新興市場が数多く開設されているため、クライアントからはどの市場に上場すべきか良くご相談を受けます。各新興市場に よって上場審査の形式基準(利益水準や株主数等の数値基準など)が異なりますし、実質的な審査のスタンスも異なっております。また、各新興市場のコンセプ トの違いから、市場によっては投資家が抱く上場会社への印象も異なってきます。よって、上場市場の選択はIPOを実現させるうえで重要であると共に、上場 後の経営戦略等を考える上でも非常に重要であるといえます。今回は主に新興市場を中心に、各市場の特徴をみていきたいと思います。
東京証券取引所マザーズ
東京証券取引所が運営主体となる新興市場です。ソフトバンク孫氏が大 阪証券取引所を運営主体としてナスダック・ジャパン構想を発表したのに対抗し、東京証券取引所が平成11年11月11日に開設しました。
高い成長可能性を有した企業に直接金融による資金調達手段を与え、さらなる成長を促すというコンセプトを持っています。そのため上場審査基準は、東証1 部、2部に比べて形式基準で求められる利益規模は小さいものの、申請会社の事業が高い成長可能性を有していることを求めています。
<長所>
・ 東証1部、2部の審査期間約4カ月に比べて、マザーズは約2カ月と審査期間が短い。
・申請書類も「Ⅱの部」が不要など簡素化されている。
・ 東証が運営主体であるため、マザーズから東証1部、2部に市場換えする際の形式基準が、他の新興市場から市場換えする場合(例えばジャスダックから東証1 部)と比べて優遇されている。
<短所>
・以前要求されていた「新規性」という審査基準はなくなったものの、高い成長可能性を 要求される。
・マザーズ上場企業の不祥事が頻発している(過去はリキッドオーディオ・ジャパン社、直近ではライブドア社など)。
・ 最近では東証自体のシステムトラブル等が相次いでいる。
ジャスダック証券取引所
日本証券業協会が昭和38年に開設。東証マザーズ等の新興市場が開設されるまでは、国内唯一の新興市場として東証1部、2部とすみ分けていました。新興市 場間の上場企業誘致合戦が激しくなるなか、平成16年12月に証券取引所免許を取得し取引所となりました。従来から存在する新興市場という安心感を強みに して、マザーズのような急成長企業ではなく、新興企業の中でも安定的に成長する企業が多く上場しています。
<長所>
・IPO 実現社数では、他の新興市場に比べて圧倒的に多い。
・安定的に成長する企業や創業間もない企業が少ないなど、マザーズ等に比べて上場企業に 対する信頼性が高い。
・東証1部、2部の審査期間に比べて、審査期間が短い。
<短所>
・新興市場であるもの の、作成に相当の作業量を要するⅡの部が申請書類として要求される。
大阪証券取 引所ヘラクレス
前身はソフトバンク孫社長らが平成12年6月に開設したナスダック・ジャパン。そのナスダック・ジャパンがITバブルの 崩壊により平成14年12月に撤退し、ニッポンニューマーケット「ヘラクレス」として再出発しました。形式基準においては東証マザーズと同様に赤字企業で も上場が可能であり、比較的緩い審査基準となっています。
<長所>
・東証1部、2部に比べ審査期間が短く(他の新興市場に比 べても短いケースもあり)、申請書類もⅡの部が不要など簡素化されている。
<短所>
・東証マザーズ、ジャスダック証券取引所 に比べると上場会社数が少ないため流動性に乏しい。
・ナスダック・ジャパンの撤退、地方の証券取引所が運営主体という点から東証マザーズ、 ジャスダック証券取引所に比べブランド力が乏しい面もある。
その他の証券取引所
上記3つ以外の証券取引所としては、北から札幌証券取引所アンビシャス、名古屋証券取引所セントレックス、福岡証券取引所Q-Boardがあります。これ らの新興市場の上場社数は平成18年5月末時点(上場予定社数も含む)で、アンビシャスが4社、セントレックス19社、Q-Board5社となっておりま す。東証マザーズやジャスダックと比べると、まだまだ上場社数は少ない状況です。これらの新興市場は差別化を図るために、柔軟な上場審査の対応や審査期間 の短縮化を図り、早期にIPOを行いたい会社や各証券取引所の地元企業等を積極的に誘致しています。