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とある試食会のおもしろい事例
関西のとある団 体で「フード商品開発トレーニングML」という勉強会をやっておりまして。3カ月を目安に、商品の企画から開発、販売ページ作成および販売スタート、とい うのを目標にして、数店の店長さんや商品開発担当の方にメーリングリストに参加していただき、公開形式でコンサルティング指導をする、という勉強会です。
目標は3カ月、なのですが、フードの店舗さんには極端に忙しくなる時期がありまして、その間はどうしても実務以外の部分は後回し気味になってしまいます。 そんな理由で、3カ月で終わりきれてないのが現状なんですが・・・(苦笑)
合同セミナーの日程に合わせて、場所をお借りして「試食 会」も行いました。 参加した店舗さんは、それぞれの新商品を持参して、その場で調理をし、試食をしながら感想を述べていく、というスタイルのものです。
そこに参加されていた方で、「小豆島 お肉の山下屋さん」という店舗さんがおられました。
山下さんが持参されていたのは、「めっちゃスパイスにこだわったんですわー!」という、自信作の「キーマカレー」と「チキンカレー」。透明ビニールのパッ クの中は、ターメリックの黄色も鮮やかで、実においしそうなカレー。
早速、湯煎にかけて温め、試食をしてみたところ・・・。
「おいしいねん。おいしいねんけど・・・」
ほっこりと湯気のあがるカレーは、 鼻先で複雑なスパイスの香りがふわっと香ります。強烈なイメージの割に、食べてみると香りの印象よりはマイルドで、柔らかく甘さが立った、実にいいお味。
これなら、かなり「本格的なカレー」として販売することが可能な商品だと感じました。
でも、試食された皆さんの反応は、意外にもこのおい しさには批判的でした。
「おいしいねん。おいしいねんけどな、
山下屋の味とちゃうねんなー!
なんかこう、もっとベ ターっと、おかあちゃんっぽい味なんが、山下屋の味ちゃうん?」
そうなんです。
山下屋さんの人気商品は「手作り焼き豚」「メン チカツ」「ハンバーグ」など、お肉をたっぷり使った手作りのお惣菜が中心なのです。どのメニューも、丁寧に手作りされ、山下屋さんを昔から支えている調理 担当のおかあさんたちの、家庭の味がそのまま商品化されているのが、山下屋の「味」なのです。
でも、このカレーは、それらと味の方向性 が、まったく違っていたのです。
そのまま、東京のカフェのランチで、オシャレなカフェボウルでこんもりと出されても、「おいしい~!」とOLさ んたちが喜んで食べるような雰囲気なんです。
つまり、「飛びぬけてしまった」というわけ。
「もっとな、山下屋やったらな、 『バーモントカレー』風な感じの方が、合うと思うねん。
ちょっと、もいっかい、考えてみたほうがええと思うわ~」
自信作だった だけに、山下さんはやや意気消沈に見受けられましたが、この仲間たちの忌憚のない意見は、ココロに響いたようでした。
味の方向性も、ブランドである。
現在、山下屋さんのサイトでは、例のカレーは 販売を行っていません。残念ながら、販売は終えてしまったようで幻の「美味」となってしまいました。かなりおいしかったので、私個人的には、本当に残念な んですけどね。(苦笑)
でも、おいしければいい、というものではない。
「味の方向性は、ブランドの一部である」と認識す ると、商品開発をする上では、一本柱の通った強い意志が生まれることでしょう。大手メーカーさんは、いろいろな可能性を模索して、いろいろな方向にチャレ ンジをする傾向がありますが、小さなメーカー、もしくは販売店では、やはりある程度は「これ!」という方向性を決めていくのが、運営上も、ユーザビリティ 的にも、正解なんだと思います。
観光地でも ある小豆島では、実店舗もあるため、「焼き豚丼」は大変な人気なのだそうです。 インターネットでも、雑誌やメディアに多く取り上げられ、人気の定番商品 となっています。
やはり、そうやって考えると、「焼き豚」「ハンバーグ」「メンチカツ」とくれば、「カレー」というのは自然な流れなので すよね。でもできれば、「カレー」の上に「ハンバーグ」や「メンチカツ」が乗ってもバッチリ相性が合う!というような味の方向性を定めて進めれば、同時購 入を促すいい戦略の一つにもなる、というわけです。そういう考え方をしながら、開発を進めていくと、より効果的な商品ができ上がりますね。
余談ですが、
「ミガキさん、『焼き豚ソフト』っての、考えたんですが、どうでしょうね?」という相談を受けましたが、その後どうなったのでしょ うか。(笑)
また、夏になったら確かめにいく計画を立てようと思います。