コロナ禍という特殊な社会情勢のなかで一兆円強という巨額予算が投入される「事業再構築補助金」。
極めて大きな反響を呼んだことは間違いないと思うが第一回公募における半数以上の事業者は残念な結果に終わった。
単に1枚の申請用紙で申し込んだものが不採択になったのであれば「運がなかった」と思えるかもしれないが、相当な調査や計画策定に加えて様々な申請書類を集めながらも成果を手にしなかった事業者にとっては、コロナ禍による「負担の上乗せ」という結果になったとの声も聞こえる。
採択事業者にも不採択事業者にも様々な実態、様々な成功例や失敗例がある。
そこで、(能力のばらつきが大きいと言われる認定支援機関のなかでも)事業者を強力にサポートする認定支援機関の周囲では何が起こっているのか?とともに、真に「勝ち組」となる事業者の行動を紹介することで多くの事業者の参考として頂きたい。
- 目次 -
事業再構築補助金とは
背景
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売り上げの回復が期待しづらい中、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために中小企業等の事業再構築を支援することで、日本経済の構造転換を促すことが重要であるとして令和3年から「事業再構築補助金」が開始された。
制度
「事業再構築補助金」を知るには、事業再構築補助金事務局ホームページ(https://jigyou-saikouchiku.go.jp/)をみればわかる。このなかで補助金申請におけるルールと言える「公募要領」があり、申請者は、これを一読する必要がある。
「公募要領」を読んだ方はわかるだろうが、初めて補助金を利用しようとする人にとって公募要領を正確に理解することは極めて難解と感じざるを得ない。
数千万円という、多くの中小企業にとって巨額と言える経済的な補助がなされることへの関心が持たれるものであるが、
- そもそも自社が補助金の対象者となっているのか?
- どのような場合に補助金を受けられるのか?
- いつまでに何をすればよいのか?
- 採択事業者と不採択事業者の違いは何か?
等について、公募要領を読んで、(沢山のルールがあることなどをある程度は解かっても)、明確に理解し、自信をもって補助金申請に取組めるという方は少ないだろう。
認定支援機関
「事業再構築補助金」は、制度上、国が認定した認定経営革新等支援機関(通称:認定支援機関)がサポートするものとされ、申請時においても「認定経営革新等支援機関による確認書」という書面を提出することとなる。
認定支援機関とは、税理士や弁護士や中小企業診断士という士業のほか、金融機関や商工会議所なども認定を受けて活動をしている。それぞれ能力や役割や特徴が異なることはわかるであろうが誰に相談すべきか?は迷うのでないだろうか。
積極的に有能な認定支援機関を探す事業者もいれば、身近な方への相談という場合も多いであろう。
ただし、この認定支援機関の選定は事業者にとって大きな運命の分かれ道となることも多い。
認定支援機関を見定めるのは難しいとは思うが、補助金に関する十分な知識を有していること、事業計画の策定を上手にサポートできる能力を有していること、事業者に対して誠実に向き合おうとしていること、などが重要な要素と言えるだろう。
改正点
2021年7月30日には事業再構築補助金の第3回公募要領が公表された。
事業者の使い勝手や行政側における事情等も考慮されて改定がなされているものであるが、公募要領は複雑さを増すこととなる。従業員数によって補助金上限が変わったり、売上高減少要件が緩和されたり、「最低賃金枠」や「大規模賃金引上枠」などの選択肢が設けられるなど、行政による予算執行の最適化に向けた改正であろうと思うものの、これまでに加えて検討すべき点が増えたというのが実態だ。
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事業者が考えるべき3つのこと
①自力でできることを考える
自社において事業再構築補助金の活用を検討するにあたり、周囲の方から話を聞いたりインターネットで様々な情報を収集したりする方が多いが、その後、実際に申請を決めるのであれば「公募要領」によって正確な情報を把握することが重要である。
そして、補助金が有効に使えるのか?などという点について、正確に理解をするために公募要領を読んだり事業再構築補助金事務局ホームページを隅々まで調べてみなければならないこととなるが、1度きりの補助金申請のための労力としては大きすぎるかもしれない。
②支援者を頼る
補助金申請をしたいと考えるのであれば早い段階から認定支援機関を頼り、事業者として何を考えれば良いか?などを知るよう努めるのも一手と言える。
有能な認定支援機関に出会えるとは限らないが、最も労力をかけるべきことは「事業計画の策定」であり、(事業者として最低限のルール等は認識しておく必要はあるものの)専門家からの協力を受けたほうが格段に作業効率はよい。
③補助金を最大限に利用する
早い段階で認定支援機関を頼る理由は他にもある。
補助金によって設備投資を行おうという発想は、事業者にとって自然と生じるものだが、意外と設備投資以外の補助金の活用にまで意識がいっていないことも多い。もしくは事業計画の策定にあたって認定支援機関からの助言によって実効性を高めるため補助金の活用にまで広がることも少なくない。
陥りやすい3つの失敗例
①単にお金がもらえると思う
ここ1年ほどで新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のために特別定額給付金や持続化給付金など、政府からの金銭的な支援策というものが一般に浸透したと言える。
このような流れによって事業再構築補助金への関心が高まる一因になったと思われるが、事業再構築補助金は手続きだけ行えば受給できるという簡単なものではない。
②自力でやる範囲を見誤る
事業再構築補助金というチャンスを活かしたいと熱心にネット検索や周囲の人から情報を収集する事業者も多い。これは当然に否定するものではないのだが採択への期待が空回りしたり、自社に有利な情報を得ておきたいという想いなどから情報収集に過大な時間がさかれているケースも散見される。情報収集や他者からの意見に振り回されることで認定支援機関からの助言等に時間が割かれなかったり、事業計画の検討が疎かになることで上手に進まなかったという実態もある。
完璧な方法というのはないものの、専門家たる認定支援機関からの協力を得ながら、何に時間を割くべきであるのか?を認定支援機関とともに検討していくことが重要と思われる。
③支援者の能力を見誤る
前述のとおり、補助金に関する十分な知識を有していたり、事業計画の策定を上手にサポートできる能力を有していたり、事業者に対して誠実に向き合おうとしている認定支援機関を見つけ出したりすることは難しいのかもしれない。しかしながら支援機関として補助金の知識が不十分であったり、事業計画策定の経験が不十分であるにも関わらず、業務効率性のみが過度に重視されるようなことは少なくない。
よって、事業者は自らによって認定支援機関の実績や経験、能力に対する評価を試みてほしい。
単に補助金の取り扱い件数や採択件数が多いことがベストとは限らない。しっかりと認定支援機関と会って話をして信頼のできるサポートを選定してほしいと思う。
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真に「勝ち組となる事業者」
不幸な事業者
事業再構築補助金の第1回公募の採択率は全体で30数%。半分以上の事業者は残念な結果となった。
次回の公募に再度申請することが認められていることから、採択可能性をすべて排除する必要はない。
しかしながら、補助金の調査に多大な労力をかけながら結果を伴わないという実態は少なくないし、適切な認定支援機関に出会えていないことから必要な対応が行われなかったり、無駄な時間や労力を費やすこととなるケースもあるのが実態といえる。
認定支援機関なら特別な情報を持っているとは限らないし、事業計画の専門性が高いところばかりではないと思う。事業者側としても支援の報酬等のみに目が行って、上記に対する選別眼を失っていることはないだろうか。
採択を勝ち取ることが最も重要
補助金の活用が有効であると経営判断できるのであれば、不正を除いてどのような手段によっても採択されることを目指すのは望ましいことだろう。しかしながら、事業者は補助金獲得のために存在している訳ではない。
一定時間の確保は必要であるものの認定支援機関などからのサポートを受けることが前提となっているので、合理的かつ計画的に採択を目指すことも重要だ。
真に“勝ち組”となる事業者
事業者の事情は様々なものであり一様なかたちを押し付けたいとは思わない。
とは言いながらも、より事業者としての可能性を切り拓くものとして参考にしてほしい。
有能な認定支援機関であれば、補助金の活用が初めてであったり事業計画を見たこともないという事業者に対しても、公募要領や申請手続きのポイントを的確に指導して、事業者以上に経営課題を明らかにし、経営戦略を見出すことで想像もしないような事業計画を策定したり、補助金の有効性を高めたりも出来うる。
すなわち、スムーズに補助金申請ができるだけでなく想定以上に補助金が得られたり、事業計画の策定を通じて事業の在り方すらも見直したりすることができる。さらには、このような認定支援機関との付き合いは事業再構築補助金だけにとどまらず、その後のコンサルティングや他の補助金の活用までをも提案されたり有効な資金調達や事業面においてもアドバイスを受けられたりする。
真に「勝ち組となる事業者」とは、自らがやるべきことはやるべきこととしてその役割を冷静に見極め、頼るべきところは認定支援機関を頼り、補助金活用やコンサルティングを通じて更なる事業の発展につながるようなサポートが受けられることかもしれない。
最後は能力と運
このような認定支援機関と出会うことは難しいとも言えるかもしれない。
しかし、企業経営と経営者の能力は切り離せないので、結局は経営者自身が有能な認定支援機関と出会う行動をとったり、選定を行う能力が必要となる。賢い判断を行うために、補助金の有効な活用と共に経営者の能力としてその行動力や選別力をより磨いて頂ければと思う。
十分に合理的な行動と判断をしたとしても結果が伴わないこともあるだろう。補助金の採択は申請者数や予算によって影響を受けるし、補助金審査員等によるバラツキは排除できないと思うからだ。
しかしながら事業再構築補助金に手が届きそうなのであれば、その「チャンス」があることを「幸運」として前向きに取組んで頂けたらと切に思う。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 阿部 重利
「中小企業のベストビジネスコーチ、最強経営顧問」 ヒューマネコンサルティング株式会社
年間約150本のセミナーや研修講師を務める阿部アドバイザー。FPとして書籍も出版されており、お金と人材のプロフェッショナルです。お金や人材でお困りの方、課題を持たれている方にはお勧めです。
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- 2021年8月23日 事業再構築補助金で採択される「勝ち組」事業者は、何をしているのか