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減価償却制度の改正点とは
改正内容は、次の3点です。
(1)平成19年4月1日以降取得する減価償却資産については、残存価額(取得価額の10%)が廃止される。定率法の場合、250%定率法が導入される
(2)平成19年3月31日以前に取得した減価償却資産については、償却可能限度額(取得価額の95%)まで償却した事業年度の翌年以降の5年間で、残りの5%を均等に償却する(償却可能限度額の撤廃)
(3)技術進歩が著しいIT分野の法定耐用年数を短縮する
減価償却とは何か
上記改正内容のうち、特にメリットの大きい(1)について説明する前に、そもそも減価償却制度とは何なのかについて説明しておきましょう。
減価償却とは、建物や車両、機械など、長期にわたって使用する固定資産について、その購入に要した金額(「取得価額」といいます)を、購入年度に一度に費 用として計上するのではなく、一定の期間(「耐用年数」といいます)、決められた計算式に基づいて各事業年度に配分して費用として計上する手続きをいいま す。
単純に言えば、200万円で買った車は、耐用年数が10年とすると、20万円ずつ経費として計上するというものです。
なお、実務上は税法上で資産の種類ごとに細かく定められている耐用年数(「法定耐用年数」といいます)を用いています。
「費用収益対応の原則」
では、なぜそのようなやり方をするのでしょうか。これは、専門的には「費用収益対応の原則」といい、その事業年度で挙げた収益にはそれに見合った費用を対応させる、という考え方に基づいています。
例えば、200万円で買った車を1年で費用計上すれば、2年目以降はタダで使えることになりますよね? でも、2年目以降もその車を使って営業活動をし、 収益を挙げるわけです。収益を挙げるのに、その分のコストがかかっていないということになる。実際は車を使っているので、それでは実態に合っていないわけ です。
また、車は何年にもわたって使うのが前提で購入しますから、1年目に全額費用としてかけてしまってはその年度の費用が大きすぎますよね。
以上のように、長期使用する固定資産を単年度で計上すると、収益と費用の関係が適切ではなくなることがわかるでしょう。
改正税法に基づく「定額法」と「定率法」
減価償却方法には大きく分けて「定額法」と「定率法」があります。
定額法は、先の例のように、固定資産の金額を法定耐用年数で割ったものを減価償却費とするもの。
(例)取得価額200万円の固定資産を法定耐用年数10年で償却する場合
1年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
2年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
3年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
4年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
5年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
6年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
7年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
8年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
9年目:200万円×0.1=減価償却費20万円
10年目:200万円×0.1≒減価償却費199,999円
(減価償却費計:199万9999円)
※償却し切った後は「1円」の備忘価額を残さなければなりません(改正前は10%を残さなければなりませんでした→改正点(1))。
定率法は、事業年度ごとに固定資産の帳簿金額(期首帳簿価額)に同じ比率をかけた減価償却費を計上していく方法。したがって、金額としては、初年度にもっとも多くの減価償却費が計上され、年度を追うごとに減っていくことになります。
ただし、改正税法では償却保証額という概念が新たに導入され、減価償却計算が複雑になっています。
(例)取得価額200万円の固定資産を法定耐用年数10年で償却する場合
1年目:取得価額2,000,000円×償却率0.25=減価償却費500、000円
2年目:期首帳簿価額1,500,000円×償却率0.25=減価償却費375,000円
3年目:期首帳簿価額1,125,000円×償却率0.25=減価償却費281,250円
4年目:期首帳簿価額843,750円×償却率0.25=減価償却費210,937円
5年目:期首帳簿価額632,813円×償却率0.25=減価償却費158,203円
6年目:期首帳簿価額474,610円×償却率0.25=減価償却費118,652円
7年目:期首帳簿価額355,958円×償却率0.25=減価償却費88,989円
8年目:改定取得価額266,969円×償却率0.334=減価償却費89,167円
9年目:改定取得価額266,969円×償却率0.334=減価償却費89,167円
10年目:改定取得価額266,969円×償却率0.334≒減価償却費88,634円
(減価償却費計:199万9999円)
改正税法では、耐用年数ごとに定められた保証率を取得価額に乗じて得られる額(「償却保証額」といいます)よりも、通常とおりに計算した減価償却額が小さく なった年度における期首帳簿価額を新たに取得価額とみなします。それ以後の年度では、この取得価額(「改定取得価額」といいます)に法定耐用年数ごとに定 められた一定率(「改定償却率」といいます)を乗じて、毎期定額の償却額を算定します。いわば耐用年数の途中で定額法に切り替えたような算定方法になって います。
上記の例では、法定耐用年数10年の場合の保証率は0.04448と定められており、償却保証額は200万円 ×0.04448=88,960円となります。8年目の通常とおりの償却額は266,969円×0.25=66,742円となりますが、これは償却保証額を 下回ります。従って、この年度からは定額法に切り替わり、期首帳簿価額の266,969円を取得価額とみなしてこれに改定償却率0.334を乗じて毎期定 額の償却額を算定します
資産の「減価の仕方」の違い
なぜ、定額法と定率法という2つの方法があるのでしょうか。
例えば、建物は税法上は定額法しか認められていません。以下は個人的な見解ですが、建物の法定耐用年数は数十年におよびますが、その期間内で定率法的に価値が減少するとは考えにくいからではないでしょうか。
一方、機械や車などは、古くなって性能の劣化したものと新しいものを入れ替えるわけで、入れ替えた当初はよく使用するので価値の減少も激しく、定率法的にその価値が減少していくから、と見ています。
ただし、税法上は定額法によるか定率法によるかは建物など一部の固定資産を除き、原則として会社の選択に委ねられています。
減価償却のメリット
減価償却は、税法上行うことは任意です。業績が悪く利益を出したい場合など、固定資産を購入してもその費用を計上しないという判断も許されています。行わ ない場合、その固定資産を廃棄する年度に損金として全額を計上することになります(業績が向上した年度だけ減価償却を行うことも可能)。
黒字経営の場合、先の例で言えば、減価償却すれば初年度で購入金額の4分の1を費用計上できるわけですから(制度改正後の定率法の場合)、その分納税額を抑制できるという大きなメリットがあります。
「減価償却の自己金融効果」とは
例えば、さきほどの計算事例で200万円の固定資産を購入した場合。減価償却すれば、初年度に50万円が費用計上できます。減価償却しなければ、法人の実効税 率は約40%ですから、20万円余計に税金が発生し、それだけのお金が社外に流出することになります。つまり、減価償却すれば、20万円を社内に留保した のと同じことになるわけです。このことを、専門的には「減価償却の自己金融効果」と呼んでいます。
なお、減価償却を行って数年間かけて費用計上するのと、行わずにいっぺんに損金計上するのとでは、トータルの納税金額に変わりはありません。減価償却を行えば、時間的に納税による資金流出を先送りできるというメリットがあるということになります。
メリットの大きい「250%定率法」の導入
では、いよいよ制度改正の説明に移りましょう。
今回の制度改正で最大のメリットが得られるのは、(1)の「250%定率法の導入」です。
定額法の償却率に2.5を掛けた値が定率法の償却率となります。
例えば、改正前まで、法定耐用年数10年の償却率は0.206でしたが、これが0.1×2.5=0.25となったわけです。次の例で、従来より短期のうちに多額の減価償却費を計上できることがおわかりでしょう。
(例)取得価額200万円の固定資産を法定耐用年数10年で償却する場合
1年目:旧減価償却費412,000円 → 新減価償却費500,000円
2年目:旧減価償却費327,128円 → 新減価償却費375,000円
3年目:旧減価償却費259,739円 → 新減価償却費281,250円
4年目:旧減価償却費206,233円 → 新減価償却費210,937円
5年目:旧減価償却費163,749円 → 新減価償却費158,203円
6年目:旧減価償却費130,017円 → 新減価償却費118,652円
7年目:旧減価償却費103,233円 → 新減価償却費88,989円
8年目:旧減価償却費81,967円 → 新減価償却費89,167円
9年目:旧減価償却費65,082円 → 新減価償却費89,167円
10年目:旧減価償却費51,675円 → 新減価償却費88,634円
(減価償却費計:1,800,823円) (減価償却費計:199万9999円)
備忘価額は1円でOKに
また、冒頭の(2)にあるように、償却が終わっても、その固定資産を処分しない限り、取得価額の5%が残っていました。それが備忘価額1円を残すだけでよくなったのです。
つまり、制度改正でより早期のうちに償却を進めることができ、自己金融効果によって、内部留保された資金をより早い時期に新たな設備投資などに振り向けることができるようになったわけです。
なお、注意すべきは、冒頭の(1)(2)のとおり、固定資産をいつ取得したかで減価償却の算出が変わること。特に制度改正後の定率法による償却計算は複雑 です。会計ソフトの中には、固定資産を取得した日付を入力するだけで制度改正前後の償却率で自動的に減価償却金額を計算してくれるものもあります。ぜひ利 用してみることをお勧めします。