小規模事業者や飲食店のようなオーナー経営者にとって、数値を用いた経営管理である「計数管理」はとても重要です。しかし、改めて計数管理といわれると難しくて素人には手に負えないという印象を持ちがちです。
ただ、計数管理を知っておかないと、お店を開店してから経営に苦しむことになりかねません。順調な店舗経営をおこなうために、計数管理について解説していきます。
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計数管理とは?
計数管理とは冒頭でも述べたように、通常、飲食店経営などの小規模事業者や個人経営者が、数値を用いた経営管理を行うことです。やや専門的には「財務 (ファイナンス)・会計(アカウティング)」などとも呼ばれています。では、飲食店経営における計数管理の目的や必要性、そして内容などから見ていきます。
計数管理の目的
会社をはじめ飲食店などの事業所は、通常、事業年度という1年を単位として経営を行っています。そして、その事業年度における経営成績を「損益計算書」、事業年度末日における財政状態を「貸借対照表」として記録・開示します。また、この期間における現金などの流れと、残高を「キャッシュフロー計算書」として開示します。これらが、財務諸表といわれるものです。
計数管理の目的は、まず、これらの財務データから店舗の現状について明らかにする目的があります。
次に、オーナー経営者が財務データから、店舗が抱える経営課題を把握し、対応策を考えることも目的のひとつです。
計数管理の必要性
上場企業のような大企業では、その所有者・経営者である株主は、直接経営には関与せず、代表取締役や取締役などの機関に経営を委任します。しかし、飲食店などの個人事業の場合、オーナー経営者が直接経営の指揮をとります。経営には、「ヒト」、「カネ」、「モノ」、「情報」といった資源が必要ですが、最初に必要なのは「カネ」です。そしてこれを管理するのが、計数管理です。
ところが、多くの中小企業経営者や個人事業主は、税理士、公認会計士などのような財務、税務、会計等の専門職ではないため、この計数管理という「カネ」に関する管理が不得手なことが多く、いわゆる「どんぶり勘定」の経営に陥りがちです。こうしたどんぶり勘定により経営が行き詰まることがないようにするためにも、計数管理についての最低限の知識や能力を身につける必要があります。
計数管理の内容
計数管理のうち、会計については大きく「財務会計」と「管理会計」に2つに分けられます。
財務会計は、先にも述べましたが、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を使って、店舗の経営成績や財政状態状について明らかにする目的があります。一方、管理会計は、財務諸表をベースに経営者が経営上の課題を発見し、効果的な対応策を考える際のより所となるものです。
これに対し、財務とは、経営者が新たな事業を展開したり、多角化する際の投資の適格性を判断したり、投資の際、複数の資金調達案の中から最善のものを決める指針となったり、剰余金の配当を決める際の判断基準になるものです。そのほかにも、企業が株式、債券、デリバティブといった金融商品などへの投資(いわゆる財テク)を行う際の意思決定の判断基準ともなります。そのため、財務諸表の作成とは異なった数値や計算式の知識、ノウハウが要求されるものです。
通常、中小企業経営者や飲食店オーナーにとって必要な係数管理は、財務・会計のうち会計の範囲の知識と最低限の計算能力があれば、とりあえず経営上大きな問題はないでしょう。
具体的な計数管理の方法
前項で計数管理について解説しましたが、飲食店においては、お店の売り上げ、原価、そして利益を管理することです。計数管理をすることで、売り上げを上げて原価を抑え、結果としてより多くの利益を出すことが目的となります。
今日のような飲食デフレの時代には、売り上げアップはなかなか難しため、原価をどれだけ抑えられるか、そして少しでも利益を出せるかが経営者として頭を悩ませるところです。それだけに、原価管理は計数管理の中でも重要なポイントです。この原価には毎月必ずかかる固定費と、売り上げや物価変動など状況により変わってくる変動費があります。
主な固定費と変動費は、下記のように分けられます。
- 固定費…家賃、保険料、減価償却費など
- 変動費…原材料費、光熱費、人件費など
固定費はほぼ変わることがありませんから、変動費を管理して利益を出すことが計数管理の肝といえます。利益をアップさせるためには、特に変動費のうち大きなウエイトを占める原材料費と人件費を抑えることが必須となります。
計数管理の必要性の中でも触れましたが、飲食店オーナーなどは計数管理が苦手で、「どんぶり勘定」でお店を切り盛りしてしまいがちです。どんぶり勘定で経営していると、たとえば8月は利益が出たけれど、9月はマイナスになってしまったなど、安定してお店を経営していくことができなくなってしまいます。
そうすると、オーナーの生活は不安定になり、金融機関などからの信用も得にくく、いざ設備投資をしようと思った時に借り入れができないなどということにもなりかねません。借り入れができないならまだしも、いわゆる街金、ヤミ金に借りることになると、ますます経営状況が悪化し最悪の場合廃業に追い込まれ、高額な借入金と支払い金利だけが残ることになってしまいます。
せっかく飲食店を新規創業したのなら、長くお店を維持しそして発展させたいものです。そこで、開店前から計数管理のポイントを押さえて、お客様に愛される店作り心がける必要があります。
計数管理のポイント
計数管理のポイントの1つである変動費の管理について、私がかつて経営していたフランチャイズの天丼屋を例に解説したいと思います。
私の経営していた天丼屋の場合、変動費の1つである原材料費は30%以下に抑えることが利益を出すための条件でした。ここからさらに、もう1つの大きな変動費である人件費はどれくらいに抑えるべきなのか、1ヵ月の損益を例に計算してみます。
⚫︎単価650円⚫︎営業時間15時間(仕込み時間等約5時間含む)
⚫︎平日は来客数100人で21日営業、土・休日は来客数130人で9日営業
(650×100×21)+(650×130×9)=2,125,500
1ヵ月の総売り上げが2,125,500円の場合、ここから原材料費30%を控除すると
2,125,500−637,650(原材料費)=1,487,850
つまり、人件費を含めた売り上げ総利益が1,487,850円になります。
ここから10%の営業利益を残したい場合、売り上げ総利益から営業利益を差し引いた1,339,065円から人件費を管理することになります。
たとえば、オーナーとアルバイト2人を雇用した場合、人件費はこの範囲でまかなうということになります。オーナーの給料を300,000円に設定すると、1,039,065円の範囲から実際のアルバイトの人件費が支出されることになります。借り入れ返済額等の固定費や広告宣伝費等の他の変動費を控除した残額から、時給を1000円(最低)とし一ヶ月あたり何時間までアルバイトを使用できるかといった計算をします。
平日のランチタイムやディナータイムなど人が集中する時間帯には、アルバイトを入れ、それ以外の暇な時間にはオーナーが1人で切り盛りする、土・日にアルバイトの時間を多くするなど「人時売上高」、「人時生産性」といった指標による人件費の管理をします。
こうすることで、お客さんがいないのにアルバイトはいるというオーナーのイライラやモヤモヤも解消されます。また、お水やおしぼりのサービスなども1ヵ所に水とコップを置いてセルフサービスにしたり、従業員の動線を管理するだけでも人件費削減につながります。
売り上げアップとオーナーのストレス解消のためにも、こうした地道な人件費の管理は計数管理をする上で不可欠です。
また、もうひとつの大きな変動費である原材料費の管理にも注意が必要です。ここでは計数管理と共に在庫管理も重要になります。まず、最初に考えたいのは食品ロスをなくすため必要以上の在庫を抱えないことです。これは現在、食材廃棄といった社会問題にもなっていますので一企業、店舗としても、必ず考えなければならないことです。特に仕入れ価格の高い生鮮食品類には要注意です。
また、その商品が適正価格であるか、仕入れ業者と価格交渉も行います。ただし、仕入れ価格を下げるために食材の質を落とすことは絶対にやってはいけません。素人にはわからないだろうと安易に考えて質を落としてしまうと、特に常連の方は敏感に感じ取り、足が遠のいてしまいます。
まとめ
会社経営には、ビジネス、税務、法務、人事などとともに財務面の管理が重要になります。飲食店経営でも、財務管理は計数管理などと言って重要な位置づけになっています。
ただ、飲食店経営の計数管理の場合、特別難しいことを覚える必要はありません。まずは、売り上を上げること、原材料費や人件費を抑えること、そして利益を確保することの3つを毎日の営業の中で意識し実践していけばよいのです。
そして慣れてきたら、予測損益計算書,収支予定表などを含む事業計画書を作成してみることです。このような計画書の作成ができるようになれば、運転資金や設備投資のための融資を受けることもできるようになり、さらに店舗の成長、発展が可能になります。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)
外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。
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