マーケティングに関心のあるお客様に、私がクライアント企業のファンづくりをお手伝いしていると話すと、「ああ、リピーターを増やすんですね」とか「つまりは顧客の囲い込みですよね」と賛同を示してくださることが多いです。
賛同いただけるのはありがたいことですし、以前のコラムでも書いたとおり顧客の利用回数に着目する点はリピーターと同じです。
ただ「リピーター」と「ファン」とは少し違いますし、「囲い込む」わけでもありません。
ここでは企業における「ファンづくり」について、説明していきます。
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リピーターとファンとの違いは、「顧客の思い入れの状態」
私は事務所に最寄りのコンビニをよく利用します。そこそこのリピーターにあたるといえます。
ただ、その店に特別な思い入れはありませんので、事務所の隣に別のコンビニができたとしたら、そちらも躊躇せずに利用するでしょう。
コーヒーやお弁当の質だったり、レジ横のホットスナックの種類などに応じてコンビニを使い分ける利用者もいますが、私のようにただとおり道にあるからという理由だけの利用者もいます。どちらも「リピーター」になり得ます。
つまり、リピーターの背景には立地や競合の存在といった環境要因も大きく関わります。それらを総合して利用頻度を定量的に分析する概念がリピーターということです。
それに対して「ファン」とは、顧客の思い入れの状態に注目します。
よく飲み物を買いに寄るのに、その店がファミマかローソンか憶えていない、私のようなリピーターはファンには含まれません。
ファンは「同じ買うなら、この人から」「この人から買えば間違いない」というマインドを持っています。
なので、市場環境の多少の変化にあまり影響を受けません。
能動的に選んでくれるかどうか、顧客の状態を定性的にみる指標だということです。
「ファンづくり」の視点は、経営の姿勢として重要
顧客の思い入れの度合いというものは測定するのが困難ですから、数値化して売上計画と直結させる作業にはあまり向いていません。
それでも「ファンづくり」の視点は、経営の姿勢として重要です。
事業モデルがB to Bであれ、B to Cであれ、顧客に能動的に選ばれる存在になるためには、まずはできる限り貢献することがもちろん基本です。
しかし、それだけで顧客がファンになってくれるわけではありません。
「顧客満足を上げれば自然にファンが増える」というわけではないのです。では、何が必要なのでしょうか。
ファンというのは、後押しや応援までしてくれる人
私のセミナーではいつも受講者の皆さんに「自分がファンだと思うブランド」をお尋ねします。回答に多いのはアップルやアウトドア製品で有名なパタゴニアです。
ただ、彼らをお手本にするのはいかにもハードルが高そうに見えます。高いデザインセンスとマーケティング予算が人気を押し上げているような印象があるからです。
でもファンに刺さっている本質はそこではありません。
「ファン」という言葉の意味を紐解くと、「特定の事物に対する支持者・愛好者」と出てきます。確かにアップルやパタゴニアのファンだという人は、単にその商品を使っているだけでなく、彼らを支持している印象を周囲に与えます。
「支持」というのは「意見・主張に賛成して後押しをすること」。
つまりファンというのは、単に好きなだけではなく、後押しや応援までしてくれる人、ということです。
「ファンになる」ということを具体的にイメージしてみる
ファンの存在がもっとイメージしやすい例で考えてみましょう。
アイドルやアーティスト、あるいはスポーツ競技のクラブチームなどは、企業ブランドよりも熱狂的なファンがいることが当たり前の分野です。アイドルに熱を上げた過去や、ひいきのスポーツチームは誰でも持っています。
例えば、アイドルのファンになるときには、その人のルックスがまずはフックになります。イケメンなのかカワイ子ちゃん(死語)なのか。まずはルックスから入ることが多いですよね。でも、それだけでは決まりません。もっとも人気のあるアイドルは、単純にもっとも姿形が良いのかというと、そうでないことは誰でも知っています。
表情の幅や話す内容、言葉の使い方、立ち居振る舞いなどから感じ取れる人柄などは、その人を好きになるときに、純粋な見た目以外での大きな要素です。どんなふうに育ってきたのか、何を考えて、何を目指しているのか、アイドルといえども内面性まで見られているのです。
アーティストを好きになるときには、音楽や絵画など、その作品性が入口です。作品が複数あっても、それぞれの創作の方向性や質の高さ、もちろんアーティスト本人のイメージも含めて、テイストやメッセージ性が一貫していることが重要です。
一貫性がないと評価が定まらない以前に、そもそも捉えどころがないので識別することから困難です。
スポーツチームは、単に拠点が地元だとか、好きな選手がいるとか、ファンになるきっかけは多種多様です。ただ、思わず応援したくなるような戦いぶりはチームの魅力として外せないでしょう。野球であれば、豪快にホームランをブチかまして勝負を決めるのか、適時打と走力で畳みかける機動力なのか。
サッカーのワールドカップで優勝した際のなでしこジャパンの人気の高さは、自陣ゴール前で全員が身を投げ出してシュートを止めに行くひたむきさに一端があったと思います。
キーワードは「キャラクター」と「ファンの居場所」
さて、ビジネスの領域から少し脇に逸れてファンになる気持ちを考えてみました。共通してそうな部分を挙げてみます。
- 「ファンになるか、ならないか」。その判断の対象を大雑把に括ると、人、作品、チームなどの「キャラクター」だと言えます。
- そのキャラクターは概ね、その人自身や構成員に基づくものです。人間の性格は毎日ころころとは変わりません。バンドやチームも長いスパンで見れば人員の入替はあっても、短期間に大半がごっそり変わることは通常はありません。そこから醸し出されるキャラクターも、一貫性が維持されます。変化する場合は長い時間かけて移っていくので、ファンも変遷についていくことができます。
- ファンになって欲しがっていることが顧客自身に伝わっています。
はっきりと「応援してください」と発言することも多いですが、コンサートの観客席やスタンド、ファンクラブなど、ファンの居場所がきちんと用意されています。自分以外にもファンがいることがわかることで安心してファンになれる、という効果もあります。
このように「ファンの多い業界」では、どこを好きになってもらうのか、その対象がはっきりしていて、さらに、ファンになってもらいやすい環境が整えられていることがわかります。
ビジネス領域でも「ファン」の構造は同じ
実ビジネスの領域でもファンの多い企業などは同じ特色を持っています。
企業の価値観を顧客に伝えることは、商品・サービスの顧客満足を上げることと直結するわけではありません。それでも、自分たちがどういう思いで事業に取り組んでいるか、何を目指しているか、という事実は、顧客が選択肢のなかから選ぶ際の重要な手掛かりとなります。
どこを応援してもらうのか、主張がはっきりしている
応援してもらうからには、「後押ししてもらえるような意見・主張」が必要です。人間が人間をみるときは自ずとその人の「キャラクター」が見えてくるものですが、企業や商品ではそういうわけにいきません。企業のキャラクターを形作るのは、ロゴのデザインだけではなく、事業活動や商品開発の背景に込められるべき思いや主張です。
先に例で出したアップルやパタゴニアにファンが多いのは、商品のラインナップやデザインに、彼らの主張や価値観がくっきりと表れているからです。
「ウチには特に主張はないのですが」という経営者もよくいらっしゃいますが、そんなに謙遜する必要はありません。創業や商品開発などを決めたときには、解決したい問題や、実現したい将来に対して、何らかの思いや独自の発想などがあったのではないでしょうか。
だからこそ、これから起業する方には、この「思い」を維持することを今から意識しておいていただきたいです。
一貫性を保持している
好きなブランドを尋ねると、アパレルのブランドや、男性だと自動車のブランドが挙げられることが多いです。「ブランド」という言葉からアパレルを想起しやすい事情もありますが、アパレルはシーズンごとに新作が発表されます。自動車は数年でモデルチェンジされます。いずれも定期的に商品を刷新する、という共通項があります。
見た目を変えることを目的としながら、一方で底流の価値観は一貫していることを定期的に伝えられる業種でもあるのです。
毎回主張が変わるブランドは信用されません。スポーティな車種を2年後に重厚なセダンにモデルチェンジしたりしたら、顧客は安心して思い入れを持てません。
自社の価値観には常にブレがないことを顧客に伝えましょう。
新商品を出すまでのスパンが長い、あるいは一度購入されてから次の購入までの期間が長い業種では、商品以外の顧客との接点のなかでアピールをします。
伝統的には、事業者の顧客との接点は、
- 商品告知(宣伝など)
- 商品
- カスタマーサポート
の3点だけでした。主張を伝える機会は限られていました。
現在はインターネットのおかげで、安いコストで顧客とのコミュニケーションという接点を持てます。SNSなどで集客する際にも、自社の主張・価値観との齟齬がないことが重要です。
応援する場所が用意されている
応援してほしくない人を応援するモノ好きはあまりいません。
顧客が安心して応援できる場所を用意しているということは、応援を欲している企業だということ。
SNSやWEBサイト等に顧客のコミュニティがあるというのは、まずはそういう意味です。さらに上記の顧客とのコミュニケーションの重要な機会にもなります。
まとめ
主張や価値観と事業内容の一貫性に納得した顧客が、商品を選ぶだけでなく応援までしてくれる存在になり得るのです。
ファンづくりの要諦はそうした自社の専門性を正しく訴求することで、顧客に選んでもらう道筋を整えることです。「顧客に選んでもらう」という姿勢が重要です。選ぶのはあくまで顧客の意志だということ。
これがファンづくりと、「顧客を囲い込む」という大それた考え方との根源での差です。
顧客と牧場の羊は同じではありません。
「同じ買うなら、この人から」「この人から買えば間違いない」という気持ちを持ってもらうためには、「選んでもらうために、どう貢献するか」を考え、実践することが近道なのです。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏
(株式会社エストVISION 代表取締役社長)
学生時代からマーケティングを専攻し、大手エンタテイメント企業のマーケティング担当として従事。
事業を創業した際に必要な顧客は集客活動ではなく「相手に貢献したいという思いが連れてくる」を信条として商いの理想を追求し続ける。
業種にとらわれず多数の事業で「ファン作り」のメソッドを提供。
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