- 目次 -
広告には、「意外性」が必要である。
そもそも「広告宣伝」に 必要な要素とは何だろう?森さんによれば、それは「意外性」だという。もちろん、広告によって伝えなければならないコアな部分はあるだろうが、それをどの ようなかたちで伝えるかが、忘れてはいけない広告の重要な要素だという。
「たとえば、起業して新たに作る名刺。これだって 作るからには「広告」になるんだって考えなくてはね。名刺はふつう自分の氏名や住所よりも、携帯電話番号とか、eメールアドレスが大きいことはないよね。 でも、僕の名刺は全く逆で、多少小さな文字が見えにくくなった人にもわかりやすいように、電話、それも携帯電話のナンバーと、一番やりとりが多くなるe メールのアドレスをめいっぱい大きくしてあるんだ。普通の人は、名刺交換すると驚くよね」
これも森流の意外性の表現だそう だ。もちろん、字が大きいだけでなく、効果的にデザインもされているからこそ、広告クリエイターとしての名刺として役に立っているのだろうが。
「普通の人は、個人名がいちばん大きくて、次に大きいのが社名。それから住所・電話番号・eメールアドレスが同じくらいの大きさって決めつけているよね。 でも、広告するときは、そんな常識を疑ってかかることも必要だと思う。先入観をなくして、世の中の人が考えつかないような表現アプローチから人の印象に残 るモノが生まれてくると思うんだ」
なるほど、先入観を裏切るアプローチは、見ている人には新鮮に映るし、目を留めやすく、 広告の第一義的な要素である「目立つ」というところにもつながっているということは事実であろう。このことは、起業時の広告制作に忘れてはいけない要素だ と思う。世の中に氾濫する情報の中で、いかに意外性を打ち出して消費者の目に留まるか。どうしても正攻法で行きたくなるのも理解できるが、意外性あるアプ ローチも忘れてはいけないのが、広告制作のツボなのだ。
「考 え落ち」がある広告は、効果的な広告である。
意外性のある広告で目を留めてもらった。次は、見てもらった人に考える時間を持ってもらう ことが必要であるということを、森さんは主張する。
「落語でいう『考え落ち』が、広告にも必要だと思う。つまり、広告を見 た人が、この広告って、何をいっているの?と疑問をもってもらい、そうか、そういうことかと納得してもらう。その一連の時間的な流れは、頭の中で考えてい るってことだよね。それは、広告効果につながると思うんだよね。頭の中に停滞する時間を作るっていうか、印象を深く残すための時間といったらいいかな。い かに長く広告に目をとめてもらうのかが、広告の役割だとしたら、一目瞭然でわかってしまう広告は、一瞬にして忘れ去られてしまう広告ともいえるよね」
「僕の作品の中に『店員は無愛想だが、カメラは安い』というカメラ量販店のコピーがあるんだけど、店員さんの無愛想加減とカメラの売価とは直接的にはなん にも関係性はないよね。普通は、大量仕入だからカメラが安いとか、いうんじゃない。でも、その広告を見た人は、店員の無愛想がカメラの売価にどうつながっ ているんだと、ミステリアスな興味をおぼえると思うんだ。そこがポイント!ある人は、『カメラが売れすぎるから、忙しい店員は無愛想になるのか』と思うか もしれないし、ある人は、『何でこの広告は無愛想なんてマイナスのことをいってるんだ』とか、また違う人は、『一度、その無愛想な店員を見に行ってやろう か』と思うかもしれない。つまり、その広告を見て、カメラが安いという即物的な情報=瞬時に忘れ去られてしまいそうなこちら側からのメッセージ、プラス、 考えさせる情報=無愛想な店員も提供して、広告を見た人の頭の中で意味を理解しようとする時間、を作っているんだね」
起 業して、初めて広告制作に携わる時に、広告というのはわかりやすく伝えなければいけないと思っている人が多いと思う。でも、広告制作のプロにいわせると、 「意外性」と「考えさせる時間」が広告に必要だということである。どうしても最初の広告というのは、迷ってしまうことが多いと思うが、森さんの言葉を参考 にしてもらえば、効果的な広告が作れると思う。