新興市場の開設に伴い上場社数が急増
今日本は、上場社数の多 さから「大公開時代」といわれています。この「大公開時代」を迎えた要因は、何といっても1999年6月に米国NASDAQと、孫社長率いるソフトバンク とが提携し、大阪証券取引所に「ナスダック・ジャパン(現ヘラクレス:以下同)」を立ち上げると発表したことでした。これに刺激され東京証券取引所が同年 7月に、ベンチャー企業向け新市場の設立を発表、当初の予定を早めて「マザーズ市場」を開設し、その他地方の証券取引所もこの流れに乗ったことに始まりま す。
東証マザーズや大証ナスダック・ジャパンが開設される前は、上場市場として東証1部、2部、店 頭登録市場しか存在しませんでした。これらの取引所の上場基準(形式基準)は、一定の利益水準を求めるなど比較的厳しく、創業から上場まで平均経過年数は 数十年という状況でした。その状況が、新興市場の相次ぐ開設により、大きく変わりました。東証マザーズ、ナスダック・ジャパンとも赤字でも上場できるとい う上場基準(形式基準)を設けたのです。また、各市場間で上場予備軍を奪い合う競争原理が働いたこともあり、上場社数が一気に増加しました。
一方アメリカは、エンロン事件以降、企業の内部統制にかかわる法令である米国企業改革法(サーベンス・オスクリー法)により、SEC登録企業に多くの時間 とコストを負わせることになりました。その結果、この負担を嫌って新規上場企業が減少してしまいました。このような状況からアメリカの企業が自国で上場す るのではなく、日本の新興市場に上場する企業まで出てきました。
また、近年では東証マザーズや大証ヘラクレス以外にも、札幌証券取引所の アンビシャス、名古屋証券取引所のセントレックス、福岡証券取引所のQボードなど、旺盛なIPO需要をつかみ地方の証券取引所の新興市場も順調に新規上場 社数を伸ばしています。これは、主幹事証券会社がこれまでの大手証券会社による寡占状態から、中小証券会社やネット証券会社が主幹事を務めるようになった こと、企業ステージの早期から上場準備作業を支援するIPOコンサルティング会社が増加したことなど、これらIPOを取り巻くインフラが整備されたことも 新規上場社数の増加の要因といえます。
近年も上場社数が増加傾向に
2005年4月から2006年3月までの新規上場社数は、167社と、前年度の172社と同様に高水準に推移しました。大証ヘラクレスのシステムトラブル により、新規上場申請をストップさせていたことを加味すると、数字以上に高水準であったといえます。
日本経済は長期にわたるデフレから脱 却し、小泉政権による構造改革の進展への期待から、外国人投資家による「日本買い」などにより、日経平均株価は1万7000円台(2006年5月11日現 在)まで回復しました。また証券仲介手数料の自由化に伴い、ネット証券が主導して、手数料の引き下げが進みました。あわせて、異例のゼロ金利政策から、個 人投資家が一気に株式市場に流れ込み、株式市場参加者の数が急拡大しました。
株式市場の活況を受けてIPOを希望する上場予備軍は依然多 く、好調な株式市場が崩れるようなことがない限り、しばらく新規上場社数は高水準で推移すると思います。このような状況になると、IPOを目指す会社は事 業の独自性や高い成長性を有していないと、「株」としての商品性を投資家から認められにくくなります。また、IPOが身近になったことにより、IPOはあ くまで事業拡大のための通過点としてとらえ、むしろ調達資金を活かした上場後の成長戦略(いわゆるエクイティストーリー)が企業評価のポイントとなると思 います。