原材料、燃料など、様々なモノで価格上昇が続いています。経済活動が活発となる中、コストアップは利益を圧迫します。
東京商工リサーチのレポート(2023/10/10)では、「年度上半期の物価高倒産が急増、前年同期比2.7倍の334件、コストアップの吸収が難しく」、という内容が報告されています。ゼロゼロ融資の返済開始や人件費が上昇する中、物価高が追い打ちをかけている状況があります。
私は「お金を味方につける専門家」として活動しているドリームゲート・アドバイザーの川居宗則です。銀行に32年勤務し、主に融資業務に従事、関わった案件は10,000件を超えます。2か店の支店長を経験して銀行の現場で感じたことを活かし、資金繰り対策などのご支援をしています。
そこで、本コラㇺでは、利益を確保するために利用できる値上げ支援策をお伝えし、中小企業や小規模事業者の資金繰り改善にお役に立てれば幸いです。
なお、情報は更新されることがあるので、最新情報は公式Webサイトなどで確認ください。
- 目次 -
物価高騰、値上げの状況
1. 消費者物価指数
(出典:総務省
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf)
このグラフは、総務省が公表している「2020年基準消費者物価指数」です。指数は、2020年を100として2023年8月では105.9と上がっています。年度ごとの上昇を見てみましょう。コロナ禍の2020年、2021年はほぼ横ばいです。その後、ウクライナ戦争や円安などの影響により、2022年から物価上昇が始まり、2023年に入ってもほぼ一貫して上昇が続いているのです。
総合指数の動き
2. 企業における値上げの状況
このように物価上昇が続いている中、企業はどのように対応しているのでしょうか。値上げ、いわゆる物価高影響を価格に反映する「価格転嫁」の状況を見てみましょう。
(出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2023年3月)フォローアップ調査の結果について」
https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230620002/20230620002-1.pdf)
この結果から、何らかの価格転嫁をしている企業が68.1%であるのに対して、全く価格転嫁できないもしくは減額という企業が23.5%あるという状況です。物価上昇が続く中、価格転嫁が進まないと、利益が確保できない、資金繰りが悪化するということが懸念されます。そのためには、上手く値上げをしていくことが大事です。
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値上げに利用できる4つの支援策
1.「パートナーシップ構築宣言」
(ポータルサイト:https://www.biz-partnership.jp/)
この制度は、企業規模の大小に関わらず、企業が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取組みです。企業は代表者の名前で、「サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携(企業間連携、IT 実装支援、専門人材マッチング、グリーン調達等)」等に重点的に取組むことを宣言します。
(出典:日本商工会議所)
上記のように、発注者・受注者がパートナーとして、規模や系列を超えて取引対価の見直しをすることで、お互いWin-Winの関係を目指します。
この宣言をした企業はポータルサイト上に公表され、望ましい取引慣行をしている企業としてイメージアップが図れます。すでに3万社を超える企業が宣言をしています。
また、宣言企業は名刺にパートナーシップ構築宣言のロゴマークを使えることや、一部の補助金で加点処置を受けられるメリットがあります。
2.「価格交渉促進月間」
(適正取引支援サイト:https://tekitorisupport.go.jp/topics/gekkan/)
政府では、下請取引の適正化に向け、価格交渉が頻繁に行われる9月と3月を「価格交渉強化月間」と定め、発注側企業と受注側企業の価格交渉及び価格転嫁を促進しています。つまり、大手に比べて立場が弱い中小企業・小規模事業者の値上げを後押しする強化月間と位置付けているのです。そして、値上げを進めて適正な利益を確保することで賃上げにつなげていくことを目指しています。
(出典:経済産業省価格転嫁交渉月間ポスター)
2023年3月の調査では、価格交渉を行った企業は63.4%であり、2022年9月の58.4%から5ポイント上昇しています。
3.「下請取引適正化推進月間」
(公正取引委員会:
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/jun/230607.html)
公正取引委員会および経済産業省は、下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます)に違反する行為に対して迅速かつ効果的に対処するとともに、下請法の普及啓発を行っています。特に毎年11月を「下請取引適正化推進月間」とし、下請法の普及・啓発事業を集中的に実施しています。
昨年度の取組みでは、経済産業大臣から関係事業者団体向けに「下請取引の適正化」に文書を発出しています。11月は年末を迎える時期であり、「年末にかけて資金需要が高まる中、下請事業者の資金繰り等は一層厳しさを増すことが懸念され、親事業者が下請代金を早期にかつ可能な限り現金で支払い、下請事業者の資金繰りに支障を来さないようにすることが必要です」という要望をしています。
下請法では、親事業者には以下の11項目の禁止事項が課せられています。たとえ下請事業者の了解を得ていても,また,親事業者に違法性の意識がなくても,これらの規定に触れるときには,下請法に違反の可能性があります。
このように、立場の弱い下請事業者を守る法律があり、年末を控えた11月には、下請法を遵守して適正な取引ができるように推進強化をしています。
4. 価格転嫁サポート窓口
(経済産業省:
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230710003/20230710003.html)
中小企業庁では、中小企業などが、原材料費やエネルギー価格、労務費などの上昇分を、発注側企業に適切に価格転嫁するための支援体制を強化すべく、全国47都道府県に設置している経営課題に対応するワンストップ相談窓口である「よろず支援拠点」に「価格転嫁サポート窓口」を2023年7月に新設しました。
価格転嫁サポート窓口では、価格交渉に関する基礎的な知識や原価計算の手法の習得支援を通じて、下請中小企業の価格交渉・価格転嫁を後押しします。
また、商工会・商工会議所等においても、「価格交渉ハンドブック」の活用等により、中小企業の価格転嫁を支援する全国的なサポート体制を整備しています。
価格支援ハンドブック(初級編)
(経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2023/07/20230710003/20230710003-1.pdf)
値上げによる価格転嫁の具体的事例
1.「パートナーシップ構築宣言」を活用して値上げに成功
A社は業歴50年の電子機器製造業者です。大手電機メーカーのOEM製品製造が多く、下請け企業の立場であり、値上げ交渉に苦労していました。
そこで、A社では、自らが「パートナーシップ構築宣言」をして、仕入先からの価格交渉に真摯に応じる姿勢を対外公表しました。名刺にも「パートナーシップ構築宣言」のロゴマークを入れて、今度は販売先への値上げ交渉を粘り強く行ないました。共存共栄の立場を理解してくれた販売先について、徐々にA社の値上げ要望が通るようになってきました。
名刺に入れられる「パートナーシップ構築宣言」ロゴマーク
(出典:パートナー構築宣言ポータルサイト
https://www.biz-partnership.jp/)
2. コスト高を価格転嫁して賃上げを実現した事例
(出典:東海テレビ
https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20230315_26000)
N社は、アルミ製品の製作・加工を行う、従業員約100人の企業です。2023年に20年ぶりにベースアップを伴う賃上げに踏み切りました。賃上げは、人手不足の中、人材確保のためには不可欠でした。その原資を生み出したのが、2022年春からいち早く取り組んだ価格転嫁です。
代表者は、「『攻めの値上げ』みたいな表現をしたことがあります。(値上げで)受注できなくても仕方がないという気持ちでやっている。その代わり、うちの持ち味の仕事をきっちりやらせていただこうと」というコメントをしています。賃上げの決定に、従業員からは安堵の声が聞かれました。
本ケースで、値上げに成功した背景は2つあります。一つ目は、『攻めの値上げ』の言葉の通り、受注が多少下がることを恐れずに粘り強く値上げ交渉をしたこと。値上げをしなければ、利益率の大幅悪化を招きかねません。多少の受注減を覚悟してでも値上げを交渉していくことが利益確保にためには重要です。二つ目は、製品の品質にこだわり、価格よりも価値を取引先に認めてもらう努力をしていることです。N社のホームページを見ると、「選ばれる理由」の記載があり、取引先からなぜ選ばれるのか、選ばれるためにどのような効能を目指しているかを丁寧に説明しています。価格を値上げしても、N社の製品の価値から得られる満足度が勝っていると言えます。
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さいごに
物価上昇が続く中、なかなか値上げができないというような声を聞きます。一方で人手不足で賃上げを求められている厳しい環境があります。ここ2~3年で創業された事業者の中には、急な価格上昇の中で、顧客開拓とともに値上げも考えなくてはいけない課題を抱えている方もいらっしゃると思います。
価格交渉において、できる限り取引先とのWin-Winの関係を保ちつつ、交渉が進むことが望ましいです。ただし、交渉事なのでケースバイケースであり、お一人で悩むことがあるかもしれません。第三者のアドバイスがほしいときもあると思います。私は、これまで価格交渉を含めた資金繰り対策のご相談に応じてきました。「個別の相談をしたい」「もう少し詳しく聞きたい」などのご要望がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料です。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 川居 宗則
(かわい むねのり) /経営デザインコンサルティングオフィス
長年金融機関に勤務し、融資課長、支店長を経験し、融資実行は5,000社以上という実績を持つ川居アドバイザー。融資以外にも、補助金・助成金なども相談できます。資金調達の力強いパートナーになる方です。
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