前回のコラムでは、営業におけるコミュニケーションのポイントの1つ目について記述しました。今回は2つ目のポイントについてお話します。
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■見込み客は思惑とおりに動いてくれない
2つ目に、「肯定的な問いかけが奏功することばかりではない」ケースを紹介します。 例えばあなたが、見込み客に送付した資料への反応を知りたいため、電話をかけてみたと仮定します。電話の相手に対して、どのような問いかけをしますか?
「お送りした資料は、見ていただけましたか?」
「ご検討いただけましたでしょうか?」
すでに取引があり、ある程度は対等な立場の相手なら、これでも問題ないでしょう。お互いの仕事を円滑に進めるためには、資料等を見てもらえていることが当たり前、検討してくれていることが前提で会話を進めるからです。
しかし、あなたは営業マンです。見込み客が顧客になってくれるのかどうかは、これからの交渉しだいです。するとたいていは、「見る暇がなかった」、「まだ結論は出てないのだ」といった「ノー」から始まる会話になるのではないでしょうか。
「いいえ」、「まだ」といった“否定するリズム”のお客様は、「また見ておくから、今日はごめんなさい」「忙しいものだから、結論が出たらこちらから連絡する」と続きやすいものです。
検討していて欲しいという願望があっても、何の考えもなしに自分の気持ちばかりをぶつけてはいけません。相手にプレッシャーを与えたくても、お客様にはあなたの思惑とおりに動かなければならない義理はないからです。
まして、「あっちゃー、そうでしたか」といかにも落胆した口調をしてみせても効果はないでしょう。
■お客様が「イエス」と言いやすくなる会話が大事
では先に述べた、お客様の「ノー」の返事で始まる会話の反対で、「イエス」の返事で始まるように話してみます。
「鈴木様もお忙しくていらっしゃいますから、まだご覧になられていないと思いますが」 ここで一旦(1秒程度)間を空けます。
たいてい相手は、「はい」とか、「そうだね」と肯定します。そうしたらあなたは、(例ですが)こう続けてください。
「資料には、すべてのコースが載っていますので、お客様に本当に必要なものだけ選び出した場合の見積金額をあらためてお伝えしているところです」
「あ、そうなの」
「はい、そうなんです。鈴木様、よろしければ今日の午後3時以降でしたらご在社でいらっしゃいますか」
そうやって、アポイントメントを取る流れにもっていきます。
もちろん、「まだご覧になられていないと思いますが」と切り出したとき、「いやいや、ちゃんと見たよ」と言ってくだされば、お礼を述べればよろしいのです。
万能……とまではいきませんが、覚えておいて損はない言い方です。
■顧客視点を持ち、お客様を不快にさせない
応用編として、このような使い方もあります。
あるファミリー向けの商品を大規模マンションの集会所を借りて販売している企業のケースです。その説明会に来ていただけなかった住民の方には、後日戸別訪問を行っているとのことですが、芳しい結果は出ていませんでした。けんもほろろに断られてしまう、とのことです。
相談を受けた私は、営業担当者に、セールストークを再現してもらいました。
ドアをノックし、挨拶、社名、氏名を名乗ったあとは、こう続きました。
「先日、集会所で説明会をやらせていただいたのですが、お越しいただいていなかったようですので、お伺いいたしました」
これでは、説明会に参加しなかったお客様が悪いみたいに聞こえます。私がお客様の立場なら、「説明会に行こうが、行こまいが、私の勝手ではないか」と思ってしまいそうです。
受けた印象をそう伝えると、営業担当の方は次のようにおっしゃいました。
管理会社に営業の許可も取らずに勝手に入り込んでくる業者もいるが、自分達は違うのだ、ということを暗に示したかった。また、説明を聞くことは当然ですよ、という雰囲気を出して強気でいきたかった。
少し、顧客視点が不足しているようでした。そこで、アプローチトークを変えてもらったところ、話の続きをすんなりと聞いてくださるお宅が増えたとのことです。
実践していただいたアプローチトークは次のとおりです。
「先日、集会所で説明会を開きましたが、お客様のご都合と日程が合わずに、誠に申し訳ありませんでした」
つまり説明会に来られなかったのは、こちらが決めた日程の組み方が悪いのであって、お客様には申し訳ないことをした、と。先に謝られたお客様にとって、不快な印象はないでしょう。実際の反応も柔らかかったようです。
「ああ、こちらこそ、ちょっと出かけていたもので」
「集会所で何かやっていたの? わざわざごめんなさいね」
その後のトーク展開が非常にやりやすくなります。
営業シーンでやり取りされる会話について、よく「会話のキャッチボール」という言い方をします。キャッチボールは、投げるより、受けるほうが難しいものです。
営業ですから、お客様はどんなボールを投げてくるかはわかりません。しかし、私たち営業マンは、相手が受けやすいボールを投げたいものですね。