 マネジングディレクターに昇格し、外国債券グループを統括、トップセールスマンとして数々の記録を達成。
2004年12月 常務執行役員 債券本部共同本部長に就任。
2009年12月 シティグループ証券株式会社の取締役副社長に昇格。
2010年9月 シティグループ証券を退社。
2010年12月 ストームハーバー証券株式会社を設立し、代表取締役社長に就任する。
2011年3月 GLM株式会社 監査役に就任。
2012年10月 Financial Times社より、『Most Innovative Boutique House of the Year』を受賞。
2014年6月 あすかアセットマネジメント株式会社 取締役に就任。
2014年7月 株式会社 eWeLL にて取締役に就任。
2014年9月 株式会社 アイスタイル 、取締役に就任。-現任-
2014年11月 株式会社 ジーニー、 取締役に就任。-現任-
2014年12月 ストームハーバー証券株式会社、取締役会長に就任。
2015年3月 プリベント少額短期保険株式会社、 取締役に就任。-現任-
2016年7月 ボードウォーク・キャピタル株式会社を設立。代表取締役社長に就任。 -現任-
2017年6月 株式会社アクセルレーターを設立。代表取締役社長に就任。 -現任-
2019年3月 株式会社ビジョン、取締役に就任。-現任-
2020年5月 株式会社ベクトル、取締役に就任。-現任-

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