2020年4月に、意匠法が改正されます。
今回の改正は130年ぶりの大改正といわれており、今までより範囲をひろげて「建築物や内装」でも意匠権を取得できるようになりました。
しかし以前はこれが認められず、有名なコメダ珈琲店の事件では不正競争防止法違反が争われました。
コメダ珈琲店の事件を例にこれまでの侵害対処の限界を紐解くとともに、今回の改正で対象となった「建築物や内装のデザイン」を侵害してしまうとどのような危険があるのか、自社オリジナルのデザインを守るためにはどうするといいのか、ポイントを解説します。
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コメダ珈琲店の事件にみる侵害対処の限界
建築物に関係して知的財産の争いで注目を浴びた事件は、コメダ珈琲店の事件ではないでしょうか。
この事件では、コメダ珈琲店の外観や内装を模倣した珈琲店(被告)に対する侵害が争われた事件です。裁判所は、被告の行為が、不正競争防止法における不正競争行為であると認定し、コメダ珈琲店の主張を認めました。<東京地裁平成28年12月19日決定【平成27年(ヨ)第22042号】>
不正競争防止法は、BtoBにおける競業秩序を乱す行為を規制する法律で、店舗の外観等の商品等表示の侵害として認められるためには、その商品等表示が消費者等に周知か著名であることが求められます。他者の商売上の名声にただ乗りするような行為は認めない、というのが法律の趣旨です。
そこに不正競争防止法の限界があるのです。端的に言うと、周知や著名でないと保護されない、ということなのです。
これに対して、特許権や意匠権や商標権の場合、周知著名であることが侵害の要件ではなく、さらに、模倣したかどうかも原則関係なく、何しろ同じ内容を実施・使用したら侵害が推定されるのです。ところが、意匠法では、今まで、建築物や内装といった不動産は、保護対象ではありませんでしたので、そもそもコメダ珈琲店は意匠権を持つことができなかったのです。
その上、建設業者や店舗を経営している者からすれば、「この建物のデザインは、我が社だけのオリジナルです!」と正々堂々とアピールできたかというと、公的なお墨付きがない以上、むやみやたらに、このような宣伝はできなかった訳です。
意匠法による建築物や内装の保護
今回の意匠法改正では、「建築物」や「内装」といった不動産が意匠登録の対象になり、保護範囲が一気に拡大することになるのです(2020年4月1日施行)。これにより、意匠登録されれば、「この建物のデザインは、我が社だけのオリジナルです!」と正々堂々とアピールでき、自社のブランドの確立が進むことが期待されています。
ここで、意匠法における「建築物」とは、人工構造物である不動産で、住宅、校舎、体育館、オフィス、ホテル、百貨店、病院、博物館等だけではなく、橋梁やコンクリート打設の道路の法面等も含みます。
また、意匠法における「内装」とは、建築物の内側の面という定義ではなく、店舗、事務所その他の施設の内部の設備および装飾を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠で、内装全体として統一的な美感を起こさせるもの、とされています。
では、特許庁による意匠登録出願の審査では、何を審査されるのでしょうか?
実は、美的かどうかや独創性自体が審査されるのではなく、従来の形態と似ていないか否か、創作自体が容易に行えないものかどうか、といった点が審査され、ダメな理由がなければOKという仕組みです。この結果として、意匠の審査は、思った以上に敷居が低いと一般的には言われています。
建築物や内装の意匠権を侵害してしまうと
従来のケースでもそうですが、他人の意匠権を侵害しているような場合、いきなり権利者から警告書が内容証明郵便で届いてビックリする、というのが一般的です。警告書が届いてはじめて、意匠制度を知り、他人の意匠権の存在を知り、侵害しているかもしれないということを知ることになります。
もちろん、警告書が届いたからといって、かならず侵害しているとは限りません。意匠権の場合、弁護士からなのに、お門違いの警告書が届くことも、しばしばあります。
特に、意匠法では、他人の意匠権の存在を知っていた場合に限らず、知らなかった場合やマネする意図が無くても責任追求されるのが原則です。
とはいえ、本当に侵害している場合には、最悪、損害賠償の支払いを求められ(過去の実施行為への償い)、また将来にわたって実施しないこと(差止請求)を求められます。
差止としては、侵害した建築物の使用の中止どころか、取り壊し(侵害物の除去)まで求められる可能性があります(意匠法第37条2項)。こうなると大変なことです。
では、だれが損害賠償等をする必要があり、だれが責任を問われるのでしょうか?
意匠法における意匠権の実施の行為は、「建築」「使用」「譲渡若しくは貸渡しの申出等」とされていることから、建設業者、住んでいる人、大家さんあたりが、責任を問われることになりそうです。
問題なのは、本当にだれが悪いのか、ということで、内輪もめが始まりそうです。それに対処するには、あらかじめ、侵害を予防する措置を講じつつ、侵害してしまった場合の取り決めを、契約書で定めておくしかないように思います。
意匠権だけが武器ではない
そもそも、建築物の外観意匠は、建築家の方々の想いの詰まった創作物ですので、従来から著作権で守られてはいます。
実際、著作権法の中で、著作物の例示として、「建築の著作物」や「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」として、建築および図面が示されています。
特に、著作権として守られる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とされ、著作権法では、設計者や建築者の想いの表現を守ろうとしているわけです。
ただし、著作権の侵害は、原則的には模倣が伴う必要があり、その立証が難しいのが現実ではあります。
それから、コメダ珈琲店事件でも挙げましたが、不正競争防止法による保護もあります。
このように、今回の意匠法改正によらなくても、実はすでに、建築物の外観等は、他の法律で守られていたのです。
特許庁に対して意匠登録出願はしているものの、審査待ちの状態で意匠権が発生していない等の状況では、著作権や不正競争防止法を用いて、他者を排除するという方法もあるわけです。
対策や対応方法
まずもって、自身の建築物等の形態が、独自に創作したもので、他にないということであれば、意匠登録出願を特許庁に行うことを、強くお勧めします。
意匠権として登録されれば、「このデザインは我が社だけです!(意匠登録済)」といった表現で、自信をもって宣伝広告ができるようになります。
意匠の審査では、新規性が重要ですので(すでに世の中に公開されたデザインは、原則、保護対象ではありません)、デザインが決まったら、他の人にそのフォルムを明らかにする前に、何しろ出願してください。建築物が完成している必要はなく、アイデアだけで(且つ図面だけで)審査はしてくれます。
とはいえ、お施主さん側から提案されたデザインのような場合、そのお施主さんのアイデアか否かにかかわらず、建築会社が勝手に意匠登録出願をする訳にはいきませんから、他人の意匠権を侵害するリスクについて、重要事項の1つとして、お施主さんに説明しておくことが重要になります。
もちろん、事前に、すでに意匠登録されたデザインか否かの調査を行うことは可能で、調査は、意匠制度に精通した弁理士にご依頼ください。
実施に侵害警告を受けてしまった場合は、とにかく、弁理士にご相談ください。
一見すると他人の意匠権を侵害してしまっている場合でも、実は、その意匠権自体が無効である場合等もありますので、まずは冷静に専門家に相談し、対策を検討していくことが重要です。
業者間でもトラブルが起きかねない状況になる場合もありますので、建築関係の方々は、意匠制度を理解し、互いに情報交換されることをお勧めします。
もちろん、最大のポイントは、今回の意匠法改正を契機に、建築物の独自の創作により、ブランド化を進めていただき、より一層、受注を増やしていただくことです。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 加藤 道幸(弁理士、行政書士)
芦田・木村国際特許事務所
法務・知財・特許を専門とし、多くの起業家やベンチャー、中小企業の知的財産に係るお手伝いをしてきている加藤アドバイザー。また全国でも珍しい行政書士資格を持つ弁理士です。
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