前回はおもしろい企画をサービスとして実現する方法について、事例を通じてお話させていただきました。今回は既存の商品やサービスをおもしろい企画で集客アップや売上アップにつなげる方法についてお話させていただきます。
クライアントのウェブプロデュースに関わっていると、「いい商品だから必ず売れる」「ニーズがあるから間違いない」という声を頻繁に耳にします。商品やサービスに愛情を持つことはよいことですが、いい商品やサービスを作ったからといって自動的に売れるかというと、それは違う話となります。一流のシェフがいて食材にも徹底的にこだわったレストランでも、お客様に食事をしに来ていただかないことには始まりません。そしてそのためには、チラシを配ったり、人とおりの多い場所にレストランを構えたりしてレストランを見つけてもらう必要があります。
ウェブにおいてはマーケティング戦略の一環として、検索エンジン対策が欠かせません。しかしここでは企画でどのように盛り上げていくかについてお話させていただきます。
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マーケットは作るもの
1979年、ソニーはウォークマンを生み出しました。ウォークマンは同時に「個人で音楽を楽しむ」という文化も生み出しました。当時、音楽は大勢で楽しむものであったことから、企画当初は社内外で懐疑的な意見も多かったといいますが、ソニー創業者の井深大(当時名誉会長)や盛田昭夫(当時会長)が責任と情熱をもって進めたことで、新しいマーケットを切り開き、世界的に大きな成功を収めました。おもしろい企画はマーケティングからは導き出せないケースも多く、ウォークマンのように新しい文化を作るまでの企画を生み出すのは難しいのですが、「マーケットは作るもの」という好例と言えます。
私がウェブプロデュースに関わったクライアントで、グッズ販売のためのECサイトを運営している会社がありました。職人によるハンドメイドのグッズは質も高く、一度ご使用いただいたユーザーからは大変好評をいただいておりましたが、新規ユーザーの獲得に苦戦していました。そこで、企画力で広めることにしました。
まずクライアントとお付き合いのあったタレント事務所やテレビ局にコラボレーショングッズの提案を行いました。タレントやキャラクターを活用した企画を作り、マスメディアおよびソーシャルメディアを通して認知していただくことを狙いました。グッズの制作コスト面から企画の実現は難しくなりましたが、最終的にはテレビドラマ使用のグッズを全面的にクライアントで販売できることとなり、著作権による制限はあるものの、「タレント使用」「テレビドラマ使用」という、他社との差別化が図れる企画の骨子ができました。そこでECサイトをリニューアル、サイトイメージを「町の小売店」から「高級ブランド店」へと変え、ソーシャルメディアでクチコミを広げる仕掛けを行いました。これで「タレント使用のブランドグッズを購入できるオシャレなECサイト」としてプロモーションすることができ、クライアントにとっては新規ユーザー獲得という新しいマーケットを切り開くことができました。
誰がハッピーになるかイメージする
ただこれだけでは、企画としては弱いです。そこでグッズがどれだけ使い勝手がよいか使っているシーンを思い浮かべやすいように、メインユーザーとなる女性にさまざまなシチュエーションでグッズを使っていただき、レビューを掲載することにしました。そこにデザイナーや職人のこだわりや制作工程をポイントに加えて、ユーザーが購入する際の説得力を持たせました。
既存の商品やサービスを訴求するにあたり、その商品やサービスがどれだけ優れているかということに注力してしまいがちです。しかしユーザーにとっては、その商品やサービスを使うことによってハッピーになれる自分をイメージできることのほうが、ずっと心に響きます。今回の場合は、一般の女性に日常生活でタレント使用のグッズを使っていただいたことで、「タレント気分でグッズを使うライフスタイル」をユーザーがイメージしやすくなりました。
結果、ECサイトのページビューはリニューアル前に比べ3倍近くなり、グッズの販売も2倍以上となりました。また相乗効果で既存グッズも堅調に売上高を伸ばすようになり、新規ユーザー獲得という当初の目的を達成することができました。
一点突破型で目立たせる
おもしろい企画をサービスとして実現する方法と比較すると、既存の商品やサービスをおもしろい企画で盛り上げる方法はハードルが高いかもしれません。それでもその企画が突き抜けていれば、話題とすることが可能になります。特にウェブにおいては、他社と比べて平均的に優れているだけでは他社のウェブサイトの中に埋もれてしまいます。バランスが悪くたって構いません。「これだけは負けない」という強みがあれば、そのマーケットで目立った存在になります。
既存の商品やサービスをおもしろい企画で盛り上げる前に、まずはたったひとつの強みを見つけて、それを伸ばすことからスタートしてはいかがでしょうか。そこからヒントは得られると思います。