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便利すぎない方がいい?
最近の不景気の中、コ スト削減に取り組む企業は多いようです。
そんなITコスト削減で、「パソコン環境の見直しができないか」と思う企業もあるだろうと思います。確かに、最 近ではパソコンの価格が安くなってきましたが、その分、一人一台が当たり前になっています。ソフトも必要ですし、社員数が多くなればそれなりの金額がかか るわけです。しかしながら、業務にパソコンは今や必須ですから、簡単になくすわけにはいきません。
そんな中、経営者の一声で、パソコンを 一人一台配布するのをやめてしまった会社があります。
ただし、あくまでも「一人一台」をやめるということで、完全廃止ではありません。で すので、ハードやソフトへの投資という点でのコスト削減効果はそれほど大きくはありません。しかし、これを実施した経営者は、そこだけに期待したわけでは ないのです。
仕事の効率が上がった
そんな会社の事例を、2つ ほどご紹介しましょう。
ある企業では、一人一台をやめ、個人のデスクにパソコンを置くのをやめました。さらにそれに留まらず、メールアド レスも個人配布をやめてしまいました。
その代わり、共用スペースを作り、そこに複数台のパソコンを置くことにしたのです。
確かに当初、社員はいろいろ不便を感じました。しかし、パソコンを共用化してみて、実はそれほどいつでもパソコ ンが必要なわけではないことに気づいたようです。調べ物をしていると、つい何となくネットサーフィンをしてしまうことがありますが、これがなくなり、業務 効率が上がったために残業が減るという効果がありました。また、個人のメールが共用メールになったことで、自然に情報が共有されるようになり、社外からの 問い合わせに誰でも対応できるようになりました。おかげで顧客対応の質も向上したのです。
別の企業では、営業職など外出の多い社員を中心 にパソコンを配備し、彼らの外出中に内勤の社員がそれを利用するという形態を取るようにしました。
この企業の社員も、やはり最初は不便に 感じたようですが、このような形にすると、内勤の社員は外出中の社員が帰ってくる前にパソコン作業を済ませようとします。また、内勤の社員は誰もが、外出 が多い社員の不在の機会を狙ってパソコンを使いたがり、少し待ち行列ができることも出てきます。結果、社員それぞれの作業が速くなり、資料作成やメール チェックの時間が短縮されたのです。
作業効率が上がったので夜遅くまで残業することもなくなり、電気代の節約にもなっているようです。
情報セキュリティにも効果あり
実はこの取り組み、情報セキュリティの保護にも効果がありま す。
上記のようにパソコンが共有化されると、どのパソコンを使用できるかはその時しだいで変わることになります。そうすると、使いたいデー タをパソコン本体に保存しておけなくなります。従って、データはすべて共用サーバに入れざるを得なくなるわけです。
結果的に、情報の格納 先がサーバに集約されます。個人のパソコンにばらばらに入っているのでは、どんなデータがどこにどのように管理されているのか分かりにくくなりますが、 データが集約されればその確認は容易です。よって、情報セキュリティのリスクも低減されるのです。
この取り組みは、ちょっとしたショック 療法にも聞こえます。しかし、ITの利便性ゆえに、本来すべき作業が非効率になっていることが実際にあります。この取り組みを実行した経営者は、金 銭的に「見えるコスト」より、業務実態をよく観察して「見えないコスト」が大きいことに着目している点が、注目すべきところです。