2024年以降の雇用保険法改正ポイントまとめ

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

改正雇用保険法が、2024年10月1日から順次、施行されます。

教育訓練関連が強化されるほか、2028年10月には雇用保険の適用が拡大される予定です。

政府は今回の改正によって、リ・スキリングの推進や男性の育休取得促進、多様な働き方の支援などを目指しています。

当記事では雇用保険制度の何が、いつ、どのように変わるのか解説します。

雇用保険がどのような制度であるかについても記事の後段で紹介しているため、参考としてください。

改正の概要

雇用保険法の改正によって変更される項目は多岐にわたります。そのため、まずは概要を説明してから、各項目を解説していきます。

■今回の雇用保険法の改正内容と施行する日

施行する日 改正内容
2024年5月17日(施行済)
  • 育児休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の廃止
  • 介護休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の2026年度末までの継続
2024年10月1日
  • 教育訓練給付金の給付率の引き上げ
2025年4月1日
  • 自己都合退職者が教育訓練などを自ら受けた場合の給付制限解除
  • 就業促進手当の見直し
  • 育児休業給付の保険料率の弾力的な運用
  • 教育訓練支援給付金の給付率引き下げと、暫定措置の2026年度末までの継続
  • 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例と地域延長給付の暫定措置の2026年度末までの継続
2025年10月1日
  • 教育訓練休暇給付金の創設
2028年10月1日
  • 雇用保険の適用拡大

参考) 雇用保険法等の一部を改正する法律等の概要

表中の○がついた10項目は、次の4つのグループにわけることができます。

1:雇用保険の適用拡大

  • 雇用保険の適用拡大

2:教育訓練やリ・スキリング支援の充実

  • 自己都合退職者が教育訓練などを自ら受けた場合の給付制限の解除
  • 教育訓練給付金の給付率の引き上げ
  • 教育訓練休暇給付金の創設

3:育児休業給付に関するもの

  • 育児休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の廃止
  • 育児休業給付の保険料率の弾力的な運用

4:そのほかの見直し

  • 教育訓練支援給付金の給付率引き下げと、この暫定措置の2026年度末までの継続
  • 介護休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の2026年度末までの継続
  • 就業促進手当の見直し
  • 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例と地域延長給付の暫定措置の2026年度末までの継続

以下、4つのグループごとに改正の内容の詳細を紹介していきます。

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1:雇用保険の適用拡大

雇用保険の被保険者の要件には、1週間の所定労働時間「20時間以上」というものがあります。この要件が今回の改正により、「10時間以上」に変更されます。2028年10月1日からは、より短時間で働いている人も雇用保険の対象となり、適用対象が拡大される予定です。

参考1)厚生労働省雇用保険の被保険者について

参考2)厚生労働省求職者支援制度のご案内

なお、現行の被保険者要件は次のとおりです。

■現行の雇用保険における被保険者要件(改正前)

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上の雇用見込みがある
  • 常用、パート、アルバイト、派遣などの名称や雇用形態に関わらない

政府が雇用保険の適用を拡大するのは、雇用のセーフティネットを拡充するためです。この適用拡大によって雇用保険の被保険者になった労働者に対しても、失業等給付や教育訓練給付、育児休業給付などに関しては、現行の被保険者と同じ保険給付が支給されます。

さらにこの適用拡大によって雇用保険の被保険者となっても、求職者支援制度の支援対象から除外されません。求職者支援制度は、再就職、転職、スキルアップを支援するものです。月10万円の給付金や無料の職業訓練、就職サポートを受けることができます。

2:教育訓練やリ・スキリング支援の充実

教育訓練やリ・スキリング支援の充実では、次の改正がおこなわれます。

  • 自己都合退職者が教育訓練などを自ら受けた場合の給付制限の解除
  • 教育訓練給付金の給付率の引き上げ
  • 教育訓練休暇給付金の創設

ひとつずつ確認していきます。

自己都合退職者の給付制限の解除

現行法では、自己都合退職者が失業等給付(基本手当)を受けるには、待機満了の翌日から原則2カ月間の給付制限期間を経過する必要があります。改正後は、離職期間中や離職日前1年以内に教育訓練をおこなった場合であれば、給付制限が解除されます。さらに原則の給付制限期間も、現在の2カ月から1カ月に短縮することが決まりました。

これらは労働者が安心して再就職活動をおこなえるようにするための施策です。

教育訓練給付金の給付率の引き上げ

教育訓練給付金は、労働者が厚生労働大臣指定の能力開発やキャリア形成を支援する教育訓練を修了したときに支給される給付金です。

現行の教育訓練給付金は、専門実践教育訓練の場合であれば受講費用の最大70%、特定一般教育訓練の場合は受講費用の最大40%の給付率となっています。この給付率が、改正によってそれぞれ10%アップします。

改正後における専門実践教育訓練の教育訓練給付金は、本体給付が50%、資格取得の追加給付が20%、そして賃金が上昇するとさらに追加給付として10%となり、計80%が支給されます。賃金上昇による追加給付は、改正による新設です。

特定一般教育訓練は、改正後は、本体給付が40%、資格取得の追加給付が10%となり、計50%になります。資格取得による追加給付の新設が予定されています。

専門実践教育訓練には、看護師や介護福祉士の資格取得や、データサイエンティスト養成コース、専門職大学院などがあります。

特定一般教育訓練は、大型自動車第1種免許や、介護職員初任者研修などが対象です。

教育訓練休暇給付金の創設

改正によって創設される教育訓練休暇給付金は、雇用保険の被保険者が教育訓練を受けるために休暇を取得し、その間無給となったとき、賃金の一部を支給する制度です。

教育訓練休暇給付金の額は、離職したときに支給される基本手当(失業等給付)と同じ額となります。

教育訓練休暇給付金創設の理由は、これまで教育訓練を受けるために仕事を離れた際の生活費を支援するしくみがなかったからです。同給付金の創設により、労働者は生活費への不安を感じることなく教育訓練に専念できるようになるでしょう。

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3:育児休業給付に関するもの

育児休業給付に関する改正は、以下のとおりです。

  • 育児休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の廃止
  • 育児休業給付の保険料率の弾力的な運用

この措置は、育児休業給付の支給額が年々増加しているため、財政基盤を強化する目的でおこなわれます。

育児休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の廃止

現行の育児休業給付の国庫負担割合は、本来のルールは8分の1ですが、暫定措置として80分の1とされています。しかし、今回の改正により暫定措置が廃止され、負担割合が8分の1となる予定です。

少し複雑な言い回しになっているため説明します。現行法では暫定措置によって、国庫負担を引き下げています。そのため、暫定措置が廃止されれば、事実上、国庫負担が引き上げられます。

政府はこの負担割合の引き上げにより、男性の育休取得増加に対応しようとしています。

育児休業給付の保険料率の弾力的な運用

育児休業給付の保険料率は、現在0.4%となっています。改正でこれを0.5%に上げたり、0.4%に戻したりすることが可能となります。

保険料率を0.4%から0.5%に引き上げることで、財政を改善させる効果が得られます。ただ、これでは財政は改善できても、保険料を支払っている企業や労働者などの負担が大きくなってしまいます。そのため、財政の収入が改善したら0.4%に戻すことができるようにしました。このようなしくみにすることで、育児休業給付制度を弾力的に運用できるようになります。

なお政府は、男性の育休取得率の目標を、2025年は「公務員85%(1週間以上の取得率)、民間50%」、2030年は「公務員85%(2週間以上の取得率)、民間85%」に設定しています。

4:そのほかの見直し

今回の改正では次の見直しもおこなわれます。

  • 教育訓練支援給付金の給付率引き下げと、暫定措置の2026年度末までの継続
  • 介護休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の2026年度末までの継続
  • 就業促進手当の見直し
  • 雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の2026年度末までの継続

教育訓練支援給付金の給付率引き下げと、暫定措置の継続

現行の教育訓練支援給付金は以下のようになっています。

■現行の教育訓練支援給付金の内容

はじめて専門実践教育訓練を受講し、修了する見込みのある45歳未満の離職者に対して、訓練期間中に基本手当(失業等給付)額の80%を支給する

改正後は、現行の80%が60%に引き下げられます。

この制度じたいは、2024年度末までの暫定措置とされていました。しかし、改正によって2年延長され2026年度末まで継続します。

先ほど「2:教育訓練やリ・スキリング支援の充実」の章で紹介した「教育訓練給付金」の給付率は引き上げますが、この「教育訓練支援給付金」の給付率は引き下げられるわけです。

介護休業給付に係る国庫負担引き下げの暫定措置の2026年度末までの継続

現行法上、介護休業給付の国庫負担割合は、本来の8分の1ではなく暫定措置として80分の1が適用されています。この暫定措置は2024年度末までとされていましたが、改正により2年間延長して2026年度末までとなりました。

就業促進手当の見直し

現在、就業促進手当には、就業手当、就業促進定着手当、再就職手当などがありますが、今回の改正で就業手当と就業促進定着手当の内容が変わります。なお、再就職手当は変更されません。

改正により就業手当が廃止されます。

就業手当とは、基本手当の受給資格者が、所定給付日数の3分の1以上、かつ45日以上を残して就業したときに支給される手当ですが、改正によりこれがなくなるわけです。

改正により、就業促進定着手当の給付上限が引き下げられます。

就業促進定着手当は、以下の要件を満たす場合に支給される手当です。

  • 1)基本手当の受給者が早期に再就職
  • 2)再就職してから6カ月間定着
  • 3)離職前より賃金が低下

現行の就業促進定着手当の給付率は、基本手当支給残日数の40%相当額が上限でしたが、改正によって上限が20%に引き下げられます。

政府はこの就業促進手当の見直しについて、支給実績や人手不足状況を踏まえたものと説明しています。

雇止めによる離職者の特例と地域延長給付の暫定措置の継続

現行法では、雇止めによる離職者の基本手当(失業等給付)の給付日数は、通常の90~150日ではなく、特例として90~330日になっています。90~330日は、倒産と解雇による離職者のケースと同じです。

本来この特例は、2024年末までを予定していましたが、改正によって、2026年度末まで2年間延長されることになりました。

地域延長給付は2024年度末までの暫定措置として、雇用機会が不足している地域に対して給付日数の延長をおこなっています。しかし、改正後は雇止めの特例同様に2026年度末まで暫定措置が2年間延長されます。

【基礎知識編】そもそも雇用保険とは

ここからは、そもそも雇用保険とはどのような制度なのか紹介します。本章で紹介する内容や数値は現行のものになります。

雇用保険法第1条はこの制度の目的を次のように説明しています。

■雇用保険制度の目的

  • 労働者が失業した場合に必要な給付をおこなう
  • 労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付をおこなう
  • 労働者が子を養育するための休業をした場合に必要な給付をおこなう
  • 労働者の生活と雇用の安定を図る
  • 労働者の求職活動を容易にする、就職を促進する
  • 失業の予防を図る
  • 雇用状態の是正を図る
  • 雇用機会の増大を図る
  • 労働者の能力の開発と向上を図る
  • 労働者の福祉の増進を図る

参考) 雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)

ここから雇用保険が、労働者をさまざまな角度から守っていく制度であることがわかります。また、雇用保険と労災保険を合わせて労働保険と呼びます。

「失業等給付」「育児休業給付」「2事業」の3つからなる

雇用保険制度は、1)失業等給付、2)育児休業給付、3)雇用保険2事業の3つの柱で構成されています。この3つの柱のもとでさまざまな施策がおこなわれているわけです。

失業等給付は4種類

雇用保険制度の施策はどれも重要です。ここでは雇用保険の基本ともいえる失業等給付について紹介します。なお、ここでいう「給付」とは、対象となる被保険者に手当や給付金などを支給することです。

失業等給付には次の4種類があります。

■4種類の失業等給付

  • 求職者給付(基本手当など)
  • 就職促進給付(就業手当、再就職手当、就業促進定着手当など)
  • 教育訓練給付(教育訓練給付金)
  • 雇用継続給付(高齢者雇用継続基本給付金、介護休業給付金など)

参考)第 13 章失業等給付について

求職者給付では、被保険者(雇用保険に加入している労働者)が離職して、労働の意思と能力があるにもかかわらず仕事に就けないときに基本手当を給付します。

求職者給付には基本手当のほかに、公共職業訓練を受講しているときに給付される技能習得手当や、傷病で働けないときに給付される傷病手当などがあります。

就職促進給付には、早期に就職したときに給付される就業手当や再就職手当、就業促進定着手当があります。また、労働者が広い地域で求職活動をする場合、広域求職活動費が給付されることもあります。

教育訓練給付には、有料の教育訓練を受けたときにその受講料が給付される教育訓練給付金があります。

雇用継続給付には、高年齢の労働者を対象にした給付金や介護休業に関する給付金があります。

保険料は誰が負担するのか

雇用保険は社会保険制度のひとつであるため、給付のための財源は、制度に加入している人が支払う保険料になります。保険料を支払うのは、企業などの事業主と労働者です。雇用保険の給付を受けるのは労働者ですが、事業主も保険料を負担しています。

保険料の額は労働者の賃金をベースにして決めます。たとえば失業等給付の保険料率は、賃金の1,000分の8であり、これを事業主と労働者で折半します。つまり、労働者が負担する失業等給付の保険料は自分の賃金の1,000分の4であり、残りの1,000分の4は事業主が支払います。

育児休業給付の保険料率は1,000分の4であり、失業等給付同様に事業主と労働者で保険料を折半します。なお、雇用保険2事業分は事業主だけが負担しており、その保険料率は1,000分の3.5です。

また、雇用保険制度は保険料だけでは運営できないため国庫からも支出されています。

参考) 雇用保険制度の概要

雇用保険の相談はドリームゲートへ

雇用保険にはさまざま施策があり、とても複雑な制度です。改正も多い分野であり、複雑さは増すばかりです。

しかし、雇用保険制度は働く人を守るしくみであり、企業の経営者や総務担当者は正確に制度を知っておく必要があります。

そのとき頼りになるのが、ドリームゲートに在籍している労務関係の専門家です。初回のメール相談は無料なため、雇用保険に関する疑問についてお気軽にお問い合せください。

執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局

ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
運営:株式会社プロジェクトニッポン
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gd2md-html: xyzzy Thu Aug 01 2024

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