- 目次 -
凸面鏡の世界を広げ続ける「コミー」という会社
路地の曲がり角などに設置されている 「凸面鏡」(全体に丸みを帯びたあの鏡です)が、コンビニや書店などでも活躍しているのをご存じでしょうか? 凸面鏡には、万引き防止の効果に加え、レジ にお客さんが並んでいるかどうかを確認する用途もあるようで、小売店において“一石二鳥”の役割を果たす存在なのです。その凸面鏡で、国内8割のシェアを 持つコミー株式会社の販売戦略がとても面白いので、今回ご紹介することにしました。
コミーは、高度な技術力を持つ一方で、顧客に密着したマーケティングを行なっています。まず、「ここにうちの製品があると施設の人は喜ぶはず」と思ったら、「半年間、無料で設置しますよ!」とお店側に話を持ちかけるのだそうです。当然、タダでつけてくれるものを拒む人は少ないですから、ほとんどのお店が承諾してくれるんですね。
そこからお店側にヒアリングをし、どの場所にどの製品を、どう設置すればいいかを一緒になって検証し、最適な使い方を提案するそうです。さらに、設置後もたびたび顧客先を訪ねては、お店の人の声を聞いていきます。もし課題などが見つかれば、さっそくその課題を解決するための製品改良にとりかかるんです。こうしたお店側とのやりとりを商品開発に反映し、約3ヵ月に1点の新商品を生み出しているといいます (*^^)v。
リアル営業の強さが「技術力」を押し上げる
そうして半年が過ぎた頃、「そろそろ撤収しますがいかがでしょうか?」と声をかけると、たいていのお店では購入してくれるんじゃないかと思います。こういう便利なものは、買ってもらう前に使ってもらう、というのがセオリーなんです。人間ってものは、一度使って便利さを実感すると、それを手放せなくなるものですから(*^_^*) 。ましてや単価がそう高いものでもないですし、半年も使っていると店員の人も重宝しているはずですから、購入してくれる確率はかなり高いと推測されます。
それにしても、たった1店のためにこれだけの手間をかけるのはどうかと思うかもしれませんが、それがコンビニチェーンなどであれば、数店で試してもらって 好評を得れば、一気に何千店舗で導入なんてこともあるはずです。「損して得取れ」の代表的なモデルですね。だからこそコミーはいま、凸面鏡のシェアの8割 を獲得しているんです。いわば同社は、1円ももらっていない段階からお店にがっちり食い込んで、同時にリサーチまで行なっているわけです。これぞ最強の「見込客フォロー」の仕組みです。
まず先に製品を試してもらい、その効果をフィードバックしてもらい、さらにそれを新製品開発に役立てる・・・という一連の流れは、ビジネスモデルとマーケティングの両輪がうまく噛み合った絶好の事例です。世の中、技術力があっても、販売戦略で失敗する会社が意外に多いものです。とりわけ、近年は「リアル営業」の弱い会社が目立ちます。そうした面でも、同社の戦略をぜひヒントにしてください。
自社を「どうとらえるか」で会社の未来が決まる
コミーはまだ年商6億円くらいの会社ですが、この規模でそういう売り方を実践していることに正直驚きました。そう思いつつ、一歩踏み込んで同社の戦略を眺めてみると、その陰には経営者のユニークな理念があることに気づいたのです。小宮山栄社長は、「日常に存在するあらゆる死角を追求する」との意気込みで、自社商品を売ってきたそうです。つまり社長が言っているのは「うちは鏡を売っているのではなく、世の中にある“死角”をなくしているんです」と言っているわけです。そう考えた瞬間、単なる 製造業ではなく、世の中にたったひとつしかない事業になってしまいましたよね。実はここがポイントなんです(*^^)v。
ビジネスというのは、いつも自社と、お客さんと、競合他社との3者がいる環境で成り立っています。コミーの場合、競合他社とは、他の鏡製品の製造・販売会社です。ところが、「うちは死角をなくす会社です」と言った瞬間から、競合がいなくなってしまうわけです。
世の中のあらゆる死角をなくすのが事業目的なら、カメラや鏡やレンズ、センサーなど、さまざまな技術や製品を組み合わせたソリューションがいくつもでき上がるのではないでしょうか。とりわけ万引きが経営を圧迫するほどの状態になっている書店では、確実に万引きを減らしてくれるソリューションがあるなら、のどから手が出るほど欲しいはずです。こんなふうに、ちょっと視点を変えるだけで、まったくちがう会社のイメージが誕生します。この視点こそが、自社の独自性になるわけです。ぜひ、この事例を参考に、自社の存在意義を今一度確認し、それを基軸にマーケティングを見直してみてはいかがでしょうか (@^^)/~~~。