- 目次 -
相手を圧倒するコミュニケーションのとり方には問題も多い
こ れまでにも心理学をビジネスに応用しようという動きはありました。
しかし、そのほとんどは、いかに相手を圧倒するかということだったように思い ます。
例えば、交渉の場で相手より心理的に優位に立つかとか、ノーと言いにくくなるトークの方法とか、情報をどう操作して説得するかなど といったことが、あまりにも偏った視点で伝えられることもありました。
スポーツやゲームなど対戦を楽しむ場では、試合の面白みを倍増させ るための心理学の活用もあるものですが、それが企業と消費者という立場で商品の購入という場面では、同じようなわけにはいかず注意が必要です。
催眠商法に代表されるようなやり方は、さまざまな心理研究の結果が悪用された結果です。
もちろん、私がお伝えしたい心理マーケティングは、この ようなものではありません。
なぜ欲しかったものと違うものを喜ん で買って帰るのか
それでは、心理学のビジネスの応用にはどんな可能性があるのでしょうか?
例えば、こんな話がありま す。
ホームセンターにある中年の男性が訪れて、電動ドリルはどこにあるかと聞きました。
す ると、店員は電動ドリル売り場はあちらですと売り場を案内し、その男性は一番安い電動ドリルを買って帰りました。
「○○はどこにあります か?」と聞いて、「○○はあちらです」と案内する。
ごく普通のやり取りです。
悪くはありません。では、ここで店員が別の 対応をしたらどうでしょうか?
ホームセンターに別の中年の男性が訪れて、電動ドリルはどこにあるかと聞きました。
すると、別の 店員はこう答えました。「はい、電動ドリルをお探しなんですね。ドリルはあちらにあります。たくさん種類があるのですが、どんな用途にお使いになるんです か?」
それから、その男性は、息子の夏休みの宿題で木の板に穴を開ける必要があること、木の板も一緒に買おうと思って工作の本に載ってい た図面も持ってきていること、普段は大工仕事をしないので本当はすべて作るのが不安なことを店員の質問につられて話しました。
そして、しば らく店員と話し合ったあとに、電動ドリルは買わずに木の板を図面とおりにお店でカットして穴をあけてもらったものを買っていったのです。
結果的にこの男性は、当初考えていたのと違うものを買って帰っていきました。でも、この男性から欲しいものと違うものを売りつけられたと苦情がくることは ないでしょう。なぜなら、彼は自分が本当に望むものを自分で気がついて自分で決めて買っていったからです。
顧客は 自分の知識の範囲で勝手に判断して、欲しいものを決めます。そのため本当の要望というのは、なかなか表面には出てきません。通常は、売る側の方が商品の知 識は豊富にありますから、本当の要望が分かればそれに合った提案もできますが、これがなかなかできません。
本当の要望を聞き出す効果的な 質問ができれば良いのですが、従来はそうした質問方法を教わる機会がないからです。
質問によってさまざまな選択肢、可能性に気づく
セラピーやカウンセリングの現場では、 さまざまな効果的な質問が実践的に使われます。その目的の一つは、相談者の限定的な世界観を見方を変えることによって、さまざまな選択肢や可能性に気づか せることです。
そして、この方法をビジネスの現場で使うと、前述のホームセンターでの出来事のようなことが起こります。この他にも例え ば、新築の注文住宅を建てる工務店がこれらの質問法やコミュニケーション方法を活用した結果、非常に強い信頼関係を構築することができ、かつ短期間で契約 することができるようになったなどの事例があります。
しかも、営業担当者は顧客の言いなりになるのではなく、当初の希望とは違う仕様で あったりしても、見積もり合わせで金額が高くても、顧客はやっと自分の納得のいくものに出合えたと喜んで契約していくというのです。
いかがでしょうか?
顧客も自分も納得した商談ができ、商売を通じてお互いに幸せを感じる使い方の方がよいとは思いませんか?心理学の研究 結果はそれ自体は良くも悪くもありません。それを知った段階では、ただ単に知識を手に入れたにすぎません。良いか悪いかは、結局は使い手にゆだねられてい るのです。
せっかくの先人たちの仮説と検証の結果の積み重ねです。どうせならよい使い方でよりよい知恵、成果を作り出すような活用のしか たをしたいものですね。