Vol.11 社会保険・労働保険の煩雑な計算を回避するには?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
事 業所を開設したら、社会保険に加入しなければなりません。また、従業員を雇用したら、労働保険への加入義務も生じます。いずれも、経営者や従業員が安心し て仕事に取り組むためになくてはならない公的な制度です。しかし、保険料というコストや、その管理に手間がかかるのも事実。では、そのあらましについて解 説していきましょう。

 

会社を設立したら、直ちに社会保険に加入を

 
 まず、社会保険。会社を設立したら、直ちに加入しなければなりません(原則5日以内)。また、個人事業でも、原則として従業員を5人以上雇用する場合は加入義務が生じます。社会保険には次の3種類があります。

  1. 健康保険:加入者本人とその家族が病気やケガを治療したり、出産した場合、給付が受けられる。
  2. 介護保険:40歳以上で介護が必要になった場合、レベルに応じた給付が受けられる。なお、保険料負担は40歳以上の人だけ。健康保険料と一緒に徴収される。
  3. 厚生年金保険:老後の生活保障となる老齢年金や、加入者本人が死亡した場合の遺族年金、加入者本人が障害を負った場合の障害年金などが給付される。

 

保険料の計算は大きな手間

  社会保険の保険料は、「標準報酬月額」に一定の保険料率を掛けて算出されます。「標準報酬月額」とは、原則としてその年の4~6月の3カ月間に支給した給 与および通勤手当などの諸手当の総額の平均を、等級区分(健康保険は39段階、厚生年金保険は30段階)に当てはめて決定されるものです。保険料は会社と 従業員が折半し、通常、従業員分は給料から天引きして会社がまとめて支払います。

 なお、厚生年金保険料は、2006年9月から2007年 8月まで14.642%ですが、法律の改正により、毎年0.354%ずつ料率がアップし、2017年以降は18.3%になります。保険料の計算は、標準報 酬月額によって一人ずつ異なるので、このような保険料率の改定はその計算の手間をさらに大きくしています。

 ちなみに、「標準報酬月額」が30万円の人の場合、政府管掌健康保険の保険料は2万4600円。厚生年金保険料は4万3926円。合計すると6万8526円で、会社は3万4263円を負担することになります。

 

「標準報酬月額」の変動に注意

 

  経営者や従業員の標準報酬月額は、毎年7月、「算定基礎届」として社会保険事務所に届け出る必要があります。ただし、基本給や通勤手当等の固定的賃金が変 動し、その変動月から継続する3カ月間の報酬を平均して2等級以上の差が生じた場合は、その都度「月額変更届」を提出しなければなりません。従業員が転居 をして通勤手当や住宅手当に変動が生じた時などに起こる場合が多く、注意しないと見過ごしてしまいがちです。

 給与計算ソフトには、標準報酬月額を入力すれば保険料を自動的に計算する機能がついていますので、いちいち手計算する必要がなく便利です。また、通勤手当などが変動する時、「月額変更届」提出対象者を教えてくれる機能もありますので、見過ごすことはなくなるでしょう。

 

従業員を雇用したら労働保険に加入を

 次に、労働保険。従業員を雇用したら、10日以内に加入手続きをする必要があります(個人事業も同様)。労働保険は次の2種類があります。

  1. 労 災保険:従業員が業務中や通勤中に災害に遭遇した場合、給付が受けられる。保険料は全額会社負担。中小事業主や代表者以外の法人の役員も、一定の条件(例 えば小売業の場合、従業員数が50人以下で労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託していることが条件)を満たせば加入することができる(労災保険特 別加入制度)。保険料は業種によって異なり、一番少ない業種では給料の0.45%。

※ なお、労働者ではなく労災保険が適応されない法人の代表者などは、被保険者が5人未満の零細事業所に限り、業務上発生する労災的な傷病に対しても健康保健 の適応を受けることが可能(健康保険は業務外の事由による疾病などに対して給付を行うもので、原則、業務遂行過程で業務に起因して生じた傷病は給付対象と はならない)。

  1. 雇用保険:会社の倒産や解雇、自己都合などで従業員が失業した場合に一定期間給付される。一般的な業種の場合、従業員は給料の0.8%、事業主は1.15%を負担。ちなみに給料が30万円の人の場合、会社は3450円を負担することになる。

 

労働保険料は前払い・精算がある

  通常、労働保険は5月20日までに1年間(4月1日~翌年3月31日)分を前払いします。算定の根拠となる給与金額は見込み額を用い(概算保険料)、実際 と見込み額の差は「年度更新手続」を行って精算します(確定保険料)。つまり、1年に1回、当年分の概算保険料の支払いと前年分の確定保険料の精算を同時 に行うことになります。

 このため、労働保険料の会計処理は煩雑で「仮払金」や「前払費用」などの勘定科目を用いたり、従業員の負担分につ いては、会社が一旦「立替金」として計上して、給与の支払時の保険料天引き分について「立替金」を取り崩す会計処理を用いたり、あるいは保険料の天引き分 を、健康保険料等と同様に「預り金」に計上して、決算時に精算する会計処理にしたりとさまざまです。
 また、成長途上にある会社では、見込みの給与金額と実際の給与金額に大きな差がつき、年度更新時に多額の追加納付が必要となることもありますので注意しましょう。

 

3月決算以外では手作業では相当な手間

  また、3月末決算以外の会社は、事業年度と労働保険年度がずれるために、会計上のデータのみから保険料算定を行うと集計作業が煩雑になります。具体的には 5月の「労働保険料の年度更新」の際に、前年4月~当年3月の1年分の給与総額を事業所ごとに集計し直す必要があり、相当な手間がかかってしまいます。こ のときに給与計算ソフトを活用すれば、保険料を自動計算し、そのデータを蓄積できますので、これらの作業はかなり効率化されるでしょう。できるだけ楽にで きるよう工夫したいものですね。 

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める