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プロジェクトファイナンスで集めた資金でゲーム開発
究極までリアリティを追求したオンライン麻雀ゲーム『Maru-Jan』をご存じだろうか。牌の動きや音など細部にまで徹底したこだわりを持った作りこみにより、業界ナンバーワンの地位を築いたゲームである。
このゲームを開発したのは株式会社シグナルトーク(http://www.signaltalk.com/)という会社であるが、同社はゲームの開発費の調達にあたり「プロジェクトファイナンス」という手法を利用したことでも有名だ。
プロジェクトファイナンスとは、そもそもハリウッドの映画製作や中東の油田開発等、極めて大きなプロジェクトに利用されているスキームであるが、同社の栢社長は、開発者と資金提供者とユーザーの利害を一致させる為、このスキームを選択したのである。
プロジェクトファイナンスとは
プロジェクトファイナンスとは、前述したとおり、そもそもは巨額な資金を必要とする制作(開発)案件について使用されるスキームである。
特定の事業(プロジェクト)について資金を調達する場合、満足な担保設定が出来なくても、その事業から得られる利益(映画配給権等)や権利(DVD等の2次利用権等)により、資金提供者を募る手法である。
しかし、プロジェクトファイナンスは小さな事業についても、工夫によっては実に有効な資金調達のスキームとも成り得るのだ。簡潔にメリット/デメリットを記載してみた。
会社と分離して調達が可能になる
会社に実績が無くても、収益性の高い事業であれば資金調達を可能とする。仮にその事業が失敗しても一般的に会社に返済義務は無い。
利益配分を自由に設定できる
あらかじめ規定することで開発者の特別ボーナス(インセンティブ)などを自由に設定できる。シグナルトーク社では、実に利益の50%を開発に携わったメンバーがシェアする。この結果、優秀な人材のモチベーションを引き上げると同時に、社員に経営感覚を植え付けることを可能としている。
資金提供者にとって、リスクリターンが明確になる
単なる融資や投資と違い、資金提供者はあらかじめ事業のリスクやリターンを深く理解したうえで資金を提供する事が出来る。
【デメリット】
再投資が制限される。
プロジェクトファイナンスで調達した資金や、そこから得られる収益は、会社の資金と明確に分離する必要があり、直接他の事業へ資金を融通することは出来ない。同時に資金管理のコストも発生する。
利益が出ない場合、制作者への利益還元ができない。
その事業から期待した収益が得られない場合、資金提供者と同様に、開発者等の従業員もリスクを共有する必要があり、場合によっては離職等も考慮しなければならない。
流通の変化が、コンテンツ産業(制作者)にビジネスチャンスをもたらす
従来、映画やアニメなどは、そのコンテンツの流通を担う映画配給会社やTV局が絶対的な権力を有してきた。自らコンテンツを制作する企業は下請け的な立場であり、自ら資金を調達することもままならず、制作者の生活も決して安定したものではなかった。
そもそもコンテンツ制作は多くの場合、個人の才能や力量に頼るところが大きく、会社の資産として表面に現れるものではないことも、制作企業が下請けに甘んじる原因のひとつであった。
しかし近年、ネット環境の普及により、コンテンツの流通コストが劇的に下がりつつある。これにより、優秀なコンテンツを制作する企業や個人の地位はますます上昇するだろう。
プロジェクトファイナンスのスキームを利用して成功を収めているシグナルトーク社は、まだまだ稀な存在であるが、その有効性に注目し、第二、第三のケースが生まれることを期待する。