最近「FREE」というマーケティング書が売れているようですが、「無料で集客」というマーケティング戦略には、経営者の長期的な視野が不可欠であることを十分に理解してほしいと思います。自社の「何を無料」にして「何を得る」のか……「FREE」の本質をシビアに考えてみましょう。
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もしも新聞をタダにしていたら・・・
もう10年以上前の話になりますが、私の顧問先の社長がとてもおもしろい話をしていたのを覚えています。その社長は、「トップの新聞社以外は、新聞なんてタダにするべきですよね」とキッパリ言っていたのです(@_@;)。どういうことかというと、インターネットの登場で、間違いなく「情報」は「タダ」に近づくのだから、2番手・3番手の新聞社は思い切って新聞を無料にして、その代わりに他で儲けるようなビジネスモデルに変換すべきだ、と考えていたわけです。その社長は、自らの会社で本業とは畑違いのインターネットサービス部門を立ち上げており、当時から「データベースビジネス」をよくわかっていた方でした。しかしご存じのとおり、いまだそんな新聞社は1社も出てきていません。なぜかというと新聞社が考えているのは、あくまでジャーナリストとしてどのような論調をとるか、いかにして良い記事を提供するかということ。つまりマーケティングなど、営業的な考え方が基本的にはないのです。
ここに目をつけ、一番初めにサービスを立ち上げたのは、リクルートでした。「タウンマーケット」 という名のサービスで、テレビ番組表と一緒に、住んでいる地域のチラシを毎週「無料」で届けてくれる、という画期的なサービスです。近年、若者世代では、新聞の購読率が著しく落ちています。ほとんどの報道記事がネットで読める昨今、テレビ番組表が手元にあれば十分なのかもしれません。ただ、そんな若者世代も、自宅周辺にある「お得な情報」だけは気になるようで、意外にも近所のチラシが欲しいという世帯が多いのだそうです。
エリアの世帯をどれだけ押さえられるかが勝負!
リクルートは、数年前から首都圏での同サービスの実験を続け、いよいよ全国展開に踏み切りました。今、同社がどのくらいのリストを獲得しているかはわかりませんが、時流からしても、新聞社より有利な状況であることは間違いないでしょう。今後、地元企業に「折込チラシを頼むなら、新聞よりタウンマーケットだよね」という認知が広まれば、新聞はもう「折込チラシ」でも稼げなくなるということです(――;)。
もっと言えば、地域の求人情報や不動産情報などを手広く扱っているのは、リクルートです(というか、もともとこれが本業ですから)。「チラシの無料配達」を武器に、同社が地域の良質なリストを集めることができたら、そこに向かってほかさまざまな新サービスを提供することも十分可能です。「チラシの無料配達」自体では収益を挙げることが難しくても、将来の新しいビジネスに向けてのインフラづくりだと考えれば、惜しくない投資なのでしょう。
前述したとおり、マーケティングの概念がない新聞社は気づいていませんでしたが、実は、新聞配達店は「毎朝お届け」という最強のインフラと、エリアに特化した顧客データベース持っているスゴイ存在だったのです。そこに気づいたリクルートが、今後どんなビジネスを仕掛けてくるか、注目しておくべきでしょう。
何を「無料」にして、どこで稼ぐか
最近「FREE <無料>からお金を生み出す新戦略]というマーケティング書が売れているようですが、今の時代、「価値のあるものがタダ」だからみんな喜ぶのだということを、経営者はよくわかっておく必要があります。「無料のおまけ」で人が喜んだ時代は、とうの昔に終わっているのです。
たとえば、最近人気の携帯無料ゲームは、本当によくできていて、大人でも普通にハマってしまいます。最初は無料で軽く楽しんでいるつもりでも、いつのまにか熱くなってしまって、それがあるとゲームが有利に進むという「有料のツール」を次々と買い集めてしまうみたいです(――;)。ここにはしっかり「儲ける仕組み」があります。ゲームにどっぷりハマった人たちは、間違いなく「優良顧客」ですから。こんなふうに、「魅力あるタダ」で、どんな顧客リストが集まるかが、極めて重要なのです。
先の事例で、リクルートが何年もかけて実験を繰り返したように、無料で集客するという作戦には、経営者の長期的な視野が不可欠です。その判断を誤ると、会社の収益性は著しくダウンしてしまいます。ぜひ、自社の「何を無料」にして、「どこで稼ぐか」をシビアに考えてください。そのマーケティングロジックなしに、成功はありません。私がいつも言うように、「世の中は自分のためにお金を出して実験してくれている」のです。ぜひ、世の中の成功事例を参考にしながら、自社のマーケティングに磨きをかけていきましょう(@^^)/~~~。