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トラブルが高じると訴訟に発展
残念ながら、 ITシステムの開発は、常に100%成功するとは言えません。
原因はさまざまですが、ともかくITシステムにはそれなりに大きな金額がか かりますから、それがうまくいかないとなるとショックは大きいものです。しかもそういう時に限って、構築費用が当初見積もりより増大するなどし、ベンダー から追加請求されることがあるのです。
「不満だらけなのに、そんなの払えるわけがないだろう!」という話になり、それがこじれて責任問題に発展し訴訟に なる、というケースが昔から実際に起こっています。
最近の事例では、スルガ銀行が日本IBMを訴えて現在係争している訴訟があります。こ れは、スルガ銀行の勘定系システムの全面刷新プロジェクトにあたって、国内では稼働実績のなかったパッケージを採用する方向で検討を進めたところ、結果的 には設計開発が難航し失敗に終わった、というものです。責任をめぐって双方の言い分が平行線をたどり、結果的に訴訟に発展したようです。
契約書は、自らつくる
不幸にもこのようなトラブルになってしまった時、重要な よりどころとなるのが『契約書』です。
こう書きますと、「契約書を交わすことなど、企業間取引では当然」と思われるでしょうが、こ とITシステム構築の契約においては、かなりいい加減なケースが意外と多いのです。もちろん、契約自体を結んでいないということではあ りません。契約条項の取り決め方がいい加減、ということなのです。
ここで、みなさんに伺います。何らかのITサービスに契約したことがある方は、思い出してみてください。
1: 契約の時、業者が提示した契約書の文面をそのまま使いませんでしたか?
2:業者を選定する際、選定が終わってから契約条件を 確認しませんでしたか?
3:業者に何らかの業務委託をした際、契約を交わす前から実作業に着手させませんでしたか?
上記のうちでひとつでも心当たりがあるなら、知らないうちに、みなさんが不利になってしまう契約をしてしまった可能性があります。何事もなく満足のいくも のが導入できていれば問題は起こらなかったでしょうが、仮に問題が発生していたら、いやな思いをしていたかもしれません。
原則としてIT に関わる契約は、ユーザー企業にとって不利なものにならないように、ユーザー企業が積極的に提示するものなのです。
ひな型があります
ただ、原則はそうだとしても、ITシステム構築の契約にどん な条項を入れるべきなのか、想像がつかない方も多いと思います。
経済産業省が、同省のWebサイトにて、システム構築プロジェクトの際に参照できる「モデル契約書」という文書を公開しています。この中には、ITシステム構築にかかる契約プロセス の解説や留意点、RFI(情報提供依頼書)やRFP(提案依頼書)の使い方などについて、くわしく説明があります。
「モデル契約書」には第 一版と追補版が含まれます。第一版は専門知識のあるユーザー企業向け、追補版はITにくわしくないユーザー企業向けです。追補版には、個別契約の締結時に利 用する重要事項説明書や、ユーザー企業が適正なITベンダーを選定するためのチェックリストといった、第一版にはない文書が含まれています。
ただし、基本的には大規模な開発にも対応できる契約書を意識して作られています。このひな形を参考にして自社に必要な条項を抜き出し、自社専用のひな型を 作成するようにしてみてください。