大事な大事な契約書。一語一句、丁寧に丁寧に……読みませんよね?
みなさん、読まないんですよね~。
専門用語がいっぱいで、難しい言い回しで書かれた条項が何十とあって。契約書を開いただけで読む気が無くなってしまいます。
「一般的な内容なんで大丈夫ですよ。」とか「リーガルチェック済みなんで。」なんて言葉でお客様を安心させてしまう営業マンが多いことも、契約書をきちんと読まない方が増える原因のひとつかもしれません。
みなさん、こんにちは。ドリームゲート(以下、DG)アドバザーの井出龍治(いでりゅうじ)と申します。簡単に自己紹介をさせてください。
DG内では不動産&多店舗化支援部会の部会長を務めております。父が設計事務所を経営しており、物件探しから店舗工事までをワンストップで行えます。
私自身、不動産会社とは別に飲食店4店舗経営していますので、初めはみなさまと同じように不安な気持ちを抱えながら起業をいたしました。
では本題に入りたいと思います。
弊社には、「物件を探して欲しい」というご依頼だけでなく、「閉店撤退するときの原状回復工事費を節約したい」や「大家さんから家賃の値上げをしたいと言われた」など不動産に関する多くの相談が寄せられます。
契約書をきちんと読まないとどのようなトラブルが起こってしまうのか、具体例を交えながら皆様にお伝えしたいと思います。
より実務に沿った内容をみなさまに分かりやすくお伝えするため、法律とは異なった見解やアドバイス、詳細の省略、業界では使わない言い回し等があるかもしれませんがご理解いただきたく思います。
- 目次 -
定期建物賃貸借契約(ていきたてものちんたいしゃくけいやく)
トラブルになる可能性が高いのが、この定期建物賃貸借契約(以後、定借)の認識によるものです。
定借というのは期間が定められた契約であるということです。
「普通(一般的な)賃貸借でも期間が決められている」と認識されている方もいらっしゃると思いますが、定借は「更新」という概念がなく、期間満了で契約は終了いたします。
そのまま続けて借りる場合は、「再契約」をしなければいけません。
そうなると借り手側は不安ですよね。
そのときに注意していただきたいのが、営業マンの「再契約可の物件ですから大丈夫ですよ」というトークです。
「再契約可」と言うのは、あなたが望めば再契約できるということではありません。
「貸主・借主が合意したら再契約できます。」ということなんです。
なので、再契約時期に退去を求められてトラブルになるケースがあります。
これを未然に防ぐためには、普通賃貸借にするのが一番なのですが、実際にはそう簡単にいきません。
そんなとき、弊社が行うのは以下の2点です。
- 「なぜ定借にしているのか」という理由を確認する。
- 隣地等の所有者などを確認し、建替えや開発の予定がありそうかを確認する。
この2点の確認でおおよその判断ができ、リスクを減らすことが可能です。
また、定借は借り手にとってデメリットでしかないのかというとそうでもありません。
ひとつは賃料です。定借にすることによって借り手は不安になりますので、少しでも早く成約するため、賃料を相場より下げているケースが多いのです。
もうひとつは、ビル全体の入居者の質です。「迷惑おばさん」等のニュースを見たことはありませんか?普通賃貸借の場合、トラブルを起こしている入居者であっても退去を求めるには相当の理由と手間が必要になります。
きちんと家賃を払ってくれる方には長く入居していただき、トラブルを起こすような方には退去をしていただく。このようなことが可能となりますので、ビル全体の治安が守られやすくなるということです。
保証金の償却ってなに?
とあった場合、100万円の20%=20万円は返還されません。
保証金の償却は、原状回復(借主負担)工事の対象とならない修繕などをするために、貸主が設定するものです。ただし、何かきちんとした決まりがあるわけではなく、「不動産業界の慣習」とご理解いただいたほうがいいと思います。
さて、この保証金ですが、実際の契約書の条項にはもうひとつ文言が入っています。
A:保証金100万円 償却20% 解約時に償却。
B:保証金100万円 償却10% 更新時に償却。償却分を補填。
Aは解約時に20万円無くなります。Bは更新ごとに10万円無くなるという契約です。
みなさんはどちらがいいですか?
この程度の差だと、断然Aですよね。Bですと、仮に2年更新であれば2回目の更新で20万円がなくなる計算になりますから。
しかし、この償却が5%であった場合どうでしょう。
「そのころまできちんとお店が続けられているかな」と不安になるかもしれません。
弊社のお客様で店舗展開型ビジネスの場合、断然Aをお勧めしています。仮に償却を30%40%上げてでもこちらにしてもらうよう貸主さんに交渉をします。
理由は簡単で、Bの方が閉店しやすくなるからです。
2年ごとにお金がかかるということは、24ヶ月で割った固定費なのです。固定費が増えれば倒産リスクは高まります。
AはBに比べて固定費が下がります。固定費が下がれば継続率が高まります。閉店しなければ20万円の支払いも発生しません。
ですので、事務所のように企業規模の拡大によって「移転」となるような場合を除き、店舗ビジネスの場合は必ずAの解約時償却になっているか確認をしましょう。
看板は書けません
店舗物件のご案内をしていると必ずと言っていいほどお客様に聞かれます。
「店頭に看板って出していいですか?」
完全にNGな場合は簡単なんです。「一切禁止させていただいております。」で説明が済みますので。
暗黙の了解で出しているときは、「許可は出せませんが、以前(前入居者)はここに出していたようですね。」とか「許可は出せませんが、入居者のみなさんで話し合ってください。」しかご説明ができないのです。
そもそも敷地内ならある程度口頭でお話できますが、「道路」に看板を出していいか許可する権限は貸主も管理会社も持っていないんです。
それでも、慎重なお客様は言質をとろうとしたり、メールをしてきたり…。
こんな時はお客様に正直にお話します。
「権限を持っていないので、お約束はできません。今は置いていても大丈夫かもしれませんが、突然行政からの指導が入るかもしれません。そのリスクを含めて、この物件でビジネスをすることがお客様にとってプラスかどうかご判断ください。」と。
このように「契約書に記載できないこと」は、少なからずあります。それらを必死になって交渉するより、「記載できないこと」のリスクが及ぼす影響がどの程度なのかトータルで判断することも時には必要です。
設備の修理修繕は誰の義務?
「えっ?ここの修理も私(借主)がするんですか?」というトラブルはけっこうあります。
まず一般的な考え方として、建物の設備は貸主がメンテナンスを行い、造作物は借主が行います。そのうえで、実状にあわせて特約等で調整をしていきます。
一番重要なのは空調設備です。エアコンですね。
これが設備なのか、前入居者が残していった残置物なのかによっても違います。残置物の場合は修理や処分まですべて借主負担が原則です。
設備であっても日々のメンテナンスは借主負担ということも多いです。そして、メンテナンスの不備で故障した場合、修理は借主負担となることもあります。
こういった場合は以下の内容を事前に確認してください。
- 具体的にどのようなメンテナンスを年に何回行えばいいのか。
- 前入居者のメンテナンス履歴を見せてもらえるかどうか。
- 修理費が一定の金額を超えたら、修理不可と判断し貸主負担で設備の入替をしてくれるのか。
そのうえで、特約に追記してもらうのが安心だと思います。
エアコン以外にも、屋上までの排気ダクトや雑排水汲み上げポンプ、自動ドア、専用で使用している共用部分の照明など物件によってさまざまです。
設備関係の修理は想像以上に高いことがあるので、慎重にチェックしましょう。
原状回復工事の注意点
こちらもトラブルが非常に多いです。
契約時は「原状回復工事の業者指定」がされているかどうかをチェックしてください。
貸主が指定する業者でしか工事ができないとなると、工事費用が高くなってしまう可能性があるからです。
ただ、この問題は非常に難しいのです。
撤退時の原状回復費用を安く済ませるため、安価で粗悪な業者に施工をさせてしまう借主もいらっしゃいます。そうなると、貸主とって「元とおり」に戻っていないので、自ら施工をやり直し、借主に請求するというトラブルに発展してしまうのです。
ですので、この場合は以下の項目を事前に確認してください。
- 「原状」とはどのような状態にするのか。
- 業者の指定は外せるのか。
- 指定が外せない場合、他業者と価格差が大きい場合はどのように対処するのか。
契約時にできるのはこれくらいです。契約前に実際の原状回復費用まで確認することは不可能だと思います。
契約書の内容とは少しずれてしまいますが、退去時の手順をお伝えします。
どの業者を使う場合も、必ず工事許可証と共に「この内容の施工をもって、第●条の原状回復とする」という確認を「書面」で貸主や管理会社からとってください。
そうでないと、施行して確認をしてもらった段階で「やり直し」を命じられる可能性があるからです。
もしこれに貸主や管理会社が難色を示した場合は、「どのような工事であれば原状回復となるのか」を相手から出してもらい、それに沿った施工見積を業者にお願いしましょう。
また、原状回復とは別に工事業者が指定されているケースがあります。共用部分のサイン工事(ビルの袖看板やエントランスの社名案内板など)や消防設備工事などです。
これらはビル全体の景観や安全に関わってくるので、指定された工事業者にお願いしましょう。
完璧な契約書でなくてもいい。
いままでのお話と矛盾するかもしれませんが、完璧な契約書を求める必要はありません。
みなさんは何のために不動産契約をするのでしょうか。その場所で商売をして利益を得るためだと思います。
であれば、契約書の条項に「納得」できない部分が一部あったとしても、その内容を「理解」できていれば十分です。
理解したうえで、この物件で利益が出せるかどうか見定めることが一番大切です。
対等な立場の契約であっても、自分の意見が通るのは50%です。
ビルオーナーと起業者の力関係でいえば、意見が通るのは20%程度しかないかもしれません。
しかし、正しい知識と相手(貸主)の立場を理解することによって、お互いの不安を払拭し、この20%を25%、30%と高めていけると思います。
みなさまの起業・商売発展を心より祈念申し上げます。
弁護士さんは「公平な契約書」をつくるのがお仕事ではありません。
借り手であるあなたにとって不利な内容が書かれているかどうかは別問題ですので、ご注意ください。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 井出 龍治 オリエ不動産グループ代表 / 宅地建物取引士
2014年、オリエ不動産を設立。「借主のメリットに特化した不動産業」として埼玉県から創業促進支援事業として認定される。出店業務のアウトソーシングという新たな分野で、業務委託や顧問契約を中心に活動範囲を拡大。
多くの賛同者と共に、クリーンな不動産業界を目指し活動中。
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